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閑話12 モルゴン族の少女 マルカの旅

 私の名は、マルカ12才。モルゴン族の娘です。王家の争いで、戦士だった父を亡くし、病弱な母と暮らしています。

 戦いに負けたからと言って、我が家に一頭しかいなかった羊を取り上げられました。

 部族の主食の肉が絶対的に足りません。羊の乳から、バターやチーズ、ヨーグルトなどを作って食べることもできません。

 ただ、部族の馬から少ないながらも、馬乳酒を作り、なんとか、生きながらえています。

 これから、どうなるのだろうと思っていたら、砂漠を越えて、東の国へ行くのだと、部族長から告げられました。

 病弱な母を連れて、長い移動に耐えられるだろうか。食べる物も満足になく、羊を失って、これから生きていけるのだろうか。そんな不安を抱えながら、母の世話をしていました。


 まもなく、国の西端から東端への移動が始まりました。幸い母や年寄、足の悪い者などは、族長のアルビナ様が、ゲルなどの荷物と一緒に、馬車に乗せてくれました。

 雨が少ないせいでしょう、草原であるはずの土地は、枯れ草がわずかに残る荒野が続き、羊の餌となる草が、わずかしかありません。

 東へ向かう途中には、他部族と何度か、遭遇しました。剣を構えた怖い顔のオジさん達の横を、恐怖心をひたすら隠して通り過ぎました。

 

 長い移動の末、砂漠の入口まで辿り着きました。ここには、川が流れているので、木や草が枯れずに育っているようです。

 食事は、羊の乳を薄めて、わずかな野草の入ったスープだけです。

 川で少しだけ、小魚が採れました。でも、皆に行き渡るには、足りません。


 砂漠の入口に着いて、何日か経って、いよいよ砂漠へ旅立つことになりました。

 早朝に、砂漠へと旅立つと、寒くて震えましたが、日が昇るにつれ暑くなり、それは、うだる暑さから灼熱の熱さになりました。

 日が沈むと、すうっと、暑さが引いて、涼しさが訪れますが、夜半には、(こご)える寒さに変わります。その変化に皆、疲弊しながら、三日目の夕方に、一つ目のオアシスに辿り着きました。


 オアシスに着いたからと言って、夜の震える寒さから(のが)れられる訳ではありません。

 夜が深まる連れ、寒さが厳しくなる前にと、慌ただしくゲルを、組み立てました。

 オアシスで水を補給し、また砂漠の旅に戻ります。馬なら、一日で次のオアシスに行けますが、徒歩と馬車の私達は、三日も四日も掛かりました。


 20日目に、ようやく砂漠を抜け、ウインランド王国に辿り着くことができました。


 半日ほど進むと、ウインランド王国の兵に、取り囲まれましたが、アラビナ様が隊長らしき人と話すと、私達は少し先の川の(かたわら)に案内され、そこで待つように言われました。

 アラビナ様が、どこかへ連れて行かれてから、しばらくして、ウインランド王国の兵士の方から、ここで野営するように言われました。

 私達は、ゲルを組み立て、枯れ枝を集めて、

暖を取りました。

 その間に、兵士の人達は、大きな鍋で料理を作っていました。出来上がると、私達に食べるように言ってくれましたが、戦士長のギスハ様が、アラビナ様の指示なく、勝手なことをしてはならない、アラビナ様が帰るまで待つように言われました。

 ただ、誰か毒味をしろと言われ、なぜか、お腹を空かせた幼い子供達に、料理が配られました。

 子供達は初め、躊躇(ちゅうちょ)していましたが、一口食べると、その後は夢中で食べていました。

 ほどなく、アラビナ様が戻られ、食事をしても良いと言われて、皆でその料理をいただきました。私も空腹のせいもあり、夢中で食べました。野菜や芋、それに肉までたっぷり入っていて、とても美味しいシチューでした。

 次の日の朝にも、違う味のシチューと、パンという柔らかい食べ物が配られ、私達は空腹の生活から逃れられたのでした。


 野営地での生活は、美味しい食事が日に三食も与えられ、水浴びもでき、なんの不足もないものでした。

 羊達も豊富な草と水があり、砂漠の旅で失っていた元気を取り戻しました。

 ここの領主、ラスカル伯爵のお嬢様である、ティアナ様が母の病気を()てくださいました。

 食べ物の栄養不足から、脚気(かっけ)という病に掛かっているそうで、うなぎという魚の料理と、大豆という豆をたくさんくださり、しばらく、食事と一緒に食べるように言われました。

 ティアナ様は、他の病人や怪我人も診てくださり、石鹸というもので、皆の身体の洗うなどされ、皆から、とても感謝されていました。


 野営を始めてから一週間後、私達は5班に別れて、新しい居住地へ向かうことになりました。

 私と母は、アラビナ様と一緒に、第一陣で出発です。

 駅というところから、鉄道という大きな馬車のようなものに乗り、楽な椅子に座り、駅弁という食べ物と果実水という飲み物をもらいました。それはとにかく、驚きの連続です。

 この世界に、こんな便利なものがあり、こんなに美味しい食べ物や飲み物があることを、生まれて初めて知りました。


 夜に出発して、美味しい食事に満足した私は、列車の心地よい揺れに、いつしか眠ってしまいました。朝、気がつくと、母の(ひざ)まくらで寝ていました。母が微笑んで私を見ていて、この上なく幸せを感じました。


 それから程なくして、列車は、ハーベスト領のブルータスの街の駅に着きました。大きな街というものを初めて見ました。

 駅弁が積み込まれ、皆に配られました。母には、わざわざ、ラスカル領のティアナ様から言付かっているからと言って、豚肉とえんどう豆の入った駅弁が届けられました。

 なんという心遣いなのでしょう。この世界には、この上なく、優しい人達がいることを、私は知りました。

 おかげで、母の体調は、随分良くなってきているようです。笑顔が見られるようになりましたもの。

 

 ブルータスの駅を出て、駅弁の美味しい一時(ひととき)も終り、窓から見える景色が、山から草原に変わり、しばらくすると、私達の新天地、モンゴル村の駅に着きました。


 ここが私の新しい故郷。生い茂る背丈の高い草地に、ポツンと木が生えている、そんな景色をながめ、とても、愛おしく思いました。


  

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