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二人のために出来ること

「おい、ヒース」


 村長の声がした。


「何でしょうか?」

「この娘は、娼館に売ることになっている。触れるな! 価値が下がるからな」

「おい、そのために育てたのかよ!」

「当然だろう? ワシらは子供を孫を育ててきた。それなのに誰一人帰ってこない。この娘は元々奴隷商人から買った。買った分は尽くしてもらわないとなぁ」


 でっぷりとした腹を揺すって笑うジジイに、ヒースの悪友は剣を抜いた。


「それは人身売買だぞ! それに違法就労だ。ついでにこの環境に、食事もろくに与えられていない……未成年を働かせたこと、そして娼館に売り飛ばすこと……許されないよね?」

「なんだと! 若造が!」

「俺は若造でも、あんたがしてることは悪党だろ?」

「こいつがいなかったら、食料がないんだよ!」

「今まで働いてきた金で過ごせよ。お前たち、どうせ彼女にお給金も払っていないんだろう」


 そう言ってくれているが、悪友が俺の最愛の人の顔を覗き込むのはいただけなかった。


「おい、悪友」

「名前で呼べ」


 銀色と青い目の成人王子は、何かを考えるようにするとぽんっと手を叩く。


「そうだそうだ。お前、彼女なんなら連れて帰って」

「良いのか?」

「ここは空気悪いし、兄さんたちにも言ってるから、静養の部屋も用意してもらえるよ」

「……ありがとう。彼女の荷物を片付けて……」

「小物や身の回りの品でいいよ。荷物にならない程度ね」


 言いながら物置小屋から出て行く。


「で、おっさん。あの子を娼館に連れてくんだってな? まだ俺より年下の子供をよく拾ってやった恩をっていい続けられたよなぁ? 恥ずかしくないのか?」

「うるさい! 育ててやったんだ! こう言う時に売ってやる!」

「はっ! じゃぁ、俺の住まいのメイドに雇うわ! で、もう二度とこの家に戻さない。あの子の実の親もわかっているから、その家に連れて行くとも」

「金を出せ!」


 守銭奴のような発言に、


「うるさいなぁ……労働基準法で女性の一日働いての給料を計算しますと、一日に約9000円前後です。住み込みならまかないや入浴、部屋も与えられているはずですが、あれだけやつれているとは、食事を食べさせないようにしたのですね? そしてこの物置小屋は埃もひどく、隙間風がしてここで寝泊りさせていたのですね? なんともかわいそうなことです」

「命令したわけじゃない!」

「あぁ、あの痩せ細った体に、あざだらけの肌、切り傷や荒れた指先……ここでどんなふうな仕打ちを受けていたのかも、よくわかりますね」

「貴様ぁ!」


杖で殴りつけようとした村長をかわし、よろめき転んだあと、踏み付ける。


「はい! これ見て? 誰が俺とヒースを呼んだと思うんだ?」


 手渡された書面に目を通すと、次第に青ざめる。


「ど、どうか! 俺は知りません!」

「人身売買は罪! 罪を認め、つかまってもらう。この村も色々調べねぇとなぁ……」

「そ、そんなぁぁ……」

「ほぉぉ? なんなら児童虐待、未成年者を娼館で働かせようとした罪を増やそうじゃないか。言えば言うほど罪は重くなるんだよ」


 王子は、書面をしまうと腕を組んだ。


「じゃぁ、手っ取り早くここの状態を見てくるかな」


 村長宅を出てくると、ヒースが痩せこけた少女を抱き上げ歩いている。

 荷物はヒースの肩にかけられていたもののみ。

 かなり質素なものである。


「ヒース。それだけでいいのか?」

「……プレゼントしたもの、全て取り上げられているみたいだ。それに、物置に部屋なんて……」

「じゃぁ、帰ったら、色々買ってあげたらいいな」

「貯金叩くよ」


 その日のうちにヒースは彼女を連れて戻り、この国一の名医に病気と絶食治療を続けたのだった。

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