第二話 大司教の崩御と歪めらる教義
長らく間を開けてしまい、申し訳ありませんでした。
ここまでで、ひとまず本編は完結とさせていただき、時々、回想話を投稿したいと思います。
熱心にご愛読いただきありがとうございました。
新作を始めました、お仕事の昼休みに、読んでいただければ幸いです。
『地方公務員の異世界奮闘記』
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月日が経つのは早いもので、セーラ達シスターがオスマナ国に来てから、半年が過ぎた。
孤児達も打ち解けてくれて、日々の生活も、ようやく落ち着いた頃、本国の教会本部から、訃報が届いた。大司教様が崩御なされたのだ。
セーラは、一度だけお会いしたことがある。見習いシスターから正式なシスターに任命されるときに、教会の本部で大司教様の説話を聞き、直に任命書を手渡されたのだが、その時の印象は強烈に覚えている。
お優しい慈愛に満ちたお顔で、『どの孤児も分け隔てなく、愛してあげてください。』と、お声を掛けていただいた。
説話の中では、『神様は、いつもお側に居られて、あなたを見ていらっしゃる。頑張って。あきらめないで。必ずいいことがありますよ。っておっしゃっていますよ。』と言っていた。その時、私は神様って大司教様のような慈愛に満ちたお方だろうと思った。
そうして、孤児の私は、父親を亡くしたような悲しみを覚えた。
時は遡ること、大司教の死が間近に迫っていた日、枕もとに呼ばれた3人の司教に対し、大司教は一番若い、キリギス司教を後継者に指名し、語り掛けた。
『キリギス、あなたは敬虔な信者です。しかし、教義を突き詰めて考え過ぎては、なりませんよ。神はすべてをお許しになるのです。』それが大司教からキリギスへの最後の言葉だった。
キリギス大司教となってしばらくした頃、オスマナ国各地に派遣されたシスターが、相次いで辞めるという事態が起きた。
イースター教の教義では、司教もシスターも結婚することを認めておらず、それは神の妻、神の夫となることを意味していたからだが。
一度、神に捧げた身を他者に委ねるなど、教義の上では不敬だが、暗黙の了解として、結婚する者は、シスターを辞めさせていたのだ。
今回のことは、派遣したシスター達が若い適齢期だったことが起因していた。
キリギス大司教は、敬虔な信者でありすぎることで、そのことがどうにも納得できず、ついに、『シスターや司教になる者は、生涯独身を守らねばならない。』という布令を出した。
このことは、シスターやシスターを目指す者達に少なくない動揺を与え、さらには、シスターに親しげに男性が声を掛けることも、不敬とされるようになって行った。
そしてそれは、思わぬ波紋を呼んだ。聖ナターシャがイースター教から破門されたのだ。
ことの起こりは、ナターシャの元にいるラナが俺の弟のロッドと婚約していたからだ。
ナターシャは、ラナだけを特別扱いする訳には行かないと、大司教に対し、布令の撤回を求めたのだ。
多くの国民から敬愛される聖ナターシャから、布令の撤回を求められ、頑なに教義に拘るキリギス大司教は、ついに聖ナターシャに対してイースター教からの破門を言い渡したのである。
俺の怒りは、最高潮に達した。
イースター教の本部に乗り込み、キリギス大司教にイースター教の国外追放を命じた。
大司教は驚き、神に叛く者と俺を非難したが、俺は言ってやった。
「神の摂理に叛くのは、誰なのか。結婚して子を成し、人の命を紡ぐことこそ。神の摂理である。」
「イースター教会は、国中にあるものを。追放などできるものかっ。」
「すべてのイースター教会は、喜んで、新イースター教会に改宗するから心配ないです。
残るのは、この教会本部の数人くらいですよ。」
後年、キリギス大司教は、神の摂理に叛き、自滅してイースター教を破門された、大司教として有名になる。前大司教の最後の言葉をなんと心得たのであろうか。
【 豆知識 】
〘人間が神のしくじりにすぎないのか、神が人間のしくじりにすぎないのか。 byニーチェ〙
こうして、聖ナターシャを大司教とする❳『新イースター教会』が発足し、すべてのイースター教会が改宗して終わった。
ちなみに、既婚者も司教やシスターをできることになり、ラナは結婚後もシスターを続けるそうだ。




