第九話 温泉を作ろう
孤児院の経営は、パン工房の収入と畑の自給自足で、飛躍的に改善した。
パスタの麺打ちや各種料理のレシピも、シスターを初め、年長組に仕込んだので、もう俺が手伝わなくても、やっていける。
カルロには、大麦から作るエールを教えた。それから、小麦から蒸留して作る焼酎も。焼酎の応用で、いろんな果実酒も作られ、酒の種類が増え、カルロ商会は、大評判だ。
一段落ついた俺は、ロッドと家に帰ることにした。秋も深まり、山は紅葉が綺麗だ。
丸太小屋には、風呂がない。遠い山には噴煙が上がっているので、温泉が出そうだ。
ロッドと二人、住居の周囲を丹念に探索して見る。住居から、500m程の裏山を歩いていると、先を歩いていたロッドが声を掛けてきた。
「兄ちゃん、この辺り、なんだか地面が暖かいよ。」
「どれ、ほんとうだ。こりゃ温泉が出るかもな。」
次の日、ネットで井戸掘りを調べた俺は、打ち抜き井戸を試してみることにした。
鍛冶屋のボッシュに直径9cm、長さ2m程のパイプを50本作ってもらう。先頭になるギザギザのついたパイプは、壊れることを予想して3本、あとは大槌を二つ、三日もあれば作れるそうた。
お礼に、カルロ商会のエールと焼酎を渡すと、満面の笑みを浮かべて、なかなか手に入らないんだという。カルロにボッシュには、優先的に売るように話しておくよというと、それこそ、涙目で感謝された。そんなにも酒好きなんだと感心してしまう。
そう言えば、この世界の井戸掘りは、どうやってしているのだろう。手押しポンプは、既存の井戸に設置しただけだから、気にしてなかった。
それから三日後、ボッシュから井戸掘りの道具が届き、俺はロッドと温泉掘りに挑戦した。
二人で大槌を交互に振るい、地面に刺したパイプを打ち込んで行く。時々、パイプに詰まった土を取り除きながら、パイプを繋ぎ、ひたすら打ち込む作業を繰り返す。
そうやって、一週間が過ぎた頃、パイプを40本も繋いだから、80mくらいの深さまで、打ち込んでいたとき、突然に蒸気が吹き出してきた。
慌てて距離をとる。吹き出した蒸気は、かなりの高温の熱湯で辺り一面に降り注ぐ。
やったぁ、温泉を掘り当てたぞっ。ロッドと二人で飛び跳ねて喜ぶ。あとは、この温泉を家の近くまで引くだけだ。
再びボッシュに繋ぎのパイプを追加注文し、丸太小屋の脇に、ローマンセメントを使って岩風呂を作る。ローマンセメントは、周辺の探索をしていたときに、見つけた石灰岩を砕いて作ったものだ。せっかくだから、20人入っても狭くない大浴場にした。周りに木も植えて、外から覗かれないようにもした。
小さな丸太小屋には、多少、不釣り合いな気もするが、いずれ温泉宿でも建てれば、良い名所になることだろう。
岩風呂の温泉は、二週間程で完成した。天然掛け流しの本物の温泉だ。
ほどなくたった日曜日、俺が温泉を作ったことを聞きつけて、孤児院の皆がやってきた。
なぜか、レイネもいる。女湯は作ってないぞ。混浴は嫁入り前の、ことに貴族令嬢は、まずいぞ。
俺の心配は、全く考慮されなかった。レイネやシスターは、胸にタオルを巻いた格好で、気持ち良さそうに浸かってる。子供達は、素っ裸で、はしゃぎ回って大騒ぎだ。孤児院にも風呂はあるが、普通の家庭サイズだから、こんな大きな湯船は初めてなんだろう。
俺だけタオルで下半身を隠して入ると、子供達がどうしたという顔で見て来る。
大人は隠さなきゃいけないの。だけど、皆で浸かる温泉は楽しくて格別だ。
湯上がりには、冷やしたスイカをご馳走しよう。俺の畑で最後に収穫したスイカだ。
孤児院の畑にも来年は、植えてあげようかな。




