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8.治療と授業 三時限目

 家に帰ると迎えてくれたレーヴァの姿に一息ついた。


「おかえりなさいませ。 お夕食の準備が出来ています」


「アインの腕を治すから、そのあとにするよ」


「怪我をしたのですか?」


 アンデットの損傷を怪我とは普通は言わない。いつも一緒に居るからレーヴァも、アンデットの損傷を怪我と表現するようになった。

 少し心配するような表情をレーヴァは浮かべている。


「ちょっとしたことであってね」


 地下室に折りてアインには作業台の上に寝てもらい、短剣を受け止めた右腕を診せてもらう。

 傷を慎重に確認すると、骨まで達していた傷は綺麗に肉を貫き血管や神経を切り裂いていた。切れ味が良かっただけに、余り肉や筋を潰さずに済んだみたい。


「すぐ治すから、じっとしていてね」


 器具と魔石を取り出し、少しずつ魔力を流しながら処置を進める。

 慎重に筋や神経を繋ぎ直し、肉を整復しつつ丁寧に内部を縫合。


「アイン、腕は問題なく動く?」


 言われた通りアインは軽く動かして状態を確認している。

 痛覚がほとんどない為無表情なのが、見ていて少しだけ辛い。


「問題ありません」


「わかった。 それじゃ皮膚を治すから腕をまたテーブルに置いてじっとしていて」


 新しい魔石を取り出し、皮膚と筋を繋ぎ合わせる。集中力が必要なため目をつぶり、じっと魔力制御に意識を傾けた。

 わずかな魔力の流れに従い、少しずつ本来あるべき形に戻るよう魔力を流し、生命活動をしていない傷口を治していく。




「リジェ様、お食事が冷めてしまいますが」


 レーヴァの声に気が付き、集中を解いて周囲を見回す。

 地下室だから時間は分からないけれど、長かった蝋燭がほとんどなくなっている。


「ごめん、どれくらいやってた?」

「50分程です」


 視線を向けるとアインの腕は傷痕もなくしっかりと塞がり、奇麗な状態に戻っている。


「このまま次の処置も行うから、アインは待っていて」


 急いで二階に上がって食事を済ませる。

 まだ湯気が出ているスープとパンの暖かい料理、師匠の下で食事をしていた頃には考えられなかったけれど、レーヴァがいるようになってからはこれが当たり前になっている。


「アインの状況は変わりそうですか?」


 レーヴァも一緒に食事、アンデットではあるけれど特別なレーヴァは食事からもエネルギーを得られる。


「ある程度は感情?らしいものも持つとは思う。 やってみなくちゃわからない点もあるけど、脳の動きが良くなるからね」


「そうですか。 それは楽しみです」


 笑顔になるレーヴァはやっぱり基本として優しいというか、思いやりの心がある。

 暖かい料理を一緒に食べ片づけをした後、地下室に降りていく。


「おまたせ。 続けるよ」


 講義受けた内容を参考にアインの脳の修復を行う。

 作業台の上に横になっているアインに、ゆっくりと丁寧に労わるように、魔力を流し脳の働きを活性化させる。

 自分にとって都合が良い人形のようなアンデット、そんなものに興味はないし、自分で考えて意見を言うくらいはっきりしてくれたほうが良い。

 欲しいのは奴隷ではないのだから。


「違和感を感じたらすぐ教えて」

「わかりました」


 なんども繰り返す事になるけれど、テッセラよりも基本の状態が良いので変化は早く起きるはず。

 ダンジョン発生アンデットなので、人格面はどうなるかはさっぱりわからないけれど、試してみる価値はある。


「昼食の時間になったらお呼びします」


 レーヴァはそう言うと一階に上がっていった。レーヴァにこういった処置が必要かと言うと、傷む前に完全なアンデット化しているので、まったく必要ではない。






 数日後、学園で三時限目の授業


「本日は皮膚の処置を行います。 これは簡単なようで、痕を残さぬようにするには大変難しく、しかしこれが出来なければ、いずれ劣化し筋組織がみえてしまいます」


 教官の横に立っているアンデットは、皮膚の一部が劣化し筋組織の一部が見えてしまっている。

 なんというか、少々痛々しい気がしてしまう。


「魔石の修復はもちろん大事ですが、手作業で移植も重要な事です。 まずは処置する素体は各テーブルにいますので、5人で一体を処置してください」


 作業台の上には皮膚が劣化し筋組織が見えている男性ゾンビが横になっている。年齢は30代くらいだろうか。

 顔も左半分が酷く爛れてしまい、状態は良くない。


「めんどくせぇなぁ」

「いまどき魔石も使わないなんてことあるのかよ」

「手作業なんて野蛮なことしたくないですね」


 3人はやる気がないのか、文句を言いながら見ているだけで道具を持つ事さえしない。何か文句を言ったところで作業が無くなるわけではないと分かっているだけに、リジェは構わず道具の準備を進めていた。


「やりましょうか。 やる気のない連中を相手にしていても仕方ありません」


 もう一人、真っ黒な胴衣を着用したネクロマンサーは顔に少し苦労を重ねてきたような皺や傷がいくらかある。間違いなくリジェより年上であった。


「2人でやれるのは、贅沢ですしそうしましょう」


 名も知らぬ同胞に賛同し、気にせず作業を始めるために器具であるナイフとハサミを手に取る。


「まずは頭部から始めよう」


 共に作業を始め、見栄えが良いように頭皮との境目を切開し、溶けかけた顔面の皮膚と下の筋肉の一部を丁寧にはがしていく。


「腹部の皮膚の状態が良いのでそれを移植しましょう。 腹部には用意されていた体色の異なる移植用皮膚を使いますが、よろしいですか?」


 もう一人の同胞の提案に従い、はがした皮膚の下の筋組織を整える。


「わかりました。 そちらはお任せします。 足はどうしますか?」


「そのまま移植用を使いしましょう。 こちらが終わり次第そちらに回ります」


 お互いに手早く作業を進める、これはあくまで治療ではなく修復作業、まだ自ら動くだけの魔力を流されておらず、腐敗防止の処理がなされているだけでまだアンデットでさえない。

 おそらく修復した後は単純作業用としてどこかで使われるのだろうと、そんなことを考えながら一通り作業を進めていく中、やはり残りの3人は手伝うどころか見てさえいなかった。

 一通り処置が終わる頃には他のグループも作業結果の判定が教官によって行われ、合格と共に解散した。ネクロマンサー同士、互いにあまり興味は持たない。

 ネクロマンサーと言う他国では忌避され、死体や死霊に興味を持ち深く関わる変人であるのだから。

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