閑話22 サナとリミの墓参り
私の名前は、サナ。王都に母と妹と三人で暮らしていました。母は借金のために商店の奴隷となっていて、その子供である私と妹は、穢れと呼ばれ、人々から蔑まれ、迫害を受ける日々でした。8才の時、母が妹の不注意で壊した商品の咎めを受け、主人の暴行がもとで、亡くなりました。
母を亡くして、一週間、4才の妹リミを抱えて、住むところも食べるものがなく、王都の街をさまよいました。
そして、唯一の母の形見であるペンダントを売って、食べ物を手に入れることにしました。
その銀製のペンダントは、母が結婚する時に、父から贈られたもので、母はどんなに貧しい時も、それを手放そうとは、しませんでした。
けれど、なにもわからない幼い妹が、もう三日もなにも食べられずに、衰弱しています。
アクセサリーを売っいるお店で、ペンダントを買ってくれるように、頼みましたが、店の主人は、本物の銀製ではないと言って、たったの銀貨1枚(千円相当)にしかならないと言われました。
私は、母から本物の銀製だから、金貨10枚(10万円相当)はすると聞いていたので、食い下がりましたが、だめなので、返してくださいと言ったのですが、取り上げられて、返してくれません。
周りにいた店の従業員にも、返してくださいと、必死に頼んだのですが、誰も聞いてくれませんでした。
私は、悔しくて、でも涙を流すことしかできなくて、たった1枚の銀貨を握りしめ、妹の手を引いて、パンの売っているお店に向かいました。
でも、そこでも、穢れにパンは売れないと、どんなに必死に頼んでも、聞いてくれません。
その時でした。通りがかった男の人が店の人に、なぜ売らないのかと声を掛けてくれたのは。
その男の人は、自分がパンを買うと言って、パンを買うと、私と妹に食べさせてくれました。
そのあとのことは、よくわからないのですが、母の形見のペンダントを取り戻してくれて、私達を連れて王都を離れました。
そして、初めは孤児院へ連れて行かれましたが、これまでの迫害の恐怖が消えずにいる私達姉妹は、泣き出してしまい、見かねた男の人は、私達を自分の家族として、受け入れることにしてくれたのです。
あとで聞いたのですが、男の人は貴族で、その子供が家を継ぐことになるから、私達は養子ではなく、兄弟として引き取ったそうです。
でも、実際は、父と母。私達姉妹に限りなく愛情を注いで、育ててくれています。
ハーベスト家の子供となって、あっと言う間に、5年の月日が経ちました。
私達姉妹は、ブルータスの学校に通い、周りの人達に、優しく見守られる日々が過ごしています。
でも、私達を守ってくれて、亡くなった母のことは、忘れることができません。
父が王都務めの間は、祖母が毎週王都へ連れて行ってくれましたが、父の王都務めも終わり、ブルータスの街へ帰って来たので、王都に行く機会がなくなりました。
気がかりは、毎年行っていた母の墓参りでした。でも、父や母は、ちゃんと考えていてくれていました。
「サナ、リミ。今度の日曜日は、王都に行くよ。お前達のお母さんの命日だからね。」
「そうよ。あなた達を守ってくれた、お母さんに、こんなに大きくなったよって、報告しなくてはね。」
「わぁ、パパ、ママ、ありがとう。前の日にリミと野原に行って、お花を摘んでくるわ。」
「サナお嬢様。アイネが案内しますわ。今時期は、河原に野菊がいっぱい、咲いていますから。」
「えぇ〜、給食を食べれないの〜。リミ悲しい。」
「あら、あら、リミは食いしん坊さんね。ママがお弁当を作ってあげるわ、それなら、いいでしょう?」
「わっ、ママ、玉子焼き作ってね。リミ、ママの玉子焼き、大好きっ。」
王都郊外の小高い丘の上にある公園に、サナとリミの母マリアの墓がある。
彼女の死がきっかけとなり、穢れという制度が廃止されたことを讃えて、公園の中央に、立派な石碑の墓が立っている。
「お母さん。サナは、13才。リミは、9才になったよ。優しいパパとママに育ててもらっていて、とっても幸せだから、心配しないで。
お母さんの形見のペンダントが、パパとママに会わせてくれたの。きっと、お母さんがそうしてくれたんでしょう? ありがとう。」
「お母さん。リミねぇ、忘れちゃうから、毎晩寝る前に、お母さんのこと、想い出してるの。このお花、お姉ちゃんと摘んで来たの。きれいでしょ。」
穏やかな秋の日の午後、サナとリミの母の墓参りを終え、俺達一家は、しっかりと手を繋いで、我が家へと帰途に着いた。
ちなみに、道端でよく見られる野菊の花言葉は、『忘れられない想い』、『守護』である。
人の数だけ、物語があります。失われた過去には、戻れないけれど、忘れられない想い出が、そこにはあるのでしょう。
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