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シンの風  作者: ちしゅん
1/1

スナノマチ

流砂の中額の汗を拭う青年シンは吸い込んでしまった砂塵とともに文句を吐いた


「なんでこの暑さの中を歩かないといけねーんだ」


俺にとって歩かなくていけない理由。それは砂漠の町「ジェイガン」へ行き、突如村を出た幼馴染みを引っ張って帰るためだ。3カ月に渡る闘争劇の結末はちょっとした風なウワサによって終わりを告げようとしている。


3カ月前…


「おい!アカネ!」


「分かってる!でも、決めたの!決めてたの!前からずっと!わたし、アレじゃない?ドジだし!いつもなんかニコニコしてない?って言われるし!」


「あのな、ドジは経験積めばある程度カバーできるじゃねえかしかもニコニコは悪口じゃねえだろ!」


アカネはいつもは家事さえテキパキこなす!と息巻いては皿を割りまくるドジっ子の手は衣服をかなりダイナミックにカバンへ詰め込んでいく。名前の由来とも言える赤みを帯びた髪は手で耳へひっかけ片手で服を文字通りねじ込み、うつむいたままハァーと作業終了を告げる。


「出て行って」


うつむいたアカネは言葉で俺を突き刺す。はずもなく疑問の波が押し寄せる


「いや、アカネが今出ていこうとしているのを止めているんだが…村のじいちゃんばあちゃん、師匠も誰も止めねーと来たもんだからこうやって俺はアカネのためを思って…」


「入れられないの」


まさか服だけ詰め込んだのだろうか。他にも水とかあるだろ。大事なモノが。それなら家出にすらならない。せいぜい隣町で自分の古着を売る事で限界。


「そらみろ。準備不足だ。今日は考え直せ。どーせ寝たら忘れるパターン」


「シンがいたらパンツ入れられないの!それとも人の家出とパンツにケチつける気なの!?とにかくここにずっといれば迷惑かけちゃうの!ぐぬー!」


「どーも。終わりましたか?この村は今日も賑やかですね」


長髪の男性がフラッと現れた。俺とアカネにとっては師匠だ。剣術も、人生も学んだ。人生の部分は…というのはやめておく。不敬だ。この村にはどこか気の抜けた人が多いのではないだろうか。偶に恥ずかしさを覚える事がある。だからといって家出したいと思った事は俺にはなかった。


「師匠、ノックくらいしてください。後ベランダから現れないで下さい」


アカネはこの昔ながらヤシキ住まいで新興住宅に慣れない師匠との文化的ギャップも相まって余計にうつむき加減を強める


「いやー。すまない、アカネ。ケンカに際してはベランダから現れるのが私のポリシーでね。そんなことよりケンカの内容は家出についてだろう?」


「……」


「……」


俺とアカネの脳に焼き付いたのは「帝国」だろう。俺たちの出会いであり、アカネが今、こうして家出をしようとしている理由の核になっている。そうに違いない。


アカネは赤ん坊のころ、偶然この川へ流れ着いた。帝国が持つ未知の技術とともに。それは一見するとただの柄だが、アカネが念じると熱を帯びた剣が現れるため村では「炎の子」と呼ばれていた。最初は「悪魔の子」などという呼び方もあったそうだが師匠の「教育的働きかけ」もあり、その呼び名は消えた。とりあえず、師匠は「帝国でも『師匠』でした」としか過去を語らない。村の子どもは読み書き算を頼る。ヤシキとは師匠の家であり、学校であり、みんなの集まる場所でもあった。


「師匠、お世話になりました。本当に、ありがとうございます!師匠とシンの言は一生忘れません!」


師匠はそれをうんと相槌を打ち腕を組み言った


「ごはんにしましょう。腹が減っては家出もできません。あっそうそう、家出の課題ですがお酒を運んでいる船を探しなさい。ジェイガンという砂漠にある町へ着きます。そこでアルバイトをすると良いでしょう。というか酒屋くらいしかあの町には健全なバイトはありません。」


「はい!師匠!ありがとうございます!シン、早く!ごはん冷める!」


「おい…お前の家ではそれでいいのか…」


かくして16歳の少女は家出プランを師匠にきちんと報告した上でご飯を済ませて旅立った


現在…


もっともな強盗らしい獣人の3人に通せんぼを喰らっている。


「ここは強盗とか悪人がよく通るし、大切な街道でもあるから、ジェイガンの安全のためにも交通費を払っていたたがなかいと…」


「いただかないと」


「いたた?だかないと…」


獣人たちの中にはもっとクオリティを上げるという発想は無かったのか。


「チカンとしてジェイガンへ報告することになっております」


「おります」


「ます!」


汗が噴き出てきたのは暑さだけが理由では無かった。確かにアカネを追ってここまで来ている。本当の理由があったとしてもアカネには何も言わずに来たのだから余計にチカンっぽくなる


「…分かりました。これが限度です。通して下さい。」


クソッ悪い事はしてない。でも事を荒立てては本当にチカンになりかねない。そんなことをでっちあげられては…などと半ば自己弁護めたいた思考を巡らせつつも財布を前へ差し出していくがバシッと乱暴に掴みとるリーダーのと思しき獣人は走り去り、後を追って見て町へ砂塵を巻き上げ溶け込んでいく部下の2人


「確かに受け取ったぜー!『チカン野郎』!!オメーはこの砂で干からびろ!!バーカ!!」


強盗め。俺を悪人にする気だったか。初めからこうするしか…左右の腕は腰にかかる二本の刀へと居場所を求めた。師匠の下で身に付けた。それでいて「俺だけの二刀流」。少し「風を起こす」くらいなら。が、相手は獣人、魔物ではない。


師匠に課題を課された家出少女を探す他所の青年、青年自身も課題によってやってきた。これは苦しい。チカンで片付けられてしまう。非常にまずい。


「俺はチカンじゃねえー!!!」


叫び続けるしかない。そう。俺は無実だ。どちらかと言えば悪いのはアカネじゃないか!!叫び続けると疲れ果てて座り込んでいるのかあの3人がいた。悪びれもせず俺が叫び続けたかとを非難する


「関所の立て看板を見なかったのか!バカヤロー!看板はウソじゃねぇんだよ…大人しくしたけばこんなことにはならなかったんだもうすぐ近くまで来ていてる。なんだって今日に限ってよ…」


「看板はホントね。看板は。『巨大サソリは物音にビンカンです』ってやつね。それがどーかした?」


「もう近い…」


「もうお酒飲めない…」


部下はひどく落ち込んでいる。


すると何かが地鳴りとともに地中から盛り上がってきた。ツメのような鋭い何かは明らかに敵意を向けこちらへ進み噴き上がる。それはハサミの形状を成していた。その『本体』は顔を出さずになるハサミだけが空を舞う。看板にあるように巨大なサソリのハサミは直線を描いた後、持ち主がある地中へ帰って行こうとしている。本体はこの場にいる4人をギリギリ背に乗せれるのでは無いだろうか。間違いなく魔物である。地中にいるサソリへ向かい左の刀を引き抜き地面を通し突き立てた。


「んなもん効くはずねーだろ!!チカン野郎!おかしくなっちまったのか!」


そんな獣人の意見とは裏腹に「風を起こす」事で周囲の砂を掻き出し正式なご対面を果たす。尻尾にはサソリには似つかわしくないほどの鋭利な刃物が見受けられた。


「なんだよ!!その武器は!!」


「武器か!」


「まほう?」


獣人たちは危機的状況にも関わらずに立ち尽くし逃げようとしない。あとうるさかった。その騒がしさを遮るようにヤツは更に2本のハサミを同時に打ち出してきた。幸運なことに獣人たたは俺がこのハサミを避けなければ当たる事はない。


「た、助けてくれー!!」


「お助けー!!」


「おたすけー!」


「助ける代わりに、報酬はいただくぜ!」


俺をめがけ飛ぶ左のハサミを引き抜いた2本の刀の力で起こした乱気流で相手へ突き返す。進路は簡単には変わらないようで、敵の顔部分へ直撃し、大きく姿勢を崩す。右のハサミは乱気流を起こしつつ車輪を転がす要領で軸を相手へ向け俺自身がハサミに飛び乗る。出迎えに来た尻尾は切り捨て敵の背中へ着地。魔物は霧散し、魔物が消えていくその様が一件落着を伝えた。


「悪かったよ。金が足りなかったんだ…酒が切れるのが辛くてよ…」


「もういいから。あの岩山にあるだらけの町がジェイガンだな?」


「おうよ。じゃあ俺たちはここで。おい、お前ら、俺は名案を思いついた!次のビジネスだ!行くぞ!」


「待ってくださーい」


「まってー」


慌ただしい3人へ一応手を振ると財布を確認し、歩く。町は眼前になっている。一番後ろの獣人はとても幼く見えたが…とにかくまた悪事に手を染めない事を信じるしかない。


つづく

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