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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖犬エクスカリバー

作者: 赤の虜

短編です(-_-メ)

「勇者よ、よくぞここまで辿り着いたものだ」


 魔王城。

 俺こと勇者エンタムは、魔王の脅威から世界を守るため、仲間と共にこれまで数々の困難を乗り越えてきた。

 勇者一行は、勇者である俺、聖女、剣聖、賢者、そして聖犬エクスカリバー。どういうわけか代々勇者が扱ってきた聖剣なのだが、俺が封印の場所に行ったら、犬がいて、なんやかんやあって、その犬がとある状態なることで聖剣になることが判明し、同行者ならぬ同行犬としてエクスカリバーが加わったのだ。

 俺達は戦った。それこそ粉骨砕身のような鬼気迫る勢いで戦った。しかし、俺達は人類側からあまり称賛させることはなかった。理由がはっきりしていたからか、俺以外の勇者一行は人類に対して怒ることもなく、むしろ人類側に立って俺を非難した。

 そう、人類側が一律に非難しているのは俺に対するものだった。こんなにも頑張って人類のために戦っているのに何を非難されるのか。それは俺が全然聖犬を使わないからだ。どれくらい使わないかと言うと、聖犬ことエクスカリバーが聖剣の生まれ変わりであると判明するに至ったエクスカリバー事件以来これまで一度として使っていない。聖犬はもはや愛玩犬と化し、勇者は聖剣を使わずに戦っているから、人類のために本気で戦っていないと思われているのだ。

まあ、実際に使わないためにありとあらゆる手を尽くして魔王軍と戦ってきたので間違ってはないのだが……。

そんな事情もあって、俺の代の勇者一行は苦労したことだろう。人一倍努力する勇者ではあっても、勇者たる所以たる聖剣は使わないのだ。ある時は偽物説まで出たくらいだし。

本当に苦労した。数ある戦いの中でも魔王の手足として配下を率いて侵攻してきた四天王には手を焼いたものだ。世界を支配しようなんて暴力的なことを言っているくせに、魔王の手下の四天王は互いに連携が上手く、むしろ人類側が補給の滞りで負けるなんて事態もあったくらいだ。そのときの奴らは補給バッチリですごく活気溢れていたことを覚えている。分断するのに苦労したし、挙句四天王の誰もがやたらと強くて勇者一行で戦っても不利になるという強敵だった。特に最後の四天王、堕天使エルフォードはやばかった。元々天使だったこともあり、聖女の神聖魔法がまったくと言っていいほど効かなくて、何度仲間からいいから早く聖犬使えと催促されたことか……使わなかったけど。

そんな苦労を重ねてこの度の魔王戦だ。

本当に長かった。こいつさえ倒せば、俺は今後一切、俺の足元でキリッっと腹の立つ決め顔をしているエクスカリバーから解放されるのだ。

……ようやく。

と、感慨に耽っていたことが間違いだった。これまで聖犬を使うものかと神経を擦り減らすような緊張の糸が緩んでしまった。相手は魔王。史上最強の相手にその油断は致命的だった。


「闇魔法アビスホール」


 たった一言で、突如地面に発生した闇によって、俺と聖犬以外が吸い込まれてしまった。


「勇者と魔王の決戦に、邪魔者はいらんからな。まあ、安心するといい。あれらの命は貴様が我を倒すことができたなら自ずと解放される。なあ、勇者よ、仲間の命が褒美とあれば、やる気も出るだろう?」

「卑怯だぞ、魔王め!」


 王様のところで読んだ文献と違うじゃないか! 勇者一行対魔王で戦うんじゃないのかよ! 

 

「滅ぼしてやる! ゼロ・ブラスト!」


 激昂したように振る舞って俺は魔王との距離を詰め、聖犬なしでの最大火力を叩き込んだ。まあ、四天王戦で何度か人質取られて、取り乱したこともあったからな。こんなときほど冷静に対処しないといけないことはもう学んだ。

 ゼロ・ブラスト。

 この魔法は存命だった先代賢者に教えを請い、体得した魔法で、限界まで圧縮した爆炎の術式を体内で保管し、使用時に開放する便利な魔法だ。

 常人なら体内で抱えきれなくて破裂するらしいが、そこは勇者の身体の性能からか、俺はこれを同時に十個ストックできる。四天王戦でのメイン攻撃となったもので、三回当てれば四天王での致命傷となる威力だ。

 相手は魔王だから、倒すとまではいかないまでも、多少はダメージが通るだろう。

 

「痒い」


 その呟きを聞いたから、俺は壁に激突していた。

 見えなかったが、何度も殴られたのだろう。身体中が打撃の衝撃が残っている。

 それでも、俺は立ち向かった。

 ゼロ・ブラストを推進器代わりに用いて、今度は接触した状態で当てようとするも、その前に殴り飛ばされ、追撃に巨大な黒炎に身を焼かれ、何度も繰り返す内に虫の息となって、地を這い、身体が思うように動かなくなった。


「つまらん、つまらんぞ、勇者」


 魔王はそう言ってから、俺のところへとエクスカリバーを投げ捨てた。着地に失敗し、エクスカリバーの悲痛な鳴き声がする。


「勇者は聖剣を用いるからこそ我と対等に渡り合える。我は知っている。貴様がこれまで頑なに聖剣を使用せず、我の手足たる四天王を破ったことを……。そのときは胸が踊ったものだ。勇者本来の力を用いずに我まで辿り着いた猛者だ。聖剣を使えば、さぞ強い違いないと」


 魔王の足が俺を踏みつける。


「それがなんだ。我を前に聖剣すら使わずにこの無様な始末。人類の希望が聞いて呆れる」


 魔王は深くため息を吐き、俺から足をどける。


「このまま人類を滅ぼしていいが、好敵手を倒した果てに世界征服を成し遂げねば、酷くつまらん。……ゆえに気は進まんが、貴様が本気を出すようにお膳立てしてやろう」

「な……にを」

「聞いたところによると、貴様、我が人質に取った聖女と恋仲にあるようじゃないか」

「やめ……」


 魔王は宙に現れた漆黒に手を突っ込み、その手に聖女の頭を鷲掴みしていた。

 意識が途切れそうになる中、俺は頭を掴まれ、意識のない状態で苦痛に顔を歪ませる聖女を見上げた。


「やめ……ろ」

「なら、聖犬を使え」


 聖女は俺にとって大切な人だった。

 聖女なんて肩書きに合わず、みんなを引っ張っていく肝っ玉母さんのような性格だったが、俺はそんな彼女に惹かれていた。

 そんな彼女が今、俺の我儘で死のうとしている。

 こんなことで彼女を失っていいのか、勇者エンタム。お前がただ聖犬を使いたくないという理由だけで大切な人の命を失って、お前は満足なのか?

 …………。

 使おう。

 聖犬エクスカリバーを!

 

 俺はエクスカリバーを探して、自分の近くの手をジタバタ動かす。

 そして、エクスカリバーを探し出し、掴む。

 眼前に持ってきたつぶらな瞳の雄犬、エクスカリバー。

 彼に対して、俺はある力を使う。


 固有スキル:誘惑。発動。

 聖犬エクスカリバーは左腕が最もタイプなめ……雌犬に見え……見えるようになる!


 効果は絶大だった。

 俺の固有スキルで発情したエクスカリバーは尻尾をブンブン振り回し、息も絶え絶えに俺の左腕に盛り始め……ガッチリと俺の左腕を掴んだ状態で固定された。

 ちなみに、腰の動きが止まることはない。ただ手足のみが固定されたのだ。

 そして、次にエクスカリバーの尻尾がピンッと伸び、徐々にそのサイズが太く、長く、固くなっていく。

 ここまで説明すればお分かりいただけただろうか?

 なぜ俺が今まで頑なに聖剣ならぬ聖犬を使おうとしなかったのかを。

 この聖犬。なんと発情することで聖剣に変身するのだ。しかし、効果時間はエクスカリバーが発情している間だけ。加えて、この犬は発動中、俺の腕のことを雌犬と勘違いして、盛り続けるという悪魔的な仕様となっている。

 腹立たしいことに、全身に力が湧いてくる。腐っても聖剣ということだろう。魔王につけられた傷は瞬く間に癒え、俺は魔王を睨みつけて立ち上がった。


「聖剣は使ってやる。だから、聖女を離せ」

「良かろう、我も人質がいるから負けたと言い訳されたくはないからな」


 聖女は再び漆黒の渦に呑まれた。

 正直命が無事なのか、確信がないが、あのまま残っていても俺の攻撃に巻き込まれて死んでいただろうからな。

 くそっ、気持ち悪い。この犬、生暖かい吐息を吐きながら、盛り続けてやがる。

 それもこれも……。


「魔王……全部てめえのせいだ!」


 俺は聖剣の切っ先を魔王に突きつけた。

 すると、聖剣から光のレーザーが直進し、魔王の片腕を吹き飛ばした。

 

「なんだと! ただの剣ではなかったのか!」

「うるせえよ」

 

 必死に逃げる魔王を、俺はレーザーで追跡していく。

 魔王の表情には焦燥が、俺の表情には手元の気持ち悪さに対する怒りがあった。

 それからは終始俺が魔王を圧倒した。

 レーザーでは追いきれないと判断し、近接戦に移行。黒炎に、様々な闇魔法、そして肉弾戦をもって俺から逃げながら攻撃してくる魔王に対して、俺はひらすら聖剣でそれらを切り捨てていき、ついには魔王を追い詰めた。


「聖剣諸共滅べ、魔王!」


 俺は全力の魔力を込めて、魔王に最後の一太刀を浴びせ、魔王討伐を果たした。

 魔王の言っていた通り、奴が倒されてすぐに仲間は足元から現れた闇より解放された。どうやら嘘は言っていなかったらしい。仲間達は一応、スヤスアと寝息を立てている。

 その様子を見て、俺は心の底から安堵のため息を漏らした。


「良かった……見られなくて」


 安堵した俺の手元には依然として、盛り続ける聖犬がいた。

 聖剣になる犬、エクスカリバー。

 犬から剣になるためのファクターはエクスカリバーの発情。

 そして、剣から犬になるためのファクターは出すものを出し、エクスカリバーが正気に戻ることだった。

 つまり。

 既に魔王を討伐したというのに、俺はこいつが終えるまで待たなくてはならないのだ。


「エクスカリバー……お前がいたから魔王を倒せた。でも、これだけは言わせてくれ」


 …………。


「お前なんか二度と使わねえ」


 人知れず、勇者エンタムは聖剣と決別することを心に決めた。


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