第一話 ブルータス郊外
カルロの商隊と俺達は、一ヶ月ぶりにハーベスト領に帰って来た。街は賑わっており、道行く人々にも笑顔が見られる。
カルロは、この街に酒作りの拠点となる商店を置き、活動を始めることにしたのだ。
俺は、ロッドと二人、ハーベスト家に許可を貰い、郊外の小高い山間に小屋を建て、生活を始めていた。
二人で作ったのは、6m四方の小さな丸太小屋。屋根は板葺きだが粘土を焼いて、瓦もどきを作っているところだ。
街からは、そう遠くないが徒歩で一時間程はかかる。そこへシェリーとニコロ、それにアーシャが毎日やってくる。子供達の足では2時間近くかかるにもかかわらずだ。
最初の日は、母親のカーナラが付き添って来たが、道は一本道で、田園風景が広がり、農夫達もちらほら居て、危険も少ないとのことで、二回目からは子供達だけで来るようになった。
俺は、そんな子供達に、危険があったら知らせるために、発煙筒を作って持たせた。赤い煙が出るやつで、遠くからでもすぐわかる。
まだ出来上がってはいないが、鍛冶屋に頼んで自転車も作ってもらっている。
鍛冶屋に頼んだものはまだある。手押しポンプに、荷車、スキ、クワ、スコップ、千歯こき、あまりにいっぱい頼んだので、他の鍛冶屋と共同で作ることになった。
すでに農具の一部はできていて、ハーベスト家に収められ、農村に配布されている。
「もうそろそろ、パンが焼きあがるぞっ」俺が声を掛けると、「わぁ、」と声を上げて子供達が寄って来る。
「あたしの猫ちゃんパン焼けた?」そう聞いて来るのは、アーシャだ。
今、焼いているのは菓子パンだ。野苺のジャムを詰めて、子供達に好きに顔の絵を描かせた。
この山の赤土の粘土を使って、レンガを焼き、カマドを作った。鉄のコテでパンを載せた大皿を取り出すと、大歓声だっ。
アーシャは猫ちゃんパンを三つ、シェリーはシカだという角ばかりのようなパンを二つ。ニコロは、俺の顔だというでっかいパンを一つ、ロッドは、食べやすくするんだとかで、長方形のパンをたくさん作っていたが、焼けると膨らんで楕円形のパンになってしまい、しょげている。
俺は普通に丸型の、オーソドックスな形のパンを10個程作った。皆のお土産用だ。
さっそくかぶり付くが、ちゃんと焼けているようだ。「おイチぃ」アーシャが満面の笑みで食べている。
子供達が帰るまでにもう一度パンを焼く。金型に入れて焼く食パンだ。街で売っているパンは、硬いフランスパンなので、やわらかい俺の焼くパンは、評判がいい。
今日は、たくさんのパンの荷物があるので、帰りは俺達が送っていく。たまにそうやって街にも泊まりに行っている。
明日は、アーシャ達の母親のカーナラに頼まれているカマドを作ることにするか。




