【初投稿】内緒の小説を幼馴染に読まれた件
ジリリリリリリリ!!
小鳥遊ヒナは目覚まし時計を止めた。
実のところ、この爆音が鳴り響く直前に彼女は既に目覚めていたし、時計の力を借りずとも遅刻など一回たりともしたことがないのだが、それでも毎日目覚まし時計をかけている。
「ヒナぁー、ご飯よー」
お母さんの声だ。二回へ続く階段に顔を覗かせているんだろう。
「はぁーい、今行くよー」
私は大きく伸びをしてから、着崩れたパジャマのボタンを外し、制服を手に取った。この会話が私の朝のルーティーンなのだ。
(私の名前は小鳥遊ヒナ、どこにでもいる普通の高校生、だと思うんだけど、しいて変わっているところがあるとするなら、小説を書いてることかな?まだまだ練習中だから、とても人に見せられるものじゃないけどね。実は小説家志望だったりするんだ。)
「ニャ~オ」
私は元気よく家を出て、いつものボス猫に挨拶をする。今日もまた、私の日常が始まるんだ。
新アニメ『内緒の小説を幼馴染に読まれた件』のAパートがしばらくして終わった。
それを見ていた男は、覗いた鏡に幼い自分が写っていたときのような、言い知れぬ情けなさを感じていた。男の幼少の夢は作家だった。
その遥かなる憧憬が、創作の主人公の若い活力にあてられてより一層、男の現在を澱んだものに感じさせたし、彼女と違って、夢だのなんだのと宣うには、男はあまりにも無為な日々を過ごし過ぎた。学生時分のことなどもう、何も覚えていない。
しかしむしろ、目を伏せた男には、ある種の気力ともいうべき残り火が見えた。
男はその残り火を切り崩して、今からでも自らが作家になったらどうだろうということをシミュレイトする。
自分に作家ができるだろうか、作家は膨大な語彙を有していなければいけない。自分は多分、一般以上の語彙力はあるだろうが、果たしてその程度で務まるのだろうか。作家は世界を創る仕事である。自分にそんな発想力があるだろうか。
だが今は小説投稿サイトなんかが充実して、誰でも他人に創作を見せることができる。そこで評価されれば自分も作家になれるかもしれない。
いや。見るに堪えない駄文の掃きだめのようなサイトばかりだし、そんな場所で得た評価に価値などあろうか。
レベルの低い文章で、レベルの低い読者から囲われることで、さも大先生になったような気になっている連中もいるだろうが、私はそこまで馬鹿ではないし、自己顕示欲を満たすのと、夢を叶えるのは違うはずだ。
考えれば考えるほど、男の火を消さんとする揺り籠が、安堵じみた無気力を与えるのは、何も歳のせいではない。
この揺り籠が、男にとって生来の防衛機制であった。
男は無造作に煙草を取り出して火を付け、深く吸い込んでから、そのささやかな残り火は今、爆ぜた。