第三話 缶詰を作ろう
カルロのところの次は、ボッシュの工房を訪ねた。今やボッシュの名は、《聖ナターシャダム》の建設功労者として《鍛冶聖ボッシュ》として王国全土に名前が知られている。
なにせ、身近な《手押しポンプ》や各種農機具を最初に作ったのも、ボッシュだし、彼の貢献は、計り知れない。
ボッシュの工房は、王国全土から多勢の弟子や研修生が集まり、100人を越える弟子と数えきれない研修生、工員が居て、ブルータス郊外の一大工場群となっている。
工場群の入口にある守衛室に、来訪を告げると、電話で連絡をとっている。電話は、まだ実用化されていないもので、どうやら、工房で試験的に運用しているらしい。
ボッシュは、本工房の工房長室にいたようだ。秘書のような女性が飛んで来て、案内をしてくれた。
「コウジ代行、久しぶりじゃねぇか。また、なんぞ、面白れぇものを作らせて、くれるのか?」
「はははっ、俺が来ると、それしかないか。まあ、そのとおりなんだが。それにしても、すごいな。工房がこんなになっているとは、思わなかったよ。」
「誰かさんのせいですぜ。儂も近頃は、自分で作る機会が少なくて、みんな弟子の指導員がやっちまうから、面白くねぇですぜ。
ところで、どんな話しなんです、なんか久しぶりに、ワクワクしますぜぃ。」
「うん、食べ物を保存できる容器というか、金属缶に密封したものを、作ってほしいんだ。過熱した食材を密封すると、長期間の保存が可能なんだ。名前は缶詰。果物、肉、魚、なんでもござれだよ。」
「どのくらい、保存できるんでぇ?」
「果物が短くて二年、あとは、まあ三年かな。」
「なんだそりゃあ、干物なんか比べものになりやせんじゃねぇですか。」
「うん、だけど、缶詰の缶にコストが掛かるから、少し高級品だね。」
「缶の材料は、なんじゃろうか?」
「鉄板にサビないように、錫メッキを施したブリキ缶になる。中味の食材の加工は、商業ギルドの惣菜部に話して来るよ。
これが仕様書、なんかあれば聞いてくれ。」
最初に選んだ缶詰のメニューは、鯖の水煮、鰯のオイルサーディン、牛肉の甘辛煮、パイナップル、リンゴなどのフルーツミックス缶だ、
4つの缶詰を一ヶ月後、試食する。場所は孤児院。孤児院メンバーの他、レイネにサナとリミ、なぜか義母のシモーネさん、ラナの妹シーナにモルゴン族のマルカ、アオ族のラピタもいる。少女三人は、グルメ探検隊とかで、このイベントは、外せないのだとか。
一番人気は、やはりフルーツミックス缶。砂糖シロップの甘い味が子供と女性に受けてる。
「しゅごい、しゅごい、甘くて美味ちい!」「リンゴは煮てあるのね、これはこれで、美味しいわ。」
「このシロップ漬けは、病みつきになる味のね。」
「固くもなく、柔らかすぎず、果物の味がとてもいいわ。」
「鯖の水煮は、柔らかくて、癖のない味でよいわ。」
「鰯のオイルサーディンは、素晴らしいお料理ね。豪華な一品よね。」
「牛肉の甘辛煮も、いい味だわ。柔らかくて
、食べやすいもの。」
フルーツ缶の消費量が多いことを除けば、大成功の試食会だと言えるかな。
食べた皆には、その場で缶詰のラベルの図柄を書いてもらった。ボッシュに持たせて、仕上げにしてもらう。
あれぇ、さくらんぼとか、イチゴは入ってないからね。描いちゃ、虚偽表示だよっ。
【 豆知識 】
缶詰は、ナポレオンが保存が効く軍用食として、瓶詰を用いたのを、瓶では重いことから改良品として、ブリキ缶が発明された。
缶詰ができた当初は、金槌とノミや銃剣で開けていた。缶切りが考案されたのは、缶詰ができてから、25年後のことだった。




