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02 ここは・・・楽園?

 ーーここは・・・どこだ・・・?


 気が付けば俺は、真っ暗な暗黒世界にただ一人だけ立っていた。

 手を伸ばしても何かに触れることはないし、足元の感触を確かめても何も感じない。

 視界の先の黒い世界はどこまでも続いている。

 俺はなぜこんな陰気臭い場所にやってきてしまったのか、一から振り返ることにした。

 

 ーー確か山下さんと打ち合わせして、それから・・・。


 そこからは、この場にいる答えを見出すのに長い時間はかからなかった。

  

 ーーそうだ、誰かに殴られたんだっけか・・・。

 

 俺の気持ち悪い行動が招いたことだから、加害者に責任はない。

 ああいうことは、家に帰ってからやるべきだったと俺自身も後悔していた。


 にしても、気絶する時って本当に自覚がないものなんだな。

 気絶って今までしたことなかったから、なかなか貴重な体験を得られたかも?

 小説のネタに出来そうだったから、殴ってくれた加害者には感謝の言葉しかない! どうもありがとう!


 ーーって、そんなこと言っている場合か!気絶ってどうしたら目覚められるんだ!?


 何も触れられず、何も感じない。それに加えて、何も見えないこの状況。

 ここから目覚めるにはどうしたらいいのか全く分からない。

 俗にいう「詰み」っていうやつだろう。


 ーーいやいや、このまま目覚められなかったら、絶対に心病むよ? 発狂するよ?


 「人」という生き物は、狭い空間や暗い空間に一人立たされると狂乱状態に陥ってしまう。

 どうやら、俺もれっきとした「人」のようだ。


 ーーって、そんなことも言ってる場合じゃないっての! どうすんだよこれ! このまま目覚められなかったらアニメ化の話もなくなっちゃうだろうが!


 せっかく「アニメ化」という一つの夢が叶うのに、話がパーになったら俺は自殺しかねない。

 そのぐらい、自作のアニメ化を心から喜んでいたのだ。

 だからこそ、俺は早く目覚めなければならないのだが、この世界から抜け出す方法が分からない。

 俺はどうすればいいんだ?


 そんな絶望のどん底に叩き落されかけている俺に、一筋の光が手を差し伸べる。

 

 ーーこれはあれか? よくアニメとかに出てくる、現実に引き戻される時に現れる光か・・・?

 

 もしそうだとしたら、この光に手を伸ばす他ない。

 そうすれば、現実世界に戻ることができるのだから。

 そして、俺が光に手を差し出したーーーーその時。


 ーーあなた様はここで留まるお方ではありません・・・、ここから始まるのです・・・。


 どこかで聞いたことのある言葉が頭の中に響き渡った。

 確か、山下さんが口にしていたような・・・って俺の小説の中の言葉じゃねーか!

 どこかで聞いたことあると思ったら、山下さんが口に出して読んでいたから聞いたことあったのか!


 そして、俺は自分の考え出した言葉と同時に、つまみ出されるように天高くへと舞った。

 意識を強く保とうとしたのだが、脳が、瞼が、それらを一切許さない。

 消えゆく意識の中、俺は急展開に抵抗することなくどこかへ連れ去られた。


 なぜ、ピンポイントにその言葉だけが頭の中に聞こえたのかは不明なままーーーー。



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 俺の意識は再び覚醒を果たした。


 今度の世界は、暗黒世界と対極にある世界と言っても良いだろう。

 世界に光が満ち溢れており、風に吹かれた木々が優しく俺に語りかけているようだった。

 名も知らない小鳥たちが愉快に会話をしながら飛び立つ姿は、まさに「平和」という二文字を象徴している。


 「もしかして・・・夢?」


 俺がそう思うのも無理はない。

 誰がどう見ても、日本の景色とはかなりかけ離れているし、飛んで行った小鳥も見たことがない。

 日本というよりも、異世界寄りの景色と言えるだろう。


 「これは・・・、かなり凝ってる夢だな」


 確か、夢を見ていることを自覚していることを「明晰夢」って言うんだっけか?

 明晰夢って夢の中でもかなり良いな。

 「自覚がある」ということは「意識がある」ということに結び付くわけだから、目覚めた時も覚えているわけだろ?

 だったら、小説のネタにできるじゃん!


 そうとなれば話は簡単だ。

 この明晰夢からできるだけの情報を収集しなくてはならない。

 善は急げだ!


 そして俺は情報収集のため、さっそく行動を開始するーーーーはずだった。


 ーーな、なんだ・・・?これ・・・。


 大木に腰かけていた体を起こそうとした時、俺の視界に入ったブツに「不快感」を覚える。

 目を疑い、不快感に陥るのも無理はないだろう。

 なぜなら、俺の両腕が人間に似つかない形状へと変化していたのだから。


 俺の知る限り、こんな腕を持つ人種は見たことがない。

 しかし、俺の瞳に映った両腕は、人間の腕とはかけ離れた姿をしている。

 鋭い爪に、固い鱗が俺の腕を厚く保護していた。

 

 ーー待て待て待て、夢の中の俺ってどういう設定!?


 どう考えても、更なる「進化」を果たしたというか、むしろ時代に逆行するような「退化」をしているようだった。


 ーーうん?人間を猿まで退化させてもこんな腕はしていないか。

 だとしたら、俺の両腕の退化はどこに向かってるんだ?


 状況が全く理解できないが、まあ夢だからこれ以上気にすることはないな。

 この世界での俺の設定がこれなんだと決めつけたら、意外とすんなり受け入れられた。


 他にも体に異常をきたしている部分がないか、俺は隈なく全身を調べた。

 どうやら、異常を起こしているのは両腕のみのようだ。

 

 ーーどういう設定かイマイチ分からんが、まあ何でもいっか!


 とりあえず、この世界がどうなっているのか歩き回ってみることにした。

 俺が今いる場所は大森林の中。

 緑で溢れかえっており、マイナスイオンが徹夜明けの俺の体に染み渡る。かなり気持ちがいい。

 この心情もかなりネタとして使えるな。


 辺り一帯は緑で包まれており、どこを見渡しても緑ばかりで、しばらく歩き続けていても緑

しかなくて、緑に緑と緑・・・・・・って緑しかねーじゃねーか!

 この世界には大森林しかないのかと疑いたくなるほど緑しかない。

 いや、小鳥もいたのだから生物は最低限いるんだろうが、姿が一切見当たらない。

 

 ーーかなり酷い明晰夢だな。これじゃあ情報収集の意味がない・・・。


 そんなことを考えていると、俺の後ろから女の子の声が聞こえた気がした。

 視界の先を後ろに向けてみると、そこには十五歳ぐらいの少しだけ癖っ毛のある茶髪の美少女がこちらを見つめていた。


 ーーやっと、人に出会えた・・・ってめちゃくちゃ可愛いな・・・。


 かなり、俺好みに近い容姿をお持ちのようだ。

 それに加えて、澄んだ水色の瞳がとても輝かしく見える。

 即、俺の小説のヒロインとして使えそうなキャラクターデザインだと言えるだろう。


 ーーん? ヒロイン?


 俺の中で何かが引っ掛かった。

 だが、その異物の正体が何なのか分からなかったので、気にすることなく情報収集を始めた。

 

 「君は、この大森林の住人なのか?」


 すると、女の子は驚いた様子のまま答えた。


 「うん、そうだけど・・・? 君は見かけない顔だね、どこから来たの?」

 「んー、どこからって言えばいいんだろう。外の世界からって感じかな?」


 夢の中の住人に、日本から来たというのもなんかおかしい気がする。

 まあ所詮夢の中だし、適当に受け答えしとけばいいだろう。


 すると女の子は難しい顔をするなり、深く考え込んでしまった。

 夢の世界だというのに、表情もかなり現実に近いほど繊細に作られている。

 かなりいい勉強になるな・・・。


 そんな悩ましい表情をする女の子の口から突如、理解し難い内容が告げられた。

 

 「外の世界って言われてもあなたのその腕、どう見ても私たちと同じ竜人族(ドラゴニュート)のものだよね? どうしてそんな嘘を吐くの?」


 不思議そうな顔をする女の子とその言葉を受けて、俺は自分の設定をようやく理解した。

 どうやら、この世界での俺は竜人族(ドラゴニュート)という種族で生まれたことになっているらしい。

 だとしたら、普通に外の世界はおかしいか・・・ってあれ? 「竜人族(ドラゴニュート)」?


 まただ、何かが俺の中で引っ掛かる。

 だが、その正体が何なのかが分からない。

 異物がなかなか取れなくて気持ちが悪いな。


 そんな気持ち悪さと戦いながら、俺は美少女に適当な事を口にする。

 

 「あー、俺なんか記憶喪失したっぽいんだよね。だから、俺がどこで生まれたのか知らなかったんだ。だから同士に出会えてよかったよかった!」


 誰がどう耳にしても、その場で作り上げた適当な嘘にしか聞こえないが、美少女は疑いもせずその言い分を飲んだ。


 「そうなんだ・・・、君も大変だったね?」

 「かなり大変だった。その記憶を奪い取った奴を探そうにも何も思い出せないし、この先俺はどうしたら・・・」

 「んー、とりあえず竜人族(ドラゴニュート)の集落に行く? そしたら何か思い出せるかもしれないし、それに君のご飯も出せるから良い案だと思うんだけど、どうかな?」


 なんと、恋愛経験0の俺がこんなに可愛い美少女に生まれて初めて食事に誘われてしまった。

 どうしよう、夢だと分かっているのにかなり嬉しいんだが。


 俺の答えを待っている美少女。当然俺の答えはーーーー。


 「あ、ああ、それじゃあ竜人族(ドラゴニュート)の集落にお邪魔しようかな・・・」


 二十一歳の大学生なのに情けない。

 相手は年下だぞ!?

 まさか、一つの誘いにここまで緊張してしまうとは。

 でも仕方がないだろう。恋愛経験のない俺に、こんな美少女相手は正直レベルが高すぎる。


 俺の緊張が伝わったのか、女の子はニヤつきながら告げた。


 「ふーん、もしかして緊張してる?」

 「い、いや、そんなことないですけども!?」

 「声がかなーり上がっちゃってるよー? 大丈夫?」


 クスクスと笑う美少女を見て、俺の脳はついに限界を超えた。


 ーーダメだ・・・もう何も考えられない・・・。


 絶世の美少女と言われてもおかしくないレベルの女の子の笑った顔は、恋愛経験のない俺には刺激が強かった。

 うっかり恋に落ちてしまいそうだ。

 俺は二十一歳だぞ! 十五歳の女の子に手を出すのはダメ! 絶対にダメ!

 必死にそう言い聞かせていたその時だった。


 「な、なんだ!?」


 突如、俺の鼓膜を刺激したのは、一発の爆発音。

 それと同時に、距離にして約五キロメートル先で黒煙が上がっていた。


 「あ、あの方向は・・・!?」


 美少女の動揺が、何を示しているのか分からないと言う程、俺も馬鹿ではない。


 「あそこに集落があるのか?」


 美少女はコクンと一回頷くと、すぐさまその方向へと駆けていく。

 五キロ先だと、走ってどのくらいの時間が掛かるのだろうか?

 だが、ここで立ち止まっているわけにはいかない。


 俺は美少女の後をついて行くように走った。 

 体力に自信がなかったのだが、夢のおかげか体力補正がかけられていたので、何とか美少女について行けそうだ。

 そして、俺と美少女は黒煙が上がる竜人族(ドラゴニュート)の集落へと向かって行った。


最後まで読んで頂きありがとうございます!

次の更新は15日の18時になります。

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