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第四話 二度目のスマホの新機能

 (コウジ)がこの世界に来て、既に5年の歳月が流れている。初めは、身近の手の届く範囲の人達を、貧困や災難から救いたいと行動してきた。

 それが、いつしか、街の人々に広がり、そして今では、王国中の人々になった。

 後悔は、していない。貧困や不幸から、たくさんの人々を救えたのだから。

 しかし、今回ばかりは、今までにない恐怖を

感じている。別な土地で平和に暮らしてい人々を、一方的に攻撃し奴隷にするという、暴挙を行う国の存在が確認されたのだ。

 その国が我が国に攻め込んで来れば、これまで築き上げて来たものが、灰塵(かいじん)に帰するかも知れないのだ。

 少数民族を奴隷化する強大な国と、接触することは避けられない。唯一幸いなことは、相手国は、まだ、こちらの存在に、気が付いていないことだ。

 この優位性を活かして、相手国が動き出す前に、相手国の息の根を止めなければならない。

 果たして、政治中枢の破壊だけで、解決できるのだろうか。国民性まで根深いものならば、たとえ占領しても、解決には何十年も掛かることだろう。


 俺は、悩み苦しみ、疲れ果てて、眠ってしまった。そして、夢を見た。

 夢の中で俺は、スマホを見ていた。写し出されたそれは、《ストリートビュー》だった。そこに写っているのは、オスマナ帝国の街の居酒屋らしく、客が料理を食べ、酒を飲んでいる風景だ。不思議なことに、動く人が(うつ)っている。

 《ストリートビュー》は、選んだ地点の景色を、写真に撮ったものを写し出すものだ。人など(うつ)っているはずがない。ましてや、動いている人など。


 朝になり、目が覚めたが、夢のことを思い出し、苦笑してしまう。余程、まだ見ぬ帝国のことを知りたいと思う意識が働いたのだろう。そんなことを思いつつ、枕元(まくらもと)に置いた《スマホ》に目をやると、通知のランプが点滅している。

 異世界に来てから、メールも来ないし、点滅などしたことがない。いや、新機能の〘MAP〙がアップロードされた時には点滅していたのかも知れない。あの時は、襲撃を受けて大慌(おおあわ)てだったから、覚えていない。

 

 《スマホ》を手に取り、起動させると、メッセージが現れた。

〘新しい機能が供給されました。アプリを起動して更新してください。今すぐ更新しますか。はい·いいえ〙

 当然、〘はい〙を選択。すると、〘MAPを更新しています。しばらくお待ちください。MAPが更新されました。ストリートビュー機能が追加されました。〙

 《MAP》を起動し画面を開くと、現在地を表示した、地図が現れる。画面下部に操作ボタンが増えており、《ストリートビュー》というボタンがある。ボタンを押す。すると、現在地のボタンに重なり青い◎二重丸の表示が現れる。

 その◎は、移動させることができるようだ。MAPの地図を拡大し、◎を隣の部屋に移動させ、ストリートビューの映像表示というボタンを押すと、隣室の映像が映し出された。

 ここは、ブルータスの街のハーベスト伯爵の(はな)れ。つまり、俺の自宅だ。隣室は、サナとリミの部屋である。俺の妻レイネが甘えん坊のリミと一緒に寝ている。

 その映像が(うつ)し出されている。ボタン操作で、◎の《カメラ》の向きを変えると、部屋の反対側のベッドで寝ているサナが映る。

 すごいぞ、これで、潜入捜査が危険を(おか)さずに可能になる。MAPを縮小して、東へと移動させるが、アオ族の村や南の森の地図は表示されるが、他は空白だ。一度行った場所でなければ、MAPは表示されないようだ。



 朝食の時間だ。俺、レイネ、サナとリミ、ロッドの5人家族、勢揃いの我が家の食卓は、久しぶりだ。皆、笑顔だが、特にリミが嬉しさを隠せないでいる。

 朝食のメニューは、フレンチトーストに、スクランブルエッグとソーセージ、カボチャのスープに、シーザーサラダだ。サナとリミには、牛乳とオレンジジュース、レイネは紅茶だがオレンジティ、ロッドは、ミルクティ。そして俺は、珈琲だ。

 

「皆、おはよう。今日もいい天気だね。サナとリミは、孤児院の日かい?」


「うん、でも、今日はお休み。ママとお買い物するの!」

 リミが嬉しそうに答える。サナとリミは、形式上、俺達の妹としたが、実質は子供だ。俺が父親でレイネが母親。だから、サナとリミは、俺達をパパとママと呼ぶ。


「サナも一緒なのかい?」


「そうよ、パパ。リミだけママに甘えるのは、ずるいもん。」


「あれれ、サナも甘えん坊だったんだあ。そう言えば、ママがいない間、リミと一緒にママの枕も抱いて寝てたもんな。」


「ワーワー、ロッド兄ちゃんのいじわるっ。もう、サナ達の寝室出入り禁止っ。」


「だって、お寝坊なサナとリミが悪いんだぜ。起こさないと、孤児院の焼き立てパンが食べられないんだからな。」


「ほらほら、お(しゃべ)りばかりしていないで、食べないと後でお腹空(なかす)くわよ。」


「お買い物って、何を買ってもらうんだい? パパにも買ってくれないのかい。」


「パパにも買うよ。ロッド兄ちゃんにはないけどね。」


「おっ、リミっ。トイレに怖いものが出ても知らないぞっ。」


「ママと行くから、いいもん。べー。」


「俺とロッドは、しばらく留守にずるよ。東の国の様子を探って来る。レイネ、サナとリミを頼む。」



 その日の昼前、コウジとロッドを乗せたモーターグライダーがブルータスの街を飛び立った。

 30分程で、モルゴン村の上空を通過、そのまま東の山脈へ向かう。山脈越えは、上昇気流を(つか)まえて、高度を上げなければならない。切立(きりた)った(がけ)付近に

上昇気流が発生している。少し間違えれば、(がけ)(たた)きつけられる危険な場所だ。上昇気流の上を、上方に螺旋(らせん)(えが)きながら、高度を上げて行く。

 山脈の高地に平らな場所を見つけ、着陸して野営をする。敵国の偵察は、明日の夜明けからだ。周囲に危険はないようだ。有っても、MAPのアラームが教えてくれるだろう。簡素な食事を取り、寝袋に(くる)まって寝る。


 翌朝、再び飛び立ち、山脈を越えると、しばらく森が続くが、やがて畑が見えはじめ、街や村が点在しているのが見えた。

 一先(ひとま)ず、この国の周囲をまわり、どのくらいの広さなのかを探ることにする。

 まずは、東へ向かって一直線に飛ぶ。だが、一日では東端に達することができず、着陸もできないので、ロッドと交代で操縦し、仮眠を取りながら、スマホと星を頼りに飛び続ける。

 翌日の昼過ぎにようやく、海岸線に辿り着き、帝国の東端が判明した。その日は、そこから海岸線を南下。海岸線は次第に西向きとなり、帝国は南も海に面していることがわかった。

 

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