第六話 モルゴン村の開拓 その一
僕です。兄上から、ペルシナ王国から亡命して来た、モルゴン族の人達を、帰化させるための村造りを頼まれました。
彼らは、草原の民です。羊を放牧し、餌となる草を求めて、移動して暮らしていました。大きな移動は、春夏秋冬の4回だと聞きました。
モルゴン族の食事は、赤い食べ物と白い食べ物と言われ、赤は肉を、白は乳製品を指します。
主食は、羊の肉で、ビタミンとミネラルの不足を、馬の乳を発酵させた馬乳酒で補っています。
主に冬場に肉を食べ、干し肉を作ります。羊の乳から、バター、チーズ、ヨーグルトを作り、馬乳酒を飲みます。
定住に関しては、羊の餌となる草を求めて、移動していた訳ですから、餌の確保ができれば問題はないのです。
主食の肉である羊の不足は、牛を補充して埋めることにしました。馬乳酒を作るために、雌馬の補充もしました。
そして、定住により、農耕が可能となったので、農場を作り、初年度は小規模ながら、小麦、トウキビ、ジャガイモ、玉ねぎ、人参、キャベツ、大蒜の作付けを予定しています。
兄上から、指示されたのは、彼らの生活様式を極端に変えないように配慮すること。
給料を支給して、ショッピングモールを作り、貨幣経済に慣らすこと。
ブルータスに学校を作り、モルゴン族の子供とハーベストの子供を一緒に教育すること。
モルゴン族の大人達にも、文字や社会のしくみ、各種の道具の使い方などを、定期的に講習することでした。
移住前に用意できたのは、駅のホームと仮駅舎、メイン道路と区画道路の舗装、井戸と手押しポンプ、牧場の柵囲いでした。
これらは、最低限必要だとして、ブルータスの鍛冶ギルドが総動員されました。
俺は、ラナと共に、モルゴン族長のアラビナと、戦士長のギスハの四人で、モルゴン村の開拓について、相談をしました。
「ラナ。あまり生活様式を変えないという、基本方針だけど、最低限必要なことは、何だと思う?」
「そうね。施設としては、戸籍や商売を管理する公民館。それに、病院は必要だわ。」
「うむ。僕もそう考えていた。それとね、モルゴン族の産業を興そうと思っているんだ。
アラビナさん。モルゴン族は、自給自足の生活をされてきた中で、衣服は、羊毛から作られてきたのですよね。」
「はい。モルゴン族の女性は、機織りや裁縫の技術を子供の時から学んでいます。皆、染色や機織りに、工夫を凝らして着飾るんです。」
「伝統の技術を持っているなら、それを発展させるのは、とても良いことだわ。」
「糸を紡ぐまでは、ブルータスの工房に任せて、モルゴン族の工房には、自動織機を入れ、羊毛だけでなく、綿花の糸を使って、機織りと染色をし、洋服を作ってもらおう。」
「うん。モルゴン族の伝統を活かした、一大産業になると思うわ。」
「モルゴン族の男性の仕事は、羊の遊牧をしていた訳ですが、今後は、牧場での放牧になります。羊だけでなく、馬と新たに牛が加わりますが。
ただ、羊の世話などは、女性達がやるようだから、馬と牛の放牧が主かな。
羊と馬と牛。将来的には、養鶏にも手を広げたいけど、今はまだ早いと思う。」
「ギスハさん。なにか希望はありますか?」
「ええ、私達は、狩りもしていましたので、この土地でも可能でしょうか?」
「あまり、詳しくはわからないけど、この辺りには、猪や狐がいるし、キジや鶉などの鳥もいますね。
皆さんの狩りの腕を落とさないためにも、狩りをされるのが、いいと思います。」
「そうね、狩りをすることで、武の伝統を守れるなら、いいと思うわ。」
「男性達には、馬を使っての農地開拓をやってもらいますよ。皆さんは、馬の御し方に熟練していますからね。
馬鍬などで、畑を耕し開拓をしてもらいます。
農地を広げるには、農業用水路の整備も必要だからね。馬を最大限活用して、土木工事もしてもらいますね。」
「駅前の施設ができたら、次は牧場ね。畜舎はもちろんだけど、バターやチーズ、ヨーグルトを作る建物の施設が必要だわ。」
「そして最後は、住居ですね。しばらくは、慣れたゲル暮らしの方が、いいでしょうけど、寒さや台風に対しては、ゲルでは不十分ですからね。今年の冬は辛抱して、乗り切ってください。その代わり、石炭とストーブを用意します。」
「ええ、もう、移動しなくても、生活できるのであれば、頑丈な家が理想ですわ。ここは、私の生れ故郷の国より、寒さが厳しいようですし。」
「施設や仕事の話は、これくらいですが、これからの生活について、お話します。
駅前に、いろいろな物を売る店を集めた《ショッピングモール》という建物を造ります。
その中の店では、食べ物や生活に使う物、道具、飾りなど、お金で買うことができます。
皆さんは、牧場や農場、公民館などで仕事をした報酬として、お金を毎月一回、給料として受け取り、そのお金で買うことができます。」
「え〜と、それは、必要になるのですか?」
「アラビナさん。今は食糧など皆さんの生活に必要なものをハーベスト伯爵が、与えていますが、来年の秋に、農場で麦や野菜の収穫がされたら、伯爵からの援助は、特別なことを除いて終わらせて、皆さんには、給料ですべて購入して、生活をしてもらうことになります。」
「それは、羊の乳や馬乳酒などもでしょうか? 今まで、それらは部族の誰でもが、必要なだけ手に入れられたものなんです。」
「原則は、すべてのものですが、部族の特別な事情もあるでしょうから、特別扱いして、配給とするなどの方法もあります。
アラビナさんが、ゆっくり、いろんなことを考えて、皆さんで相談して、決めてください。」
「それからね、アラビナさん。子供達のことで相談なのですが、ハーベストの子供と一緒に、この国のことを学ばせたいの。
そのためには、ブルータスの街へ通ってもらわなくては、ならないの。どうかな?」
「いつまでも、私達の部族だけで、暮らして行く訳にはいきませんから、むしろ、お願いしますわ。」
「良かったわ。たぶん一週間のうち5日くらい通ってもらうことになると思うわ。」
「ラナ殿。大人達にも、交流はともかく、この国の仕組みや生活を教えて、くれませんか。」
「ええ、公民館ができたら、皆さんを集めて、いろんなことを教える予定です。」




