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第12話 ハーベスト農業学校 その五

 農業学校での生徒達の時間は、午前中の講習と午後からの農作業の実習に費やされる。

 一人週一回は、外部への実習が割当られ、いろいろな場所へ視察兼体験学習に行かされる。

 金鉱山、鉄鉱山、炭焼小屋、茸栽培小屋、水車小屋、鉄道駅、ドリームランド、流し網漁、魚の加工場、商店、食堂、鍛冶ギルド、商業ギルドなど、まるで秘密などないかのように、その仕組みとやり方を視察して体験する。


 そして、多くのハーベスト領の人達と知り合う。皆、親切に丁寧に自分達の仕事を教えてくれる。

 『なぜそんなにも、詳しく丁寧に教えていただけるのですか?』と問うと。

 『俺達は、コウジ代行から、今と同じように教えていただいた。教えて、一人でも多くの人ができるようになれば、多くの人の暮しが豊かになるから。そう言われたよ。』

 

 農業の講習では、農作物と土の適性や肥料の作り方まで、教えていただいた。

 僕達は、自分の領地から来るときに、各領地の農土を3ヶ所ずつ持参するように指示されていたのだが、持参した土をいろんな薬品で、成分や性質を調べ、適した作物がなにか、どんな肥料が必要かなど、帰ったら役立つことこのうえない知識を教えていただいた。

 

 また、作物の連鎖障害ということが起きること。それを回避するためには、三圃式農業などの対策があることなど、驚きの農業知識の連続です。

 さらに、農作物の病気と対策など、どこまで知識があるのか、感心するばかりです。


 農作業の実習では、間隔を空けた《うね》を作ることで、大豆の畑に、そのうねの間に、収穫の1カ月前に小麦を撒き、さらに小麦の収穫の1ヶ月前に大麦の種まきをして、収穫までの期間を短縮が図るなど、これまた驚きの知識です。



 その夏、春先から好天が続き、農作物には良好な天候に見えたが、雨が降らない日が続き、いわゆる《干ばつ》が起きた。

 ハーベスト領の大半は、灌漑用水路が整備され、干ばつの影響は軽微な地域が大半であるが、西地区の山間地域ルールナでは、灌漑用水路が未整備で、予想される被害は深刻であった。

 

 「今日は予定を変更して、全員で干ばつの被害が予想される地域を視察に向います。

 鉄道で二つ目の駅〘ケーブル〙から馬車に乗換えて、片道の所要時間は、約4時間半。

 もちろん日帰りではありませんし、状況によっては、長期間の滞在になるかも知れません。各自そのつもりで準備して、30分後に集合してください。」

 「レイナさん、私達は何をすれば良いのですか?」

 「それは現地を見て、あなた達が決めることです。

 どういう状況か、何が原因か、何をしなくてはならないか、あなた達が決めて、行動してください。」


 そうして、私達は《ルールナ》へやって来た。

 「おい、あの辺りの野菜の葉が萎れてるぜ。」

 「うん、灌漑用水路がないから、雨が降らない限り、水不足でこうなるんだね。」

 「あっちもだっ、このままだと野菜が全滅になる。」

 「水だ、水が必要なんだ。どうする? 一番近い川は、どこにあるんだ?」

 「井戸だわ! あそこに井戸がある!」

 「井戸が何ヵ所かあるみたいだね。でも、遠いなあ。」

 「ジョウロやバケツじゃ、埒が明かないぜっ。」

 「用水路を作ってる隙なんてないわ。何かほかの方法じゃないと。」

 「あるよ、ゴムホースだ。ボッシュさんの所で見たゴムホースなら、井戸から水を引けるよ。」

 「よし、急いでボッシュさんに連絡しよう。」


 「それはもう、用意ができているわ。あなた達と一緒の馬車で運んできたのよ。」

 「えっ、レイナさんは、この状況を知ってたんですか?」

 「おおよその報告は聞いてたわ。水は井戸にしかないと。だから、ゴムホースが必要になると解って用意したの。

 皆、馬車からホースを運んでちょうだい。」

 

 「おい、二人ずつ《手押しポンプ》を設置してくれ。30台あるぞ。」

 「ホースの継ぎ方は分かっけど、どうやって水を撒くんだ? 先っぽからだけじゃ、時間掛ってしようがないぜっ。」

 「ホースの途中に穴を開けたらいいのよ。開け過ぎたら、先まで水が行かなくなるから、気をつけて。」

 「了解! おい、10人ぐらい手伝ってくれ。

ホースを持って水を撒きながら、井戸を中心に一周するぞっ。」

 

 広大な畑のあちこちで、夏のカンカン日照りの毎日を、汗まみれになりながら、2ヶ月近く、同じ作業を繰り返しました。

 この作業には、僕達だけでなく、ハーベストの他の地区の農家の人も大勢駆けつけ、ハーベスト領の人達の連帯感の強さを、感じました。

 おかげで、なんとか作物の被害は出さずに済んくださいだようです。


 秋、農作物の収穫間近になって、台風に襲われました。

 僕達は、用水路の氾濫を防ぐため、雨風が強まる中、急きょ川からの水の取り入れ口を土嚢を積んで塞ぎました。

 台風が去った翌日は、倒された小麦やライ麦を起す作業に追われました。

 

 そして収穫の時。僕達は、7つの班に分かれて、それぞれ違う農作物の収穫を行いました。

 「すげぇなぁ! 千歯こきって、ものすごく速くモミが取れるよ。」

 「これは、麦の収穫には必需品ね。収穫作業が何倍も早く終るわ。」

 

 「うわぁ、見て、見て! この大根の大きいこと! 私の足より太いわっ。」

 「きみの足も十分太いよっ。だって、僕の掘った大根より太いものっ!」

 「まあ、失礼しちゃうわねっ。あなた、楽をしようとして、小さな大根ばかり選んでなくて?」


 「このジャガイモって、こんなにもたくさんになって採れるのね。」

 「今夜の晩飯は、肉じゃがじゃ。うめぇぞうっ、腹いっぱいになっても、食いてぇ!と思っちまう。」

 「まあ、困ったわ。また、太ってしまう。でも仕方ないのよ。美味しいものを覚えて帰る責任があるんですもの。」 

 「それと、食べる量とは、関係ないんじゃね?」


 こうして秋の収穫作業も終わり、生徒達は皆、少し丸みをおびた体型が多くなったような気がする。

 レイナと女生徒の前では、《禁句》だけどね。

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