第七話 陰謀には、速攻反撃
「殿下、今度は《ドリームランド》などという遊戯施設を作り、また富と利権を集めているようにございます。」
「調子に乗りおって。たかが子爵風情がこの国を動かしているつもりか。」
「アレク陛下では、かの者の横暴を抑えきれないばかりか、益々助長させるばかり。」
「うむ、兄上は甘い。あのような者、この国にあっては害をなすばかり、断じて許せぬ。」
「すべての元凶は、かの者。かの者さえ排除すればことは治まるかと。」
「ダビデ、密かにかの者を葬れ。兄上には気付かれぬようになっ。」
このとき、王弟アシュアは、気がついては、いなかった。龍の尾を踏んでしまったことに。
王城の建物に入ってすぐ、赤い点が現れた。二つ。誰かはわからないが、王城に《敵》は、いた。
俺は陛下に、謁見を申し入れ、なにげなく赤い点のある方向へ向った。
すると、王城の長い廊下で、赤い点の一つとすれ違った。騎士の格好をした50年配の男。こちらをチラッと見ただけですれ違った。
「あの、すみません。不慣れなもので、迷ってしまったのですが、ここはどの辺りの区画でしょうか?」
「む、この先は王弟殿下の執務室がある廊下だ。王弟殿下にご用でなけれは、引き返すがよい。」
「ありがとうございます。戻りましょう。」
なるほど、もう一つの赤い点は、この先にある。この男は、王弟殿下の配下か。
俺は、廊下を引き返した。
戻ってまもなく、謁見が許された。
「いかがした? 前触れもなく突然の謁見を申し出るとは、ただ事ではなかろう。」
「仰せのとおり。その前にお人払いをお願いします。漏れては困る話なので。」
「ここにいる者は皆、信用のおける者ばかりじゃ。それでもいかんか?」
「陛下は、その方々がどなたを信用なさっているか全てご存知ですか?」
「むぅ、宰相以外の者は、下がっておれ。心配は無用じゃ、この者は儂に話さねばならぬ話がある。」
「昨夜、襲撃をうけました。5人。手練でした。
正体を表す所持品もなく、犯人を見つけたいと思い、こちらへ参りました。」
「なんとっ、そちを狙ったか? 場所はどこでじゃ?」
「孤児院にございます。子供達は避難させ無事でした。」
「何奴だ? そちを恨む者か、妬む者の仕業か。」
「それについては、犯人に心当たりがございます。しかし、証拠はありません。」
「それで、お会いしたい方がおります。」
「誰じゃ、そやつが犯人なのか?」
「いえ、話を聞きとうございます。王弟殿下に。」
しばらくして、その場に王弟がやって来た。
「お呼びと伺いましたが?」
「うむ、そなたに紹介しようと思うてな。」
「はて? 誰にございましょうか。」
「そこに居るのは、今話題のハーベストの代行、コウジ卿だ。」
「初めてお目にかかります。コウジと申します。王弟殿下。」
「 · · · · 、おお、その方がコウジ卿か。」
〘なんだ、ハーベスト領にはいなかったのか。襲撃は失敗か。〙
「昨夜、何者かに襲撃を受けまして、ご挨拶に伺いました。」
「えっ、昨夜? 王都で襲撃を受けたと申すか?」
「いいえ、ハーベスト領の孤児院にございます。」
「そんな? 昨夜ハーベスト領にいたその方がなぜここにおる? 不思議な話ではないか。」
「ですがここにおります。その襲撃者のひとりを捉えまして、尋問しましたところ、王弟殿下の配下の者に命じられたと。」
「ばかな、なんの証拠がある?」
「ところで、殿下は私の提案した紙幣や鉄道をどう思われましたか? 」
「あんなのは、ただの紙屑だ。鉄道など金がかきるだけで馬車でこと足りる。」
「なるほど。商人は重い貨幣に苦労し、自分達で荷物を運ばなくても良い、鉄道の便利さに満足しているようですが、殿下には関わりないと。」
「それがどうした?」
「民の気持ちがわからず、民の生活を豊かにすることに関心のない王族は、王族とは言えません。
アレク国王陛下、この方を廃爵されるよう提案します。」
「な、なにを、子爵代行風情がっ。」
「私ではありません。お決めになるのは陛下です。」
「兄上、このような無礼者。今すぐ捕らえて処罰をお与えください。」
「アシュアよ、そなたはコウジ卿のやることに反対のようじゃの。ならばどうする? 亡き者にするか?
アシュアの王族の地位をはく奪する。」
「そんな。私は暗殺などやりませぬ。お考え直しください。」
「ならば、死罪の方がよいと申すか?」
もう一つの赤い点が扉の向こう側に、張り付いている。耳をそばだてているのだろう。
そっと近づき、いきなり扉を開けると、倒れ込んでくる。
「ダビデ卿、そんなところでなにをしておる? 人払いをした故、誰も近づいてはならぬはずぞ。」
「この男が、襲撃を命じた主犯です。」
「衛兵っ、その者を捕らえて、牢に入れよ。」
王弟アシュアは、王弟の爵位はく奪の上、国外追放となった。
ダビデ伯爵は、捕縛された襲撃者の供述により、爵位はく奪の上、死罪となった。




