第1章 第4話
本日2度目の投稿です!
楽しんで行ってください!
「貴様が、我を呼び出した者か」
彼女から放たれた言葉は、まさに悪魔のようなオーラを纏っていた。
素人でも分かる。これは、ホンモノだ。
だが、容姿は一見してただの少女だ。
それもとびっきりに可愛い。
真っ直ぐと艶やかに伸びた白い髪。これだけでファンタジー感あるわ。白髪萌えるわ。
そして、俺を異世界に送ってくれた女神へリアに勝るとも劣らない整った顔。
どちらかと言うとへリアよりも童顔だろうか。
瞳も大きくてキラキラしている。まつ毛も長い。
しかし、出るとこは出て、引っ込むとこはしっかり引っ込んでいる。
まさに俺の理想のスタイル。
だが、異世界に来た時の興奮が抜けてないせいか、俺は冷静だった。
こんな美少女が目の前にいたらもうちょい興奮してもいい気がするし。
これは、ちょっと賢者モードに似たような感覚なのかもしれないな。 年齢は俺と同い歳ぐらいだな。
まさに、ファンタジー、そしてド定番な出会いだ。
これはもしかしたら、この子と恋が始まるやも。
そんな妄想をしていると、目の前にいる少女がもう一度声をかけてきた。
「おい!聞いているのか貴様!」
「あ、ああ悪い。ちょっと考え事をな。そうだ、俺がお前を呼び出した風雅慎介だ。よろしくな」
「うむ、フウガシンスケか。長いから短くしたいな」
「ああ、それなら風雅と呼んでくれ。苗字の方がカッコイイからな」
今まで、自分の名前のことなんて考えたこともなかったけど、よく考えると風雅って苗字、カッコイイな。
「よし、ではフーガと呼ぼう。我のことはシエルと呼ぶがいい」
おお!流石ファンタジーだ。RPGに絶対出てきそうな名前だな。
「さて、フーガよ。我を呼び出したということは、我と契約し、力を得るということで間違いな?」
そう聞くシエルの表情は、なんだか嬉しそうに見えた。
「え、あ、そうだな、うん。契約するために俺はシエルを呼び出したんだ」
そう言うと、シエルは更に嬉しそうな表情をし、さっきまで感じていた悪魔さながらのオーラが薄くなった気がした。
「おお、そっかそっか!良かったぁ!やっとわたし、外に出られるよぉ」
……………ん?
なんだこの柔らかい口調。
さっきとは全然違うんだが。
なんか普通に女の子っぽくなってないか?
「え、えーっと、シエル?なんかさっきとは色々違う気がするんだが?」
「ほえ?なにが?」
「いや、その喋り方とか、雰囲気とか」
「ああ、さっきのは演技だよ?」
「…………はい?」
俺が呆然としながらそう返すと、シエルは俺を馬鹿にするようにくすりと笑った。
「ふふふっ。そんな今時の子が我とか貴様なんて使わないわよ。こういう風に喋れば悪魔って信じてくれると思ったから」
あれ?異世界でもそういうのは痛い子扱いなの?
「あ、そっすか。でもなんで契約するって言ったら嬉しそうにしたんだ?」
「え、だってわたし、ここ数年ずっとなんかよく分からない空間に閉じ込められてたのよ?そこから出られたんだから嬉しくもなるよ」
ああなるほど。
へリアさんが売れ残っていたと言っていた意味がやっと分かった
つまりこいつ──シエルはずっと貰い手がなくて、放置されてた訳だ。
それで、俺が呼び出して数年ぶりに出られたから、ちゃんと正式に外に出ることが出来るか俺に確認してきたということか。
急に口調が変わったのは驚いたが、まあ可愛いからいっか。
あの口調も、自分が悪魔であることを信じて貰うためのものだったのだろう。
「それならよかったけど。まあ、やっぱり俺としては、悪魔っぽい口調の方が異世界って感じでいいと思うけどな」
「え?やだよ。あの喋り方ちょっと恥ずかしいのよね。フーガがどうしてもっていうんなら戻すけど?貴様は我を呼び出した主だからな、なんちって」
うん、なんか可愛いからいいや。
というか、よく考えてみれば、こんな喋り方されるとやっぱ中二病にしか見えない。
同族嫌悪という訳では無いが、俺もそんな時期が少しあった。今思い出すと顔から火が出そうになる。
まあ、本物の異世界だから、そこまで違和感ないだろうけど、こっちの方が馴染みやすくて助かるか。
ファンタジー感はぶち壊しだがな。
これならシエルと、恋……が発展するのもそう遠くないかもな。
と、今はそんなことはどうだっていい。
まずはやらなければいけないことがある。
「喋り方とかはさておき、それで?契約するからには、俺になんか凄い力をくれるんだろ?」
俺が本題に入ろうとシエルにそう聞いた。
「あー、うん。そう、ね」
「ん?」
なんか歯切れが悪いな。
まあいいや。
「それじゃあ早速、すんごいのをお願いします!」
「あー、今ここでは無理。フーガはまずステータスプレートを作って。でないと契約を実行出来ないから」
ステータスプレート────ここでは初めて聞いた単語だが、わざわざ聞くまでもない。
おそらく、ステータスプレートというのは、自身の能力を表記したプレートのことだろう。
大抵、そういうのは冒険者ギルドとか、そういった施設で発行してくれるのがお約束だ。
そこで一緒に冒険者登録するってのが、基本的な流れになるだろう。
こういうのは、知識がある分他の連中より有利なのかも。
「よし、そうと決まれば早速ステータスプレートとやらを作りに行こう」
そう啖呵を切りながら俺は歩き出した。
と、その時、シエルが慌てたように俺を止めた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「ん、何だ?俺はなるべく急ぎたいんだが」
「その前に、1つ忘れてることがなかろうか」
口調を戻してそう言うシエルは不敵な笑みを浮かべていた。
これを見て、俺も何となく察しがいった。
説明書にも記されていた。
「代償、か?」
それを聞いてシエルは小さく頷く。
「そう、我は悪魔だ。我と契約するということは、それ相応の代償を貰わなければならぬ。それはわかるな?」
その言葉とシエルの鋭い視線に、背筋が凍るのを感じた。
軽い気持ちで考えていたけど、一体何を要求されるんだ。
俺は意を決してシエルに聞いた。
「俺は、何を差し出せばいい?」
「そうだな、我とて生きておるからな。食事をしなければこの世に留まることはできない」
その言葉を聞き、俺は少し怖気付いてしまった。
「ま、まさか……俺の血や肉を食糧としてよこせ、と……っ」
命の保証はできないというのはそういう事か。
だが、そう聞いた直後、シエルは先程の悪魔的なオーラを消した。
「へ?そんなことしないけど?」
「……え?」
「悪魔って言っても、体の構造は人間とほぼ一緒だからね。むしろヒトの肉なんか食べられないわよ」
「あ、そうなの……」
体に入っていた力みが一気に抜けた。
本当に俺の血肉を要求されたら流石にビビってただろうけど、なんか拍子抜けな感じもする。
「そういうこと。だからあなたには、あたしの健康な生活を保証してもらうわ。それが代償ね。ちなみに1日代償を支払わないと、フーガの寿命がちょっとずつ縮んでいくから気をつけてね」
「それはつまり何だ、俺はお前に飯を食わせていかなきゃ、寿命が縮んでいくってここか?」
「そそ、死にたくなかったらわたしを養ってってことね」
───────。
なんじゃそりゃ。
異世界ファンタジーってこいうもんじゃなくないか?
もっとこう、非現実的なことはしょっちゅう起こって、それを仲間たちと乗り越える的なもんだと思ってたんだけど。
確かに、こんな美少女悪魔が俺に養ってくれと言っている状況自体は非現実的だが、なんか違うんだよなぁ。
俺が描いていた妄想の1部が壊されていた時、どこからか「ぐぃぃぃぃっ」というだらしのない音が聞こえた。
空腹時になる音だ。
とりあえず俺じゃない。
その音の方に視線を向けると、少し恥ずかしそうに腹を抑えるシエルがいた。
「な、何よ。生きてるんだからお腹ぐらい減るでしょ」
「いや、俺は何も言ってないが」
「と、とにかく!わたしが要求するのは食事ってこと!ステータスプレートをつくる前にしっかり代償を支払って貰いましょうか!」
そう押し切ろうとするシエルに俺は別に批判的な言葉を出すことはなかった。
俺もこっちでの食事を体験しておきたいしな。
だが、問題がある。
「それは良いんだけどさ、俺は金なんか持ってないぞ?」
異世界に来るまで考えてなかったが、ここに来てまず、入手すべきはこの世界の情報。そして、金だ。
大抵の転生者はチートを貰ってるから、その辺にいるモンスターとかぱぱっと倒してあっさり生活費ぐらい稼ぐもんだろう。
「飯を食うにしても、まずはこの世界の金を調達しないとな」
結局、まずは戦わないといけない。
俺はそう説得した。が、シエルは少し怪訝そうな顔をした。
「えっと、フーガの言いたいことは分かるけど、もうあなた持ってるじゃない。お金」
「……は、どこに?」
俺がそう聞き返すと、シエルは俺の腰辺りに指をさした。
「ポケットの中を見てみなさいな」
そう言われ、俺はポケットに両手を入れた。
すると、女神から貰ったガラスプレートが入っていた逆のポケットに小さな袋が入っていた。
それを触ると、中からジャリっという音が聞こえた。
袋を取り出し、紐をといてその袋を開けると、そこには何枚かの金色や銀色の銭が入っていた。
「おおっ!マジだ!」
状況から推測するに、これは女神からの転生特典だろう。
考えてみれば、無一文で異世界に放り出されたらたまったもんじゃなかったな。
どんなゲームでも、初期に何かしらのボーナスがあるのと一緒だな。
いやしかし、待てよ。
「なあシエル、なんで俺が金を持ってるって分かったんだ?」
これは甚だ疑問だ。
どうしてシエルは、俺ですら気づかなかった金の存在に気づいていたんだ?
俺がシエルと接触した覚えはない。
一体どこで気づいていたんだ?
「うーん、なんでか分からないけど、あたしお金の気配が分かるのよね。正確に言うとお金の価値がある物かな?」
「へぇ、なんかよく分からんけど、凄いな」
それだけ聞くと、悪魔と言うよりトレジャーハンターだ。
いずれどこかの場面で使えるかもしれないな。
「まあとりあえず、金があるならいいか。よしシエル!飯食いに行くぞ!」
「おーっ!!」
シエルは俺の言葉に、嬉しそうに拳を上に突き出して賛同した。
あぁ、なんかいいな。
こんな可愛い悪魔が俺の後ろを嬉しそうに着いてくる。
以前の俺には想像も出来なかった光景だ。
ここに来て良かった。
楽しい異世界生活になりそうだ。
そんな高揚感を抱きながら近くの飲食店に入った。
だが、高揚感を感じたのは、これが最後だということを、俺はまだ知らなかった。
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