家族のみんな
「タマ、起きたばっかりだったよ」
そんなことを言いながら、階段横のダイニングに入るミケ。伊達に保育園の頃から幼馴染みをやっていない。そこそこ広さを誇る朱藤家だが、ミケの歩みに迷いはなかった。
どうなんだ、と思うほどの馴染みっぷりでキッチンにいる二人のもとに向かう。
そこにいるのは、背の高い男性と真玉と同じ制服を着た髪の長い少女だ。
「ミケくん、ごめんな。うちのタマが」
「いえいえ、いつものことなので」
「はい、ミケくんの分!」
「ん、ありがとう、タテハくん」
夫婦か!
なんて突っ込みたくなる風景もいつものことだった。
キッチンにいる男性は朱藤立葉。小学六年生のときに出来た真玉の養父だ。長めの黒髪をさらりと流した美丈夫なのだが、ネジが三本ほど抜けたようなゆるりとした雰囲気でどうにも全てが台無しになっている気がする。
真玉は背後に薔薇が見えそうな二人を横目に、キッチンに入った。
「おはよう、タテハくん」
「グッモーニン、タマ!駄目だぞう、高校生になってもミケくんにお世話になるなんて。ミケくんみたいなしっかりした子は、意外とお世話されることに弱かったりするんだから!」
「はいはい」
「流された!悲しい!父は悲しいぞ!アゲハー、タマが反抗期だ、痛ッ」
よよよよ、と大袈裟に泣き崩れるふりをするタテハの言葉を、彼の足を踏ん付けることで遮ったのはキッチンにいたもう一人の少女だ。
腰まで伸びた美しい黒髪、ほのかに色づく小さな顔にはラピスラズリのような大きな瞳が完璧な配置で嵌っている。少女の名前は朱藤あげは。タテハの実の娘にして、偶然にも真玉と同じ日に生まれた義理の姉だ。
「父さん、いい加減にして」
「父は悲しい…。アゲハまでも反抗期だなんて…」
あくまで悲しいふりを続けるタテハに、アゲハは眉を吊り上げる。それでも損なわれない美貌は流石と言うべきか。我が姉ながらなかなか眼福である。
アゲハはため息を吐きながらもお椀にお味噌汁をいれ、真玉に差し出す。
「お姉ちゃんも良い加減、名前じゃなくて父さんって呼んであげたら?」
「ん、考えておくよ」
「お姉ちゃんてばいつもそれなんだから…」
アゲハとは偶然にも同じ日に生まれた義理の姉妹だった。
だから、姉妹になったその日にお互い姉と呼ぶよう決めたのだ。
養父の呼び方についても初めて会ったときからの惰性のようなものだった。タテハを父と思っていないわけではなく、なんとなく″タテハくん″という呼び方が気に入っただけ。
タテハもそれを理解していて、わざと混ぜ返すような言い方をするのだ。言うなればこのやり取りは捻くれた形のコミュニケーションだった。
猫のような幼馴染みと美人でしっかり者の姉、ネジが三本抜けたような父、それと既に仕事に出た真玉の実の母。
それが今の真玉の家族だ。