第一話 大地震
それは、春が近づく季節の夜明け前のまだ人々が眠りに就いていた時刻であった。
突然、ゴォーという唸るような音と共に、もの凄い揺れが人々を襲った。地震である。
震度6強の大地震だった。家々は倒壊し、逃げ出せた人々は、恐怖に震えながら立ちすくむしかなかった。
俺はその朝、たまたま孤児院にいた。突然のもの凄い揺れに、飛び起きて、泣き叫ぶ子供達の部屋へ駆けつけ、幼い子を抱き抱えると、皆を引き連れて、裏の畑に避難させた。
地震は、その後何度も余震を繰り返し、だんだんその間隔が開くと共に、終息に向った。
孤児院の建物は、耐震構造のおかげで無事だったが、家具は倒れ、棚の食器類は割れて、床に散乱している。中庭のレンガ作りのカマドは、見るも無惨に崩壊していた。
街の被害は、建物がほとんどが倒壊し、その下敷きになり、大勢の人が怪我をし、亡くなった。幸いなことに火事は、起きてなかった。
俺は、シスターと子供達に、大鍋で炊き出しの用意を命じると、ロッドを引き連れて、街に飛び出し、倒壊した建物の下敷きになっている人々の救出にあたった。
呆然としている人々を叱咤し、手分けして助け出す。まだ、生きている人も多くいる。
怪我の重症者は、カーテンと角材で作った応急の担架で、孤児院へ運ばせた。シスターは、治療の知識があり、なんとかしてくれるだろう。丸二日街を駆け巡り、救助を繰り返していると、救助をしている騎士のポーカー達に出会った。
「おおっ、コウジ殿、ご無事でしたか。お嬢様が大層心配なさっておられました。」
「レイネは、今どこに?」
「孤児院へ向われ、おそらく、お手伝いをされているかと。」
孤児院は、建物が無事なせいもあり、街の救助センターみたいになっている。街の人も手伝って、炊き出しをしており、シスターが中心になって、怪我人の治療にあたっている。
俺はいつの間にか、救助隊のリーダーみたいになっていて、皆に指示を出してる。
地震の経験なんてある人がいないから、俺の余震やいずれ治まるという話に、絶大な信頼を感じたらしい。
五日程で救助活動は、一段落し、俺は孤児院のカマドを作り直した。天然乾燥では時間が掛かるため、藁で囲って火を付け、三日間で仕上げた。この間、裏の畑で秋に収穫した野菜が大活躍し、炊き出しのシチューとして皆のお腹と心を満たした。
余談だが、炊き出しを担当した年長組は、毎日、シチューの味を変えるなど、工夫を凝らし、その味は大評判となったようだ。
確かに、シチューはいろいろ作り、クリームシチューにビーフシチュー、カレーシチューにポトフ、豚汁に味噌鍋など、いつの間にか盛り沢山のメニューを食べさせて来たが、作り方は教えてないはずだぞ。いつの間にか盗まれたかな。
カマドに火が入り、みなしご工房のパンが焼き上がった。避難している人々の口に、焼き立てのパンが入ると涙ぐんでる人もいる。
さあ、あとは街の復興だ。




