第1章 第1話
今回1話目の投稿です!
是非楽しんでいってください!
これは、夢───だろうか。
夢にまで見たというのは、このことなんだろうか。
先に何も見えなかった暗闇の中に一筋の光が差し込むように、今俺の目の前に1人の女性が見えたのだ。
胸は高鳴り、体温が上がるのを確かに感じた。
「あなたには、新たな人生を用意してあります」
普通なら、いきなりこんなことを言われたら、意味がわからない。
だが、俺はわかる。
俺の新たな人生。念願の───。
「その、新たな人生というのは……」
俺はそう聞き、彼女はにこりと笑いながら、返答した。
女神の言葉を脳が処理した途端、俺の鼓動は更に早くなり、息も荒くなる。
まさに興奮状態だった。
だがその熱は、ほんの……ほんの一時の事だった。
まさか、あんなことになるなんて───。
☆☆☆
現在、午後4時半の夕日が綺麗に見える時間。丁度、部活動のない中高生が帰宅する時間帯だ。
俺、風雅慎介、17歳の現役高校生は今、家の近くのコンビニに足を運んでいた。
因みに学校は、現在進行形で不登校である。
別にいじめられたぁだとか、教師が嫌だからとかそんな理由ではない。
むしろ、人間関係は人並み以上にうまくやっているつもりだ。まあ、ただ人との関わりを極力少なくしているだけだが。
成績もまずまず、運動もまずまず。
顔も別に悪くはない……多分。
しかし、俺は学校に行かず、家でゲームをするか、漫画を読む毎日を送っている。
今日は好きな漫画が掲載されている雑誌の購入のため、コンビニに来ただけだ。
どうしてそんな日常を送っているのか。
俺は単に、学校に行くのが面倒くさいだけなのだ。
制服を着るのも面倒くさい。
朝早くに起きるのも嫌だ。
学校に行くと、いちいち同じ挨拶をしなければ人間関係を保てない。そんなの面倒くさいとしか言いようがない。
学校に行っても、楽しいと思えない。
でもまあ、これは建前だ。
結局のところ、自分が本当に平凡なことに嫌気がさしているだけだ。
なんで俺には何も秀でた才能がないのか。
真面目に勉強しているのに、どうして普通の成績しか出せないのか。
どうして、女の子にモテないのか。
高校生にもなって、どうして彼女の1人も出来ないのか。
バレンタインデーなんて、俺からしたらただの平日だし、期待するだけ損する日なのに。
あ、最後の方は理由じゃなかった。
まあ結局のところ、自分が何にしても普通な、平凡な人間だということが嫌なんだ。
家に引きこもっていても、何も変わらないことは理解している。
でも、何かしたとしても、それはただ平凡なことを平凡にやっただけなんだ。
だからひきこもり続けている。
学校に行くよりはいくらかマシだ。
両親には罪悪感を感じているが、もう止められない。
ゲームや漫画のような、物語の主人公になれたらどれだけ楽しいだろうか。そんなことをいつも夢に見る。
もしも異世界に行って、凶悪モンスターや魔王なんかと戦って、仲間と冒険できたら、どれだけ素晴らしいだろうか。
そんな非現実的な妄想を毎日繰り返している。
これが所謂、現実逃避というやつなんだろう。
こんなこと、想像するだけで叶うはずなんてないのに。
俺はコンビニの雑誌コーナーで1冊の漫画雑誌を手に取り、レジに向かう。
レジには先に2人の女子高生らしき少女達がいた。
同じ学校の生徒だ。
あっちは制服、対して俺は白いパーカーにフードを深く被っている。
バレる心配はないと思うが、どうしても彼女達の後ろに並ぶ気にはなれなかった。
俺は彼女達が店を出るまで、立ち読みして待つことにした。
しかしその時、店の扉から黒いパーカーを着た怪しげな男が入ってきた。
男は一目散にレジに向かい、そしてポケットからなにかを取り出し、声を上げた。
「おい!金を出せ!ここにある金全部だ!早くしないと殺すぞ!」
そう脅しをかけながらレジにいる女子高生達や店員に向けたのは、警察官が装備しているような、回転式拳銃だった。
どう見ても偽物ではない。
銃を向けられた彼女達の顔は恐怖心に染まり、体はすくんでいた。
店員は恐怖で体をガクガクと震えさせながら、レジの中の金を少しずつ出していく。
そのペースの遅さに痺れを切らしたのか、男は傍で震えていた女子高生の1人を捕まえ、頭に銃口を当てた。
「早くしろって言ってんだろうがっ!マジで殺すからな!脅しじゃねえぞ!」
そんな怒号を間近で聞いた彼女は泣きながら息を詰まらせていた。
そんな現場を少し離れた雑誌コーナーで見ていた俺も、恐怖心に駆られ、足が震えていた。
だが、今銃口を向けられている女子高生よりは何倍もマシだ。
彼女達は、学校帰りにただコンビニによっただけなのに。
真面目に学校に通い、授業を受けて帰ってきていただけなのに。
そう考えたら、自然と体は動いていた。
多分、正義感とかじゃない。
俺はただ、平凡じゃないことをしたかっただけだったんだ。
このつまらない日常から抜け出したかっただけなんだ。
俺は男との距離を詰めていく。
男の血走った目は、レジの方に向いていたため、俺には気づいていない。
その隙に俺は男を後ろから押し倒し、彼女から手を離させた。
俺は男に馬乗りになり、銃を向けられないように手首を押さえつけた。
「早くっ!警察呼んでください!」
俺は店員にそう呼びかける。
店員はすぐに我に返り、非常事態用のボタンを押す。
「こんのっ、クソガキがあっ!!」
店員の方に視線を向けている間に、男は力を強めて抵抗してきた。
こんな時の対処方を俺は知らなかった。
俺が拘束していたのは両手首と上半身の動きのみ。
足は完全にお留守だった。
男は俺の背中に膝蹴りを入れ、俺のバランスを崩した。
その時、少しだけ手首の拘束が緩んでしまった。
男は力を入れ、俺の手を弾き飛ばし、俺が怯んだ間に腹部に拳銃を向けた。
そしてコンビニ2度の銃声が鳴り響いた。
瞬間、俺の腹部にとてつもない衝撃が走った。
そして少し経ってから、衝撃に勝る激痛が腹部を襲ってきた。
視線を下に向けると、 服に空いた2つの小さな穴と、そこから流れ出る赤い液体が見えた。
「なん、だよ……これっ」
服を少し触り、手についた鮮血を見ながら、俺は仰向けに倒れた。
酷い激痛と大量の出血から、意識も次第に薄れていく。
俺を撃った男は、俺が血を流しながら倒れるのをを見て正気に戻ったのか、怯えていた。
「ひ、ひやぁぁぁっ!!」
そう叫びながら、男は逃げ出すように店を出ていった。
店の外からはパトカーのサイレン音が聞こえた。
その後もどんどん意識は朦朧とし、視界はぼやけていく。
そんな時、視界に先程男に捕まっていた女子高生の姿が見えた。
「ふ、風雅くん!しっかりして!」
俺の名前を呼びながら涙を流す少女に俺は見覚えがあった。
彼女は同じクラスの女子生徒だったのだ。しかも俺の陰口を言っているとの噂を聞いていた生徒だった。
バレることは覚悟していたが、まさかここまでついてないなんて。
どうせ不登校の俺を陰で笑い散らしていたのだろう。
だが、そんな考えを口に出すほど俺は余裕がなかった。
俺の口から出たのは、自分でもあまりに予想外の言葉だった。
「けがは、ない、です、か?」
自分を嫌っていた彼女にそんなことを言うなんて、俺も優しくなったもんだな。
俺が今、死の淵に立たされているからだろうか。
それとも、何はともあれ人を救ったという事実にどこか達成感を感じていたのだろうか。
彼女は俺の手を握りながら言った。
「風雅くんっ!あたしっ、風雅くんのことすごく悪く言ってたの。本当にごめんなさい!」
そんなこと知ってるっての。
「あはは、別に、いいよ。自分の、せいなん、だから」
また本音とは逆の言葉が出てしまった。
「でもっ、今は違うの!風雅くんには感謝しかない!本当にありがとう!だから死なないで!また学校に来てよっ!」
俺は彼女の本性を知っているから、正直胸糞悪い気持ちでいっぱいだが、俺は彼女に何も言い返さなかった。
もう喋る気力も残ってなかったというのもあるが、多分それよりも人を救ったという達成感と幸福感があったからだろう。
俺はようやく、平凡を抜け出したのだと。
これからは何かが変わっていくのだと。
だが、もう意識が消えようとしている。
俺に必死で呼びかける彼女の声もだんだん遠のいていき、視界もほとんど失っていた。
そしてゆっくり、ゆっくり瞼が閉じていき、俺の意識は微睡みの中に消えていった。
俺は17歳にして、人生の幕を下ろしたのだ。
この度は、ご拝読ありがとございます!
まだ1話ということで、主人公が1度死ぬ所までしか進んでいませんが、これからどんどん話を進めて行くつもりなので、気になって下さった方は是非次回もお読みください!
これからしばらくは、1日1〜2話のペースで更新していこうかなと思います!
更新時間は未定です。
予定時刻ではない時間帯に更新する場合もありますので、よろしければブックマークなどつけて頂けると嬉しいです。
コロナウイルスの影響で、自粛中に書き溜めた作品なので、いつまで続くかは未定ですが、暖かい目で見守って下さると幸いです。
それではまた次話でお会いできることを楽しみにしております!