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第十話 年末年始の風景 その一

 今年もあと二日と押し迫った年末の日、俺とロッドは、新年を孤児院で一緒に迎えるべく、カルロ商会から仕入れた、もち米(代用麦)やお菓子の材料を荷車いっぱいに積み込んでやってきた。

 足はできたばかりの自転車だ。ロッドはまだ一人では乗れないので、俺の後ろに乗せている。

 自転車は、レイネとポーカー達にも贈ったので、今頃は練習の真っ最中だろう。

 おかげで、俺の丸太小屋からは、20分程で孤児院まで来られた。来年には、カルロ商会から売り出されるから、そうしたら、空前のサイクリングブームが到来することだろう。


 孤児院は、新年を迎える前にと、増改修され、ニ階建ての白壁のモダンな建物に代わっている。洒落たみなしご工房の店舗スペースも設けられ、見違えるようだ。

 「コウジ様、よくお出でくださいました。見てください。貧しかった孤児院がこんなにも立派になりました。これもすべてコウジ様のおかげです。なんとお礼を申し上げればいいのか、感謝してもしきれません。」

 でも、シスターは、貧しかった時の一張羅の制服のままだし、決して贅沢をせず、清貧な生活を守り続けている。

 「シスターが頑張って皆を守ってきたからこそ、今があるんだと思いますよ。」

 そう言って、俺は微笑む。孤児院の経営が立ち直れたのは、俺がこの世界にきた価値があったという証明だ。俺にとっても何より嬉しい。


 「さあ、お入りください。中もご覧になってください。」

 一階のパン工房の店の奥は、工房の作業場、兼孤児院の調理場だ。その横には、広々としたリビング兼食堂。奥には、シスターの個室と俺達が泊まれる客室と浴場がある。二階は、勉強するための集会室を囲んで、子供達の部屋がある。子供部屋は、6人部屋だそうだ。

 設計の段階では、俺も関わり、子供達が安全なように、階段を広く段差も小さくしたり、耐震性と耐火性を重視して、アングルの梁を入れたり、内外の壁をローマンセメントで作ったりと、配慮を凝らしている。


 建物を見終わったら、お菓子作りの始まりだ。大きなケーキのスポンジを6個焼いて、生クリームの野苺ケーキと、フルーツケーキ、それに特製のチョコレートケーキを二つずつ作る予定だ。

 皆、虫歯にならないよう、ちゃんと歯磨きさせなきゃなあ。

 ケーキのスポンジが焼けたら、夕食の用意に取り掛かる。今夜のメニューは、ベーコンピザと、山から採取してきたキノコのピザ。それに、とろとろに煮込んだビーフシチューとシーザーサラダだ。本邦初公開、本日の特別メニューだ。

 そろそろ出来上がりだが、皆、すでに食堂に集まってる。あれっ、誰か来たかな?食堂が騒がしい。

 「コウジさん、ごきげんよう!コウジさんが来られると聞いて、私もお招きに与りましたわ。」

 しれっとして言うレイネだが、そんな訳ない。厚かましく、割込んだに違いない。まあ、子供達も懐いているからいいけど。

 

 年長組に手伝って貰い、皆で料理を運ぶ。見たこともない料理に、子供達は大興奮だ。

 シスターのいただきますの声に唱和して、食事が始まった。

 ビーフシチューのとろける肉のやわらかさに感動し、初めて食べるピザに驚き、パン工房のメニューに加えたいと年長組は騒いでいる。

 レイネも、お供のポーカー達も夢中になって食べている。料理は大成功だ、作った甲斐があったというものだ。

 年少組は、口の周りをシチューだらけにして、ひげみたいだと笑いあっている。

 シスターは、こんな幸せな日が来るとは、思っても見なかったと、涙ぐんでる。

 今年も明日が最終日。皆の笑顔で新年を迎えよう。

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