第一話 米の真髄(しんずい)
アオ族村ができて、もっか絶賛開拓中です。
モルゴン村の開拓で、ノウハウを身につけたブルータスの鍛冶ギルドと、商業ギルドは、細かいところまで行き届いた配慮で、私の施策を次々と熟してくれます。
最優先で行ったのは、鉄道と駅舎の建設。加えて、公民館兼村長館、街の区画整理と道路の舗装。これらは、2ヶ月で仕上げてくれました。
そして、部族民のための住居は、商業ギルドが、プレハブ工法でブルータスの工場で作り、組み立ては、鉄道の開通後に部材を運ぶと、一ヶ月で600戸分の共同住宅と、30棟の寮を建ててしまいました。
住宅を戸建てではなく、共同住宅としたのは、アオ族の人達が子供を皆で育てる環境を壊したくなかったからです。
また、単身者の住宅は、賄い付の寮にしたのです。寮母さんには、老婆や母子家庭の女性を配し、就労の環境も整えました。
共同住宅は、一棟30戸で、集会室と共同浴場を備えました。こちらも、管理人に男性の老人を配しました。
アオ族は、定住した半農半狩猟部族です。
ですから、農耕には、熟練していますが、困ったのは、米の栽培でした。
米の栽培は、湿原地での直播きで行っていたそうで、湿原地のない土地でどうしようか悩んでいると、見透かしたように、コウジ兄様が、水田という畑を、作るように命じられました。
設計図面を鍛冶ギルドのメンバーに渡して、私も説明を聞いていたのですが、直播きでなく、苗を育てて、植え替えるとか、どうして、そんな知識があるのか、驚く以外に方法がありません。
馬や牛に鋤を引かせて、部族の男達総出で、大掛りな田起しと畦作り、そして灌漑用水路の造成が行なわれました。
コウジ兄様は、アオ族の人達に、食用に持って来た米の籾まで、苗に回すように言い、秋の収穫まで、パンと麦飯で我慢するように言いました。アオ族の人達は、収穫を増やすためだと知り、絶賛協力をしてくれました。
苗が育つと、コウジ兄様の指導のもとに、苗の田植えが、行なわれました。
円柱の竹で編んであるようなものを、田で転がすと、田の泥の上に、幾つもの四角が画かれ、その角に3·4本の苗を植えて行くのです。腰が痛くなります。でも、がんばらなきゃ。
田に水を入れ、成長を待ちます。植えてしばらくすると、コウジ兄様は、今度は鯉の稚魚を水田に放しました。雑草や虫を食べてくれるのだそうです。
『なんで、そんな知識を持っているんですか?』と尋ねたら、『俺は昔、アオ族と同じような種族だったのさ。』って、信じられないような答えが返ってきました。
そして秋、たわわに実った稲は、穂を垂れています。アオ族の人達は、何倍にもなった米の収穫量に驚いています。
ここでコウジ兄様は、またまた私達を驚かせます。稲を刈る《鎌》という道具をいつの間にか用意していたのです。
アオ族の人達は、小刀で穂だけを刈っていたそうですが、稲を根元から刈りとり、それを束にして、逆さに吊るして、乾燥させるのだそうです。
ここまできたら、アオ族の人達も、コウジ兄様の言いなりです。乾燥後の脱穀機、水車小屋での石臼精米、アオ族の人達も驚くほかないようです。
さて、実食です。私は初めて食べる米というものが、どんな味がするのか、わくわくしていました。
米は、厚い木の蓋がある、大きな鉄の鍋で炊いています。一つの鍋で20人分が炊けるそうで、この鍋は、アオ族の人達の寮で使うそうです。
最初に、一口サイズの小さな米の固まりが、配られました。私やハーベスト領とモルゴン村から、招かれた50人ばかりが、試食します。
味は、思ってたのと違い、淡白です。噛んでいると、ほのかに甘みが感じられます。
次に配られたのも、一口サイズの固まり。口に入れて驚きました。先程と比べて、はるかに甘みを感じるのです。コウジ兄様の説明によると、塩を少量付けた手で握ったのだそうです。
そして、最後は、小さなどんぶりに、米を盛り、おかずが配られました。
おかずは、小魚の甘辛煮、玉子焼き、大根おろし、細かく刻んだ大根を酒と砂糖、塩で味付けたもの、など。
一緒に食べると、こんな味があるのかと、衝撃を受けてしまいました。
そして、最後に食べた、生の魚の切り身が載った、一口サイズの米。あれ、米に味が付いている。甘ずっぱい薄味が、とてつもなく、米の味を、いえ、上に載せた醤油と辛味の生の魚と、合う。合うとしか言いようのない味。しばらく、ぼーっとしてしまう。
コウジ兄様の説明は、続きます。
『米にもいろんな種類があり、食感もいろいろだが、今日の米は、そのまま食べて、一番旨い米だ。
だが、米の食べ方は、これだけじゃない。いろいろな味を付けたり、焼いたり、たっぷりとシチューのようなものを掛けたりと、麦より、はるかに食べ方がある。
米の栽培が増やせたら、来年は、皆に食べたことのない米料理をご馳走しよう。』




