前世の最期
創造不定世界"キュビワノ"。
その世界キュビワノは異世界から転移・転生してきた来訪者たちにより変革の時代を迎える。
そして現在、空の覇権を競うべく、科学・錬金術・魔法の三分野で新たなる航空兵器の開発が推し進められていた。
科学は誰にでも扱えたが、奇跡は起こせなかった。
魔法は才覚のある一握りのものだけに扱えた奇跡だった。
そして錬金術は少しの才覚と少しの学びで奇跡を起こせる。
───そう考えられていた。
■
ミネット・ホノリウスは創歴1990年にテーベ王国ホノリウス男爵の長女として生を受けた。
魔法の名家"雷のホノリウス"と呼ばれるホノリウス家の長女でありながら魔法の才覚は一切なかったが、ミネットには明晰な頭脳と飛び抜けた錬金術の才があった。
家のことは魔法の才があった妹にすべてを任せ、ミネットは好奇心の赴くままに錬金術を学び続けた。
朝も、昼も、夜も、ミネットは錬金術に夢中だった。
王立錬金術アカデミーを飛び級で駆け抜け、気付けば齢十五にしてテーベ王国皇弟殿下直属の錬金術研究機関"特殊武装錬金技術研究所"の実質的な所長になっていた。なぜ実質的な所長なのかといえば名目上の所長がアカデミーを共に駆け抜けた親友であり、仕えるべき主君でもある皇弟殿下その人だからだ。
皇弟殿下は研究所の運営・研究の全てミネットに預け、その研究結果を金儲けに使うことに明け暮れていた。曰く「さして錬金術の能がない皇弟殿下様が研究所に居座り、才ある研究所員に威圧感や緊張感を与え続けるより、所員たちの頑張りを金に変えて存分に研究に使ってもらった方が国のためになるからだ」ということらしいが、ミネットにはしっかりと皇弟殿下の本音が聞こえた。
「金儲け楽しい」
ミネットには彼が積み上がる金貨を前に呵々と笑い声を上げる様子が目に浮かんだ。そしてその隣で項垂れる彼の騎士の姿もくっきりと見えた。
ミネットはそんな彼らに少しの眩しさを感じながら、研究所で一心に錬金術に打ち込んだ。
少しの不便を解消するために生活に役立つ錬金道具を作った。
キュビワノに住むあらゆる種族の研究を進めた。
キュビワノの知性ある生き物なら扱えると言われる具現創魂術についても研究した。
───"具現創魂術"
異世界人が来訪し、科学や魔法、錬金術を伝えるより先にキュビワノに存在した最古の奇跡。それは魂の形を物質に変換する奇跡の術だ。しかし、ただそれだけであった。具現化した魂は決して壊れないことから、具現化魂が武器であったものは自らの魂を手に取り武勇を誇ったというが、それも過去の話。今ではそのような奇跡が存在することを知るものも少数であった。
そして特殊武装錬金技術研究所の名前の通り、戦争のための兵器を作った。
その武器を、兵器を試すため戦争に赴いた。
そして、ミネット・ホノリウスは死んだ。
血の匂いと人の焼ける匂いが立ち込める戦場で、憎悪に満ちた敵国兵によって殺された。
最期に見たのは、真っ赤な光。
どこまでも澄んだ命の光、錬金術の英知、賢者の───。
はじめまして、特急マトカです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
もし少しでも楽しんでもらえましたらブクマや評価をして頂けるととてもとても励みになります…!
これからよろしくお願いします!