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日本でJKになりました


 それは、深紅の光。

 どこまでも澄んだ命の光、錬金術の英知、賢者の───。


 ハッ、と鋭い息が口から溢れた。

 全身に重い汗をかいて、朱籐真玉(しゅとうまだま)は目を覚ます。


「あれは…」


 あれは、夢じゃない。戦場に響く怒声、血の臭い、人の焼ける匂い。すべてが本当だった。

 あれは真玉の過去だ。

 この世界じゃない、異世界キュビワノで生まれ育った真玉の──ミネット・ホノリウスの過去。

 ベッドから這い出て勉強机の上に無造作に置かれていた鏡を見る。

 透き通るような赤い髪はふわふわと広がり肩に付かない程度に短く整えられていた。光を集めたような髪とはまるで正反対の影のように黒い大きな瞳が幼い顔に収まっている。

 見慣れた筈の真玉の顔だ。

 しかし、ミネットとしての過去を思い出した今、酷く違和感がある。あの頃と同じなのは、髪の色と…。


 そこで疑問が生まれる。

 ミネット・ホノリウスはどのような顔をしていた?

 じっと鏡の中の顔を見つめる。

 眉を上げてみた。鏡の中の少女の眉が上がった。

 右目を閉じてみる。鏡の中の少女の右目が閉じた。

 笑ってみる。鏡の中の少女が笑った。

 なるほど、確かにこの少女は自分のようだ。


「…タマ?何やってるの?」


 ハッとして、声の方を振り返ると呆れたような顔をした制服の少年が部屋の入り口に立っていた。


「君は…」

「入学式のために念入りに支度してました、って訳じゃないね。どうみても起きたばっかじゃん。寝坊だよ」


 その少年は呆れた風を装いながら、ずいずいと部屋の中に入ってきた。散らかった部屋にも物怖じせず、当たり前の顔でクローゼットを開け、真新しい制服を取り出す。

 どこか軽薄そうに見えながらも、繊細に整った小さな顔。昼下がりに気ままに欠伸をする猫のような印象の少年だ。柔らかそうな紅茶色の髪にはミルクティー色と純白のメッシュが入っていた。言葉にすると派手そうに思えるのに、不思議とその少年には馴染んで見えた。


 三ヶ田陽色(みつかだひいろ)

 真玉の幼馴染みにして、今日入学する高校の同級生。

 そうだ、彼は"ミケ"だ。


「ほら、万歳」


 真玉は考え込みながらも、言われたまま手を上げた。「わぁ、お子ちゃまみたい」なんて失礼な言葉が聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 せっせと真玉の着替えを続けるミケの顔を眺める。綺麗な顔だとは思うが、やはり"ミネット"の記憶にない。当たり前か。自分の顔すら思い出せないのに、あの世界の誰かの顔すべてを思い出した筈がないのだ。

 いや、そもそもこの世界に、キュビワノの人間が自分のように転生している、と考える方がおかしいのだ。

 キュビワノでは当たり前のように異世界人がいたからつい、ミケも何らかの関係者なのではないかと疑ってしまった。


 ──転生。

 そう自分は転生したのだろう。キュビワノにいた異世界の魂を持つ来訪者たちのように。


「明日からは自分でお着替え頑張ろうね、タマちゃん」


 まるで小さい子に言い聞かせるようにミケはそう言って、真玉の頭を撫でる。

 ミケの細い手が首元の赤いリボンを結び終わったのを待ってから、気もそぞろに「…どうも、ありがとう」と返した。


 

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