閑話14 アオ族の少女 ラピタの日記
一族の大人達に、明るさが消えたのは、この間、ラピ族の男の人が現れてからです。
ラピ族は、私達と同じく山の民です。ほとんど交流などありませんが、狩猟などで出会うことがあり、お互いの縄張りを侵さないように、話すことがあるようです。
ラピ族の男の人は、部族が帝国の軍に征服されて、一人逃げて来たそうです。ラピ族は、戦っても勝てないと諦め、降伏したようです。
一族の長老ウルバ様から、いずれアオ族に村にも、帝国の兵士が攻め寄せるだろうから、その前に、一族で新たな土地へ移り住む。そのために、必要な食糧をできるだけ、集めるようにと言われました。
私達は、普段は危険だからと止められている、吊り橋の向う岸にある、山芋の群生地へ行くことを決めました。子供だけでは、危ういので、戦士のナスカさんが付き添いです。
吊り橋を渡り、崖を降りて、山芋を掘り終った頃、急に近くの森から、数百羽の鳥達が一斉に飛び立ち、その羽ばたきが聞こえました。
ナスカさんから、急いで村へ帰るように言われ、すぐに私達は、山芋の籠を担いで、崖を登り、吊り橋を渡りました。吊り橋を渡りきらないうちに兵士が現れ、ナスカさんが吊り橋の入口で防いでいます。
吊り橋を渡りきると、私は年長の男の子であるバスカに、荷物を置いて先に村へ知らせるように言い、バスカの籠をニーノと二人で持ち帰りました。
村へ戻る途中で、連絡を受けた大人達とすれ違い、村へと帰還しました。
村へ着くと、女性と子供は、食糧と必要な物を持って、西の洞窟へ避難するように言われました。私も家に戻り、母と二人で荷物をまとめ、西の洞窟へと向かいました。
大した荷物はありません。土鍋と石斧、衣類、あとは食糧。木で編んだ籠に入れ、籠を背負って、手には革袋の水筒を持ちました。
西の洞窟へは、笹薮を選んで進みます。人が通った形跡を残さないためです。草を踏み倒したら跡が残りますが、笹薮は、笹の葉で隠れるし、すぐに生い茂るからです。
洞窟での生活は、昼間に寝て、夜に食事をする生活です。昼間に火を使うと煙が出て、居場所が知られてしまいます。ですから、煙の見えない夜に煮炊きをするのです。それでも風向きも考えないといけません。南や東が風下の時は、煙や臭いで知られる危険があるからです。
兵士達が現れた日に、吊り橋を落したので、私達の村へ来るには、南へ迂回して、森を抜けて来なければなりません。
部族の男達は、森に罠を仕掛け、戦いの準備をしています。帝国を兵士は、鉄の鎧兜を着ているので、弓矢では倒すことができません。
落し穴と、大木に切れ目を入れた、倒木の下敷きにして、倒すのだそうです。そして、夜襲を繰り返し、敵を寝不足にし、疲れさせる作戦です。
そして最後は、頃合いを見て、火攻めにするそうで、瓶にいっぱいの油を溜めていました。油は、猪や鹿を煮出して、採取します。そのため、大掛かりな狩りがされていました。
西の洞窟で生活を始めて、20日程過ぎた頃、ついに帝国の兵士が、南の森に入ったと聞きました。
それから10日間、昼夜を違えず、戦いの日が続きました。敵の弓矢で傷付く者も、少なくありません。
そして10日目の夜の風の強い日、油を使った火攻めをして、敵の多勢を倒したそうです。
敵の兵士達は、諦めて退却したそうですが、また、攻め寄せて来るでしょう。
長老の命で、新天地を求めて、各地を探索に出た者達が、帰って来ました。
北の方は、いずれも、奥に進むに連れ、針葉樹林が続くばかりで、畑を作れる土地ではないようです。
あと戻ってないのは、山脈を越えて、西に向かったナスカさん達だけです。
ナスカさん達が戻って来ました。西の山脈の向こうにある国の人達を連れて。
長老に、その国へ行くことを許可すると、言ってくれました。平地で農耕をする人達の国だそうです。山脈を越えた辺りは、その国の東端にあたり、まだ開拓されていない草原地帯だそうで、そこに新しいアオ族の村を作っても良いとのことです。
翌々日の朝に、旅立つことに決まりました。山脈を越えるには、5日掛かるとのことで、5日分の食糧と水、生活に必要な物のほか、栽培していた種や苗を持って行くように言われました。
皆で一度、村へ帰り、米の籾や野菜の種、種芋などを集めました。
それから、山越えです。迎えに来てくれた戦士の皆さんが、荷物をたくさん持ってくれました。野営の時には、美味しい食事も分けてくれました。皆、とっても優しい人達です。
山脈を越え下りになると、遠くに煙が見えました。迎えの人達だそうです。
近づくと驚くほど、たくさんの馬車という物がありました。これに乗り、もう歩かなくてもいいそうです。
幼い子供達が喜びの声を上げています。山越えに歩き疲れたのでしょう。でも、山の民の子供がそんなことでいいのでしょうか。
馬車に乗る時に、小さな箱と飲み物が、渡されました。箱の中には、きれいに並んだ食べ物が入っていました。さっそく食べた幼子達が、再び歓声を上げています。
私も食べて、わかりました。信じられないくらい、美味しい食べ物なのです。飲み物も水ではなく、果汁の味がします。食べ終わると、幼子達は、寝てしまいました。美味しい食事をお腹いっぱい食べ、満腹になって疲れもあって、馬車の揺れの心地良さに、眠りに誘われたみたいです。
目的地の村までは、それから4日掛かりました。夜は野営して、美味しいパンという焼き物と、シチューという具だくさんの煮物をいただきました。それも毎日違う味なのです。私も皆も食事が楽しみで仕方ありません。
目的地のモルゴン村に着きました。族長さんは、アルビナ様という女性です。
私達には、《ゲル》という布の家が用意されていました。10人くらいずつ、一つの《ゲル》に入ります。水は、すぐ近くに井戸というものがあり、手押しポンプというものがあって、驚くほど簡単に、水が汲めるのです。
それから、公衆浴場という所へ案内されたのですが、なんと、温かいお湯で、水浴びができるのです。
そればかりでなく、お湯に浸かることもでき、石鹸という身体の汚れを、驚くほど落すものがあり、私は、たちまち美しくなって、男の子達の視線が眩しい思いをしました。
まだ、続きがあるんです。モルゴン族の皆さんから、モルゴン族伝統のきらびやかな衣服をいただいたの。美しくなった上に、美しい衣装を装い、私はどうなってしまうのかと、心配になりました。
あら、私って、もともとアオ族でも、指折りの美少女ですのよ。まだ、美人というには、あそこの成長が足りませんが。




