第1章 第6話
受付所には、何人かの若い女性が冒険者達の応対をしていた。
ちょうど1人空いている所があり、俺はそこに直行した。
「あの、いいですか?」
コンビニの店員に声をかける要領で、受付嬢の注意を引く。
「あ、はい。何かご用ですか?」
そう言いながら、彼女は俺の方に顔を上げた。
想像通り……いや、想像以上の美人だった。
「あ、えっと、あの……」
どちらかと言うと年上好きな俺は、緊張して上手く言葉が出てこなかった。
女性と関わることなんてほとんどなかった拗らせ童貞が、いきなりこんな魅力的なお姉さんとまともに会話しろというのは無理な話だ。
いや、待てよ。
どうしてシエルにはここまで取り乱さなかったのだろう。
顔もスタイルも抜群にいいはずなんだが。
会った時は、悪魔に対する恐怖心が強かったからだろうか。
それとも顔が少し幼くて魅力を感じなかったからなのか。
もしかして、俺の本当のヒロインは、この受付のお姉さんなのでは?
そんな感じで自問自答しがら体をくねくねさせていると、またしてもシエルの言葉が俺を引き戻してくれた。
「ちょっとフーガ。いつまでデレデレしてるの。受付の人困ってるじゃない」
それを聞いて、俺はお姉さんの方に視線を戻した。
お姉さんは、他の受付嬢がつくっている営業スマイルとはかけ離れた苦笑いを浮かべていた。
完全に引かれてるな。
「あ、すみません。今のは忘れてください」
「は、はあ……えっと、それでご用件はなんでしょう
か?」
「あ、はい。俺、冒険者になりたいんですけど……」
「冒険者登録ですね。それではステータスプレートを発行しますので、手数料をお願いします」
そう言われ、俺はお金の入った袋を取り出した。
「あ、ちなみにおいくらですか?」
「はい、1人1万レクなので、お2人様合わせて2万レクになります」
「あーはいはい2万レクね……て、ん!?2万、え!?」
その巨額の手数料に、俺は思わず声を上げた。
「は、はい。ステータスプレートは、冒険者の証明書の役割を発揮すると同時に、その人の能力を解放する貴重なアイテムなので」
その説明を聞いて、この額に納得は出来た。
しかし、2万支払うとなると、冒険者になった後の生活が困るな。
駆け出しのうちは安定した収入は見込めないだろうし。
気軽にぽんと出せる金額ではない。
だが、冒険者にならないとなにも始まらない。
2万か……ん、待てよ?2万……シエルと2人で2万。
俺だけなら1万だ。
あれ?別にシエルが冒険者登録する必要なくね?
今更になって気づいた。
シエルは悪魔であって、俺がこいつからチート能力を貰えれば、別にシエルが戦う必要はないじゃないか。
「シエル、お前は別に冒険者登録しなくてもいいわ。ということで、手数料は1人分でお願いします」
「そ、そうですか」
シエルの意見を無視して事を進めようとすると、本人から声がかかった。
「ちょ、ちょっと!私も冒険者登録しないと力はあげられないんですけど?」
「え、そうなん?」
「そう。だから私の分も払ってよ」
まじかよ。せっかく安上がりになると思ったのに。
まあ、力がないんじゃ、今後稼げるものも稼げなくなるかもしれないしな。
「はぁ、仕方ないか……」
そう言いながら、俺は袋から2万レク分の硬貨を取り出した。
「じゃあ、これでお願いします」
俺はほんの少しの後悔を感じながら、お姉さんに2万レクを渡した。
「はい、確かに頂きました」
お姉さんは、手数料を貰ったことを確認してから、ステータスプレートを2枚テーブルに置いた。
「それでは登録を行いますので、このステータスプレートに軽く触れてください」
そう指示を受け、先に俺がステータスプレートに触れた。
すると、ステータスプレートが青く輝き始めた。
「おおっ、すげぇ!これぞファンタジーって感じだな!」
高揚感に浸りながら、数秒待っていると、青い光は消え、プレートにはさっきまでなかった文字のような物が現れていた。
「これで登録は完了です。お名前はこちらで入力させていただきますので、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「あ、えっと……じゃあフーガでお願いします」
フルネームだとなんかかっこよくないしな。
ゲームとかで使うニックネームだと思えばいいか。
「はい、フーガさんですね。登録しましたので、少ししたらプレートにも名前が現れると思います」
「あ、どうもです」
以外とあっさり終わるんだな。
まあでもその方がいいよな。
日本だと登録だの契約だのって言ったらすぐに書類とかにサインやらなんやらしないといけないから、面倒臭そうだったんだよな。
おっと、そんな事より、ステータスプレートを発行したんだから、自分のステータスを見ないとな。
そう思い、俺はステータスプレートを覗いた。
プレートには、多くの文字や数値が記されていた。
体力やMP、攻撃力や防御力、その他諸々に分類されている。
ぱっと見た感じ、俺の能力は……どの程度かいまいち分からない。
ここでの能力基準が分からないので、俺はお姉さんにプレートを見せた。
「あの、俺のステータスってどんな具合なんですか?」
俺の質問を聞き、お姉さんは俺のステータスプレートに顔を近づけた。
「うーん、そうですね……どの能力も初期値としては低くは、ないですね」
その言葉が、お姉さんなりのお世辞だということは、そのバツの悪そうな顔をみてすぐに分かった。
「低くはない、と言うことは……高くもないんですね?」
「あー、えっと……正直に言いますと、その……どの能力も初期の冒険者の平均値ということですね。酷く劣った能力もなければ、秀でた能力もない、といった感じです」
お姉さんの率直な説明を聞き、何となく察しがついた。
「それは……つまり?」
「その……端的に言うと、驚くほどに平凡、ということになります」
……………まじかよ。
転生者はチートの有無を除いてそもそもが強いというのがお約束だと思っていた。
とんだ期待はずれだな。
しかも驚くほどの平凡なステータスと来た。
やっぱりこの体のまま転生させてもらってるか、能力も死ぬ前と同じってことになるのか。
もうちっと体鍛えとけば良かったな。
多少の落胆はあるが、俺はそこまで落ち込んではいない。
なぜなら俺には、シエルがあるからな。
このぐらい余裕で挽回できる。
俺は開き直って、シエルにステータスプレートに触れるよう促した。
「さあシエル!早く俺にすんごい力をくれ!お前もさっさと登録を済ませろ」
「あー、うん。わかった……」
そう言いながら、シエルはプレートを受け取った。
だが、プレートを受け取るシエルの手に、どこか躊躇いを感じた。
シエルの冒険者登録も数秒で終わり、ステータスプレートに文字が現れた。
「さあ!登録が済んだことだし、さっそく頼むわ」
「あ、うん……分かった。じゃあフーガのステータスプレート貸して」
俺はシエルに自身のステータスプレートを渡す。
そしてシエルは俺のステータスプレートに手をかざした。
すると、一瞬だけどこか不気味さを感じる紫紺の光が見えた。
光が消えると、プレートの端に『悪魔の加護』という文字が現れた。
「はい、これで契約は終了」
「おおっ!これで俺も最強の冒険者にっ!」
悪魔の加護───その響だけでファンタジー感を一身に感じるわ。
「い、言っとくけどね。契約したからには、ちゃんと毎日私にご飯食べさせてよね」
今更何を言い出すかと思えば。
「おお、わかってるって」
しかし、やっぱりシエルの様子がおかしい気はするな。
契約する時もなんか躊躇してたみたいだし。
やけに飯の保証を確認してくるし、一体なにがあるっていうんだ?
まあ、とりあえず悪魔の加護とやらがどんなものなのか気になるな。
「そういやシエル、この『悪魔の加護』は一体どんな効果があるんだ?」
「………」
どうしてかシエルは黙り込んでいる。
視線も逸らしているし。
なーんか変だよな。
シエルが教えてくれないんだったら、お姉さんに聞いてみよう。
「あの、この『悪魔の加護』の効果って分かりますか?」
「ああ、それはアビリティの類ですので、詳しい情報は文字が記してある部分をタップすれば閲覧できますよ」
「おお、そうなんですか」
説明を受け、俺は『悪魔の加護』の欄をタップした。
すると、青い光と共に長文の文字が浮かび上がってきた。
「えーっとなになに?『この加護の効果は、1日に1度、無条件で全てのステータスが1ずつ上昇する』と。
おー、こりゃすげぇ!……ん、これは……すごい、のか?」
一瞬凄い効果だと興奮したが、よく考えると、凄くないような気が……。
………………いや。
よく考えなくてもわかる。
これは─────。
────────。
─────ゴミじゃね?
今回もご拝読ありがとございます!
自分は文章が下手なので、もしおかしな文法や誤字脱字があると思います。
よろしければ、そういったコメントもして頂けると嬉しいです。