第ニ話 ハーベスト子爵領 復興支援
復旧したみなしご工房のカマドで、パンが焼かれた翌日、俺は、ハーベスト子爵の屋敷に向った。
地震の被害状況を聞くためと、俺になにができるか、考えるためだ。
子爵の舘もあちこちが崩れ、無惨な状況に見えるが、なんとか大半は無事らしい。
舘の門番は、顔なじみになっており、俺に気づくと、子爵へ知らせに走ってくれた。
玄関で出迎えてくれた子爵は、
「コウジ殿、この度は、領民の救済を率先して行っていただき、誠にありがとうございました。コウジ殿のおかげで、幾人もの命が救われたと聞いております。」
「いえ、当たり前のことをしただけです。皆で協力して、街の被害を少しでも少なくしたいと思って、行動したまでです。」
「それで、今日こちらへお出でくださったのは?」
「子爵領の被害状況や今後の復旧をどうするのか、お聞きしたいと思いまして。」
「そうでしたか、まあどうぞ、こちらへ」
子爵のあとをついて、応接間に通された。
ハーベスト領の被害は、領地全域に及んでいた。南は加増されハーベスト領となったハバナの街から、ブルータスの街の北の村々まで、家々が倒壊し、火災も起こって、多くの人が亡くなったそうだ。
最も揺れが大きかったのは、ここブルータスの街だったが、いち早く救助活動を行った甲斐があり、他に比べ死者が少なくて済んだそうだ。
俺が温泉を掘り当てたことでも解かるとおり、この地域は、火山帯にあり、100年程前にも大きな地震があったそうだが、ここ数十年は全くなく、人々の警戒も緩んでいたようだ。
俺は、前世の記憶から、これから半年くらいは、不定期に余震が繰り返し起り、警戒が必要なこと。
建物には、斜めの梁で耐震性を強化する必要があり、建物の復旧にあたっては、バネル工法を取れば、工期も短く耐震性も高くなると提案した。
また、街の再建にあたっは、道路を広く直線的に取ること。隣家との間隔を規制し、火災の延焼を防ぐようにすべきだと提案した。
子爵達は、提案を受け入れ、すぐさま建築職人達にバネル工法と、街の再建計画を周知すべく散って行った。
そのあと俺は、レイネに捕縛されて、お茶を召し上がらされている。
幸いなことに、二人きりではなく、レイネの母のシモーネが同席してくれているが、なぜか、レイネは対面ではなく、俺の隣で引っ付いている。
「コウジ様、この度は、大変なご活躍、本当にありがとうございました。」
「いえ、助けられなかった方も多く、無念です。」
「コウジさんは、地震が起きてから三日間、ほとんど寝ずに救助をなさったと聞いておりますわ。」
「こういう災害事故は、事故が起きてから、丸二日間が生死の境目と言われております。寝てなどいられないのです。」
「コウジ様は、がんばり屋さんなのね。あなたのような方がここに居てくださって、私達は、本当に恵まれていました。」
安らぐハーブの香りと、優しげなシモーネの言葉に、つい、うとうととしてしまう。
「落ち着いたら、レイネの婿になってくれないかしら。」
そんな声が夢うつつに、聞こえたような気がしたが、俺は、心地良い眠りに落ちていた。




