第12話 年末年始の風景 その三
こちらの世界では、大晦日に紅白歌合戦もないし、夜更かしして、新年を迎える習慣もない。ましてや年少組の子供達には、睡眠が大切だ。
俺はというと、レイネにべったり張り付かれて、すっかり精神をすり減らされている。
シスターは、その様子を微笑ましく見ているだけだし、護衛のポーカーもポーカーフェイスを崩さない。
「コウジさん、お酒でも召し上がりませんか?」
「いや結構、俺はあまり酒が好きじゃないんだ。」
「それでは、ジュースにいたしましょう。」
いや俺、答えてないんだけどね。それって、決定なの?
「コウジさん、お疲れではないですか? 肩でもお揉みしましょうか?」
いや、それはまずいでしょう。貴族のお嬢様に肩を揉んで貰うなんて。
「コウジさん、私はお邪魔でしょうか?」
いや、そうストレートに聞かれましても。
部屋にたどり着く頃には、すっかり消耗した俺ができ上がっていた。
こうして、大晦日の夜は、更けていった。
「新年あけましておめでとうございます。」
「おめでとうございます」ちびっ子達もちゃんと新年の挨拶をして来る。大したものだ。
レイネにも挨拶されるが、おやすみを言ったばかりのような気がする。
新年の朝は、お雑煮だ。お餅と魚のすり身、それにキノコを入れて、醤油と味醂の味付けのシンプルな、お雑煮だ。
皆、初めて食べるお雑煮の味に、感動している。食事が終わったところで、子供達にお年玉を渡す。これまた、初めての経験に目を丸くし、歓声を上げている。
レイネも欲しそうにしているが、あげないぞ。これは、子供だけだからな。ロッドまででおしまいだ。
お年玉を入れた袋は、俺が版画で彫った竜が描かれている。竜はこの世界でも最強とされているから、皆にも強く優しく育ってほしいんだと話すと、僕、コウジ兄ちゃんのようになりたいと、男の子達に言われ、弱ってしまった。
おまけに、女の子達には、コウジ兄ちゃんのお嫁さんになりたいと言われ、だめとも言えず、困り果ててしまった。
ただ、そんなカオスのような状況にあって、レイネが睨むように、俺に視線を向けてたのは、なぜだかわからないが。




