第七話 寒いとき食べたい料理
ハーベスト領は、寒い日が続いている。
風邪を引かないように、サナとリミに、綿入れをプレゼントしたら、何故か、妻と義母にも強請られ、買うはめになった。
レイネは、ともかく、シモーネさんは、強請る人が違うのでは? と思ったが、通販ショップで買ったので、いずれ俺に注文が来るのかと諦めた。
我が家では、週に一度、俺とロッドが夕食を作る。サナとリミが手伝って。
あとの日は、レイネではなく、ハーベスト伯爵家の料理人が作るから、サナとリミに調理を教える意味もある。
その日は、何故か伯爵夫妻も、呼んでないのに、我が家で食事をする。
義母さん曰く、家族団欒の日だそうだ。
「ロッド。お前、なんか食べたい料理あるか?」
「兄ちゃん。寒いから、あったかい鍋がいいな。俺の食べたことのない鍋料理作ってよ。」
「う〜ん、お前に食べさせてないものなんて、あるかな。」
「サナ、リミ。なにがいい?」
「あたちは、おいちいものがいいっ。」
「サナはパパが作るものならなんでもいいよ。でも、リミが野菜食べないから、野菜料理かな。うふっ。」
「いゃ〜ん、お姉ちゃんの、いじわるぅ〜。」
「ふ〜ん、ロッドが食べたことがなくて、リミが美味しく食べられる野菜の鍋か。よし、あれにするか。」
さて、俺が大きな土鍋に、用意した材料は、大根、ロールキャベツ、トマトのレタス包み、巾着餅、さつま揚げ、玉子焼き、ゆで玉子、コンニャク、がんもどき。さつま揚げが魚なだけで、あとは、野菜ばかりだ。
これを出汁で煮ること、2時間余り。
そうだよ、俺が作った料理は、『おでん』。寒いときには、心も身体も、あったまる料理だ。
おでん種の、巾着餅は、油揚げの中に餅が入っているおでん種。さつま揚げは、白身魚のすり身の揚げ物。がんもどきは、豆腐をすり潰したものに、人参や牛蒡、蓮根などを混ぜ、揚げたもの。鳥の雁の肉に似せたことから、この名が付いた。
変わったおでん種としては、トマトや玉子焼きが、意外と美味しい。
『う〜ん、リンゴは、おでんに合わないかなぁ。』
おでんは、関東の呼び名で、関西では、関東煮という。厳密には、味付けも違うし、具材も若干違う。
出汁は、関西では、薄口醤油を使った甘め、関東では、濃い目にしっかり味を滲み込ませたもの。とろみの味噌を付けて食べる、味噌おでんもある。
レイネがリミに、取り分けてやったのは、巾着餅と、玉子焼き、トマトのレタス包み、がんもどきだ。
「リミ、熱いから、少し冷まして食べるのよ。」
「おばあちゃんが、ふぅ、ふぅ、してあげるわね。」
「うむ、野菜料理だが、大根など味が滲みて、なかなかに、旨いなっ。酒が欲しくなるわい。」
「来年の秋に取れた米で、この料理に合う酒を作りますから、楽しみにしていてください。」
「ロッド兄、あれ取って、お餅の入ったのっ。すっごく美味しいのっ。」
「わかったよ、サナ。でも、いろいろ食べなきゃだめだぞ。」
「うふふ、やっぱり貴方と、結婚して良かったわ。この分だと、生涯、食べたことのないものを堪能出来そう。」
「レイネ、あなた最近、ふっくらして来たわね。運動もしなくちゃだめよ。」
「お母様大丈夫よぉ、今日は野菜料理よ。太らないから、気兼ねなく食べられるわ。」
【 豆知識 】
おでんは、元々はコンニャクを串に刺した、田楽のことだそうです。田楽のことを、宮中の女官達が『女房言葉』の、『お』をつけて、『お田』と呼んだのが始まりのようです。




