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第1章 第7話



これは……完全にゴミじゃね?



いや、ゴミだ。



紛れもなく、完璧にゴミみたいな効果だわ。



まさか、シエルがさっきから妙な態度取ってたの

は……。



いや待て。



まだそうと決まった訳じゃない。



もしかしたら、この世界では最強の効果なのかもしれない。



一抹の期待を抱き、お姉さんに聞いてみた。



「あの、もしかしてこの世界って最初からステータスが固定されてるなんてことありますか?」



もしそうなら、この効果は上限値を突破して能力を上げるという最強の力になる。



だが、俺の最後の希望をお姉さんは澄ました顔で破壊した。



「いえ、能力が固定されてるなんてことはないですよ。誰でもレベルを上げていけばステータスはどんどん上がっていきます」



「ち、ちなみに1レベルあたりどのくらい上がるんですか?」



「個人差はありますが、だいたい平均30ぐらいですかね」



お姉さんの放ったこの短い言葉を最後に、俺の異世界に対する夢や希望、密かに抱いていたもの全てが打ち砕かれた。



そして、ついでに俺の中の何かが切れる音もした。



俺はシエルを問い詰めた。



「おい、シエル……」


「な、なにかなぁ?」



未だ視線を逸らし続けるシエルの顔を思い切りひっぱたきたくなったが、今は問いただすのが先だ。



「お前、この悪魔の加護がゴミ効果だって知っていたのか?」



「な、なんのことやら……」



こいつ……絶対知ってたわ。



「知ってたんだよなぁ?知ってて隠してたんだよなぁ?」


「……」



だんまりを決め込んでしらを切り続けるシエルに、俺はついに頭に血が登りきった。



俺はシエルの頬を思い切り引っ張ってやった。



「おい!いい加減に吐け!!知ってたんだろ!なあ!」



「ちょ、痛い痛い!!だって、本当のこと言ったら絶対見捨てるじゃない!」



やっぱりか。



「当たり前だ!誰がこんな使えない見てくれだけの悪魔娘と契約なんかするかっての!」



こんな右も左も分からない世界で、いくら可愛くてもタダ飯ぐらいの小娘と、どうして一緒に居なきゃならんのだ。



デメリットしかねえじゃねえか。



「ほらあ!!だから言いたくなかったのに!お願い!私を見捨てないでよ!私も冒険者として戦えばいいじゃない!」



シエルがついた必死の言い訳を俺は真剣に受け止めた。



そうか。それは考えつかなかった。



「まあ、確かに。お前自身が使えるならメリットはなくもないか」



俺の勇者願望は消えたまんまだけどな。



「そうだな。とりあえずお前のステータスも確認してみるか」



そう言って俺は、シエルからステータスプレートを取り上げ、お姉さんに見せた。



「どうぞ、この際正直な感想を言ってください。これは今後の生活に関わることなんで。お願いします!」



「は、はあ……」



お姉さんも困り果てていたが、これはマジで大事なことだ。



もし、この悪魔娘がとんでもない能力値だったら、今後も役に立つだろう。



せめて最強の冒険者の仲間という大義名分だけは確保しておきたい。



これが最後の望みだ。



「ど、どうですか?シエルのステータスは?」



「えっと……本当にはっきり言ってもよろしいのですか?」



お姉さんの表情を見てすぐに察しがいった。



これ……アウトなやつだわ。



「どうぞ、お願いします!」



「そ、それじゃあ。その……正直に言いますと、ステータスはほとんど平均以下。というか最低ラインですね」



その言葉を聞いて、俺の中にはもう何一つとして希望が残されていなかった。



「そ、そうですか……」



「はい。戦闘にはそこまで関係ありませんけど、特に魅力数値はほぼゼロに近いですね」



なんだ、魅力数値って?色気みたいもんか。



まあそれなら、初めてこいつを見た時にそこまでときめかなかったのも納得がいく。



「で、でも、MPだけはとんでもない数値ですよ!」



まさかのサプライズで再び俺の中に光が差し込んだ。


「ま、まじすか!?」



MPってことは魔力か。



伊達に悪魔やってないって訳か。



これなら強力な魔法とかがんがん使えるかもな。



しかし、そんな希望の光も束の間。



お姉さんは更に追加で説明した。



「で、ですが……魔法適正が限りなくゼロに近いです。というかゼロです」



オブラートに包もうとしたのだろうが、結局はっきりゼロと言った。



「辛うじて闇属性魔法の適正がほんのちょっとだけあります。闇属性の下級魔法なら使えるかと」



ごめんなさいお姉さん。



多分フォローしてくれてるんだと思うけど、全然フォローになってないですわ。



「大丈夫ですよ。もう諦めてるんで」



さらば、俺の輝かしい異世界生活。



ちょっと泣きそうになる。



俺は異世界で、ラノベ主人公枠に入ることを完全に諦めた。



そしてもうひとつ。



俺は後ろで黙り込んでいる無能娘に冷たい声を放っ

た。



「おい、そこの使えない悪魔娘」



「は、はい……」



もうシエルも消沈していた。



横目ではっきり見えないが、多分涙目だ。



それを見て、俺も怒りがどこかへ行ってしまった。



「はぁ……まあ俺ももう諦めたよ。だからもうお前を怒らない。俺だって平凡な能力だし、人のことは言えないからな」



さっき放った冷たい声色とは真逆の優しい口調でそう言うと、シエルはぱぁっと表情を明るくした。



わかりやすいやつだな。



「え、ほんと?もう怒ってない?」



「ああ、怒ってないよ。さっきは頬つねったりして悪かったな」



ついでにさっきカッとなって頬を引っ張ったことを謝ると、シエルは更に態度を変えた。



「そ、そうよね。うん、考えてみたらありえないよね!いたいけな少女の柔肌を抓るなんてね!まあ、謝ってくれたし?これからもご飯食べさせてくれるんなら、許してあげなくもないけどね」



急にデカい態度とってきたな。



てか自分でいたいけとか言うか?仮にも悪魔だろ、こいつ。



シエルの態度の豹変ぶりに呆然としていたが、どうやらシエルは何か勘違いをしているらしい。



「確かに、もう怒ってないとは言ったけどな。お前何か勘違いしてないか?」



「ほぇ?」



「確かに怒ってない。俺も悪かった、すまん。だからこれで終わりだ。それじゃあ後は勝手にしてくれ。じゃあな」



そう言って、ひょうひょうとした表情で俺はギルドの出入り口に向かって歩き出した。



「え、ちょ、ちょっと待ってよ!」



一瞬戸惑いを見せたが、それはすぐに焦りに変わり、シエルは俺を呼び止めた。



「なんだよ。もう話は済んだろ?」



「え、いや、そうじゃなくて、わたしはどうなるの?」



まだ状況を理解出来てないようだ。



「どうって……見てわかるだろ?俺はこれから1人で冒険していくんだ。お前はまあ、なんだ……頑張って生きてくれよ」



そう言って、再び俺は歩みを進める。



すると、背中に大きな衝撃を受けた。



「ま、待ってえ!!」



「うぉっ!?」



俺も思わず声を漏らす。



首を捻り、視線を向けると、シエルが涙目になって俺の背中に飛びついてきた。



「置いてかないでよぉ。隠してたのもごめんなさい!わたしが悪かったからあ!だから見捨てないでぇぇえ!!」



シエルは鼻水を垂らしながら、泣き叫んでいた。



……うっぜぇ。



鼻水が服に着いちゃってるじゃんか。



汚いなぁ。



チェリーの俺がこいつに魅力を感じないのも納得だわ。



「おい離せよぉ!こっちは役立たずのタダ飯食らいを置いとく余裕はないんだよ!」



俺の今後の生活だって危ういって言うのに、こんな何の役にも立たない見てくれだけでしかも魅力もない悪魔娘と一緒にいる理由がどこにあるっていうんだ。



「お前は見てくれだけはいいんだから、どっかお前を可愛がってくれる金持ちのとこにでも行ってこい!」



まあ、魅力が絶望的だから可愛がってくれるかどうかは知らんがな。



「やだやだ!!そんなお金持ちなだけで女に飢えてるようなおっさんのとこになんか行きたくないよお!!」



いや、そこまでは言ってねえけどな?



妄想力すげぇなおい。



「じゃあ俺みたいなハズレ転生者じゃなくて、どっかにいるお人好しのラノベ主人公みたいな奴のとこにでも行け!」


俺以外にも、転生者はたくさんいるだ。



しかもそいつらはしっかりチートな武器やらスキルやら持ってここに来てる連中だろう。



さぞ楽しい異世界ライフを送ってるんだろうな。



考えただけで妬ましい。



そういう余裕のある奴らのとこに行けば、シエルでも受け入れてくれるだろう。


「やだ!そんな気取った連中のとこなんか行きたくない!」


こいつ、またしても想像を膨らませて言い訳してきやがった。



まあ、これはシエルの言ってることもすげえわかるわ。



だが、それはそれだ。



「それでも俺にお前を養う余裕はないんだよ!わかったらそろそろ離せよ!」



なんかさっきから周りの視線が痛いんだよ。



受付のお姉さんもめっちゃ困惑してるし。



まあ、ギルドの受付の前で女の子が男に泣きながらすがりついてたら、そりゃ目立つわな。



俺は早くこの状況を打開しようと、少し力を強めてシエルを引き剥がそうとした。



だが、シエルも負けじと必死に俺に抱きつく。



「頑張る、わたし頑張るから!何でもするから!フーガの言うことなんでも聞くから!だからわたしを見捨てないでよぉぉお!!」



シエルはとうとうそんな爆弾発言をしだし、俺も焦りを感じた。


周りの視線が、俺だけに向けられるのを感じた。


(ねえ、今の聞いた?)


(あんな事を言わせるなんて)


(弱みでもにぎってるのよ、あの男)



(最低だわ……)



(鬼畜だ……)



そんな風に、周りがざわつき始めた。



これは、まずい!



確かに、状況だけ見れば、誰がどう見ても俺が悪役だ。



冒険者になって早々、俺の悪い噂が流れることだけは避けなければ、今後の俺の立場が危うい。



生活の余裕がどうとか言ってられなくなった。



このままだと、安定した生活が出来る前に、俺が社会的に死んでしまう。



やむを得ないか。



「フーガが望むことなんでもするから!だから……っ!?」



勘違いされるようなベタな発言を続けるシエルの口を強く抑えた。



「わ、わかったら!見捨てないから!もうこれ以上俺を悪役にしないでくれ……」



そう言うと、シエルは少しずつ泣き止んでいった。



「ひっく……ほんと?」



涙声でそう言ってくるシエルに、俺はなんとか笑顔をつくった。



「あ、ああ。本当だ」



笑える状況ではなかったが、ここで少しでも悪評を消しとかなければ、この後どう傾くか知れたものじゃない。



俺の返事を聞くと、ぱぁっと表情を明るくさせた。



「ぜ、絶対だからね!約束だから!」



こいつ、マジで切り替え早すぎだろ。



「あ、ああ。わかったから。と、とりあえずギルドから出よう!」



俺はシエルの手を引いてギルドから逃げるように出ていった。



あんな所にいつまでも居られんわ。



次ギルド行った時、どんな目で見られるんだろうなぁ……。



そんな事を考えていると、俺達はギルドから少し離れた広場に着いていた。



近くにあるベンチに座り、俺は大きなため息をついた。



「はぁ………」



「どーしたの、フーガ?」



何食わぬ顔で話しかけてくるシエルを見て、俺は頭を抱えながらもう一度ため息をついた。



「はぁあ………どうしたなにも、これからどうしたらいいんだよ……」



金のこととか、ギルド内での俺の立場とか……もうなにもかもが破綻してしまった。



「異世界来て早々ベリーハードモードとか、まじで笑えねえ……」



「まあまあ、そんなに悩むことないわ。なんとかなるってば!」



流石にちょっと開き直りが過ぎるシエル腹が立った。



「お前のせいだぞ、シエル。お前がもっと使えたら、こんなことにはならなかったんだ」



最初は期待してたんだ。



悪魔でしかも美少女。



一緒に冒険して、一緒に飯を食って、一緒に生活する。



なんて王道異世界ファンタジーなんだって。



でも現実はそんなに甘くなかった。



悪魔なんて名ばかりで、能力だけ見たら、ろくに使えそうにないし、俺はマジの平凡だし、シエルとの恋でも始まるかと思えば、全然ときめかないし。



なんだよこれ。



思ってたのとちがうじゃねえか。



俺の夢見た異世界ファンタジーをぶち壊してくれた張本人に俺は強く視線を送った。



「だ、だからごめんなさいって。わたしだって、ここまで酷くなるとは思わなくって……」



俺の視線を受けて、少し反省したのか、先程の明るさは抜け、しゅんとした。



だから極端なんだって。



まあでも、こいつだって何年も眠らされたままずっと1人だったから、やっと外に出られて嬉しかったんだろうな。



実際に自分で言ってたし。



こいつだって悪気があった訳じゃないし。



本気で落ち込んでいるシエルを見ていると、俺の怒りも消えていった。



「まあ、そうだよな。うじうじ悩んでたって金は増えないし。とりあえず足掻いてみるか」



まだ異世界に来て初日だ。



多少のトラブルなんて当然だろう。



別に、最初に貰った金がなくなった訳じゃないし、手持ちが尽きる前に安定して収入を得ればいいだけの事だ。



俺もシエルに習って開き直るか。



「お前ももう落ち込むなって。お前が言ったんだぞ。なんとかなるってな」



そうやってシエルをほんのちょっと励ましてやると、切り替えの早いシエルはすぐに明るい表情に戻った。



「そ、そうね!頑張ればなんとかなる!余裕余裕!!」



ほんとこいつは極端だな。中間ぐらいの感情を保持することはできんのか。



まあ、とりあえず今後どうなるかはひとまず置いておくとするか。



「まったく……これからどうなるのやら」



そんなことを呟きながら、俺は小さな笑みを浮かべた。



ベンチから立ち上がると、俺はシエルの方に体を向けた。



これからのことなんか、なんにも考えてないような顔をしている悪魔娘を見て、さっきまで頭を抱えていた自分がなんだか馬鹿らしくなり、再びため息を漏らした。



「はぁ……ま、とにかくだ。今日はもうどっかの安い宿に泊ろう」



「そうね!出来るだけ安いとこにね!」



「ははっ、まあこれからの事はまた後々考えるとして……シエル」



そこで俺は言葉を切り、1度目を閉じる。



瞼の裏には、俺が夢見ていた異世界に対する妄想の全てが映っていた。



俺が異世界で、凶悪なモンスターを倒して、魔王なんかがいたらそれも倒して。



みんなから勇者なんて言われたりして、賞賛されて、有名になって。



そうだ、可愛い女の子からモテまくって、ハーレム主人公なんてのもいいな。



昔の、何もなかった自分から抜け出して。



何も出来なかった自分を変えて、新しい人生を送る。



そんな願望が、俺の頭からどんどん消えていった。



それが全て消え、目を開けた俺は再び言葉を続けた。



「まあなんだ……色々あったが、とりあえずこれからよろしくな、相棒」



それを聞いて、シエルは一瞬はっとしたが、すぐに彼女の顔は満面の笑みに変わっていた。



「うん!よろくし、フーガ」



その笑顔に、俺は一瞬だけときめいた気がした。



くそっ、悪魔のする顔じゃねえだろ。



そんな考えとは裏腹に、俺の顔にもいつの間にか笑みが浮かんでいた。



夢は所詮、夢でしかなかった。



そう割り切るしかない。



異世界に来れただけでも十分だ。



俺は心の中で言った。



───さようなら、俺の夢見た異世界ファンタジー。



───こんにちわ、俺の知らない異世界ファンタジー。



俺とシエルは安い宿を見つけるために広場を後にした。




今回も読んでいただきありがとうございます!

必ず1日1話以上投稿していこうと思います!


よろしければ、ブクマや感想下さると嬉しいです。

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