第六話 レイネの初恋 その一
私が、コウジ様に出会ったのは、一年程前のことでした。突然、大勢の暴漢達に襲われ、護衛のポーカー1人で窮地に陥ったところを、通りがかったコウジ様が加勢に入り助けてくださいました。
それは、夢物語の王子様のようにお強く、あっと言う間に暴漢達を退けてしまわれました。
それから、ブログリュー公爵とのトラブルをたった一人で解決してくださり、今はこの街にお住まいになられています。
けれど、ちっとも会いに来てくださらないんです。私のことなんか、気にも留められておられないご様子。なのに、小さな子供達には優しく、いろいろ面倒を見ておられるようなのです。もう、我慢できません。こちらから会いに行きます。しばらくは、お側に張り付いて、何が何でも私を意識していただきます。
孤児院のみなしごパン工房が開店して、10日程経ったある日、孤児院にレイネ嬢が訪ねて来た。孤児院の施設をいろいろ見て回り、感激している。食パンのやわらかさに感心し、菓子パンの美味しさに目を丸くしている。
猫パンの創始者であるアーシャを満面の笑顔でだき抱え、俺にいろいろ尋ねてくる。
「コウジ様のお生まれになった国では、いろんなパンがあるのですか?」
「ありますよ、中にいろんな詰めものをしたものや生地も多数の種類がありますし、焼いたものだけでなく、油で揚げたものや蒸して作るものもあります。」
「まあっ、そんなにも。いつかお作りいただけますか?」
「そのうち、幾つかは試してみようと思っていますよ。」
「それは、楽しみですわっ。」
夕方になり、帰る刻限となったが、明日もまた来ると、言って俺を驚かせた。貴族のお嬢様が庶民のしかも孤児院などへ頻繁に出入りしていいものだろうか。レイネが言うには、俺の側でいろいろ見たいんだそうな。
それなら、話し相手ばかりしていられないから、自分の仕事をしながら、相手をするか。そう決めた俺であった。




