第九話 モルゴン村の新名物料理
モルゴン村の村長から、相談したいことがあるので、伺いたいとの、連絡を受けた。翌日、会うことにした。
ハーベスト領内では、先頃、領主館と各街や村の公民館との電話が開通している。
王国内では、まだ王城と各貴族の領主館しか、繋がっていないが、来年には、各貴族領でも街や村にできる予定だ。
領民達の利用できるものとしては、街や村の公民館に、電報を設置している。
翌日の昼過ぎに、領主館へアルビナがやって来た。マルカが一緒だ。
「コウジ様、ご無沙汰しています。」
「やあ、よく来てくれたね。最近のモルゴン村は、どう?」
「はい、皆、笑顔で過ごしていますわ。
ですが、今日伺ったのは、食に詳しいコウジ様の助言が欲しくて、来ましたの。」
「コウジ兄様、隣のアオ族村では、うどんの乾麺が大人気で、王国中に販売が拡がっているんですっ。
それに比べて、モルゴン村には、乳製品しかなくて。ラピタが自慢するんですよぉ〜。」
「はははっ、なんだマルカのヤキモチか。」
「いえ、そんなことは、些細なことなのですが、モルゴン村に来てくれる観光客の皆さんに、村の名物料理を、味わってほしいと、思って。
コウジ様に、お知恵を借りに来ました。」
「なるほど、アオ族村に小麦料理のうどんを取られちゃったからなぁ。
マルカは、何か思いつかなかったのかい?」
「兄様、パンもピザも、変わり映えしないし、うどんは、アオ族村が有名になってるし、考えだけど、思いつかなくて。」
「ふ〜ん、じゃ、次回の試食会は、モルゴン村でやることにしようか。それまでに、考えておくよ。」
小麦粉を材料にする料理で、まだ作っていない料理はある。
主として中華料理の分野に多い。中華饅頭や焼売、餃子でお馴染みの点心料理です。
点心とは、中華料理の軽食のことで、主菜やスープ以外のものを指します。
饅頭は、小麦粉を発酵させて蒸した中国のパンで、日本の肉まんの皮のような食感のものです。
現代中国では、中身の入ってないものを饅頭と言い、中に具や餡の入ったものは、包子と呼ばれています。
台湾に旅行された方もいるかと思いますが、朝食の定番として、ネギを練り込んだり、甘味を付けたネジリパンのマントウが出されます。
包子とは、中に具が入ったいわゆる中華まんです。肉、野菜、餡、クリームなど様々な具材の入ったものがあります。
中でも、小ぶりでスープの入ったものが、小籠包です。
餃子、いわゆるギョウザは、焼き餃子、蒸し餃子、茹で餃子、揚げ餃子など、調理方法も様々ありますが、中国では、熱湯で茹でた水餃子が一般的です。皮は、日本の餃子の皮より厚めです。
餅は、小麦粉をこねた平たい皮を焼いた焼餅、揚げた油餅、クレープのような薄焼きの煎餅、野菜なとを練り込んだ菜餅など、調理方によって名前があります。
お土産で有名な月餅は、日本のお月見にあたる中秋節に、お供えする菓子が起源のようです。満月を円満、完璧の象徴と見て、秋の豊穣を祝うお供え物だったようです。
今日は、モルゴン村での試食会。数日前から、モルゴン族の女性達に、講習を重ねてきた中華の点心料理のお披露目です。
一品目は、日本での定番の焼き餃子。具材は、肉、キャベツ、すり下ろしたニンニクとショウガ。皮は薄めで、一種類にしたのは、モルゴン村で独自の餃子を開発してほしいから。
二品目は、2種類の焼売。モルゴン村の狩猟で狩れる猪肉と玉葱の焼売と、同じく、モルゴン村で作っている豆腐とハンペンで作った焼売。
三品目は、小籠包。春からモルゴン村で新たに始めた養鶏の鶏で、出汁を取ったスープの小籠包です。
最後の四品目は、某グルメ漫画でも登場した烙餅。小麦粉に長ネギを混ぜてこねたものを、捻じり巻きにして焼いたパンだ。
今日の試食会の挨拶は、モルゴン村の村長であるアルビナさんがやるようだ。
「お集まりの皆さん、モルゴン村にようこそ。
今日は、モルゴン村に新たな名物料理が生まれた記念すべき日です。
この料理は、先頃モルゴン村で始めた、養鶏の鶏の魅力をいかんなく発揮した料理で、食材も狩猟の猪肉や豆腐を使い、また、メニューも無限の可能性を秘めている、まさにモルゴン村ならではの料理です。
それでは、新たなモルゴン村の名物料理を、ご堪能ください。」
「「「うおぅー。」」」
「パリッとした皮の中に、肉の旨みが詰まっていて、こりゃ旨いぜっ。」
「この餃子の中身は、ほんとに豆腐かい? まるで肉の味だよ。」
「私は、この焼売の方が好きよ。柔らかくてやさしい味だもの。」
「あひぃ、あひぃ、口の中がやけどするわっ。でも、中身がスープなんて、こんな料理は世界で、ここにしかないわね。」
「このスープの味、鶏なのね。すごく旨みがあるわ。」
「ねぇ、ねぇ、ローピンって言うの。このパン、塩味なんだろうけど、飽きの来ない味で、食パンのライバルになるね。」
「ネギの風味が意外っ。美味しいわっ。」
「コウジ様、とても素晴らしい料理を教えていただき、ありがとうございました。
この料理は、ほんとうに無限の可能性を持っていると思います。
モルゴン村の皆で、どこにも負けない名物料理に、発展させて行きますね。」
「マルカは、小籠包に苦戦したけど、スープの味をいろいろ研究中なの。コウジ兄、今度、試食してね。」
モルゴン村の新名物料理は、どうやら上手く行ったようです。
でも、会場には、真っ赤な顔をして、憤慨している娘が一人いました。アオ族村のラピタちゃんです。
そして、その目が俺に訴えています。
『コウジ兄様、ずるいっ。次はラピタの番だから。』
【 豆知識 】
中華料理の点心には、まだまだ、いろんなものがあります。
芝麻球と言うごま団子や、杏仁豆腐などのデザートも点心(軽食)です。




