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7.喧嘩

 授業がない日はアインを連れて図書館に赴き、許可されている書架の中から読んでなさそうな本を探していた。


「どれも既読済みばかり、師匠も結構書籍をもっていたんだなぁ」


 ほとんど読んだことがあり、二冊ほど読んだ事がない本を見つけ、机に移動し開くけれど、アインは立ったまま動かない。


「アイン 隣に座って休んで」


「わかりました」


 相変わらず抑揚のない声、発音そのものはテッセラよりはいいのだけれど、もう少し人間的反応ができるようになるには時間がかかるかもしれない。

 アインは隣の椅子に座りただ正面を見ている。




 ゆっくりと本を開く。

 内容は髪の染色に関すること、落ちにくく保存のしやすい染め方や、傷みにくい髪の手入れの方法など書かれている。

 横に視線を向けると、定期的に魔石で修復しているとはいっても、やはり髪の手入れをしているわけではないので、アインの髪は少し傷んでいるように見える。


「アイン、帰ったら髪の手入れをするから、期待していてね」


「はい、わかりました」


 無表情で答えるアイン、せめてありがとうございますと言ってほしいけれど、その辺りの反応はまだまだ先かな。

 必要な部分を本から手元に写し取り終えた頃には閉館時間も迫り、暗くなった夜道をアインと共に家へと向かう通りを歩いていく。


「アイン、服だけれどそろそろメイド服以外のものを」


「へぇ、良いアンデットを持ってるじゃないか」


 突然の声に視線を向けると、下種な目でアインを見ている自分より少し年上の男が立っていた。

 服装からして同じネクロマンサーと思われるのだけど、連れている女性型アンデットは非常に薄着、見た目もスタイルもそこそこよい。


「俺に売れよ。 かわいがってやるからよ」


「すみませんが、譲渡するつもりはありません」


 アインは大事なアンデット、それにレーヴァの仕事が増えるし、まだまだ調整したいことが沢山ある

 それに、アインの体目当てっていうのも気に入らない。仮にもネクロマンサーなら欲しい見た目のアンデットくらい自力で作れと。


「いいじゃねぇかよ」


 魔石を握った手をアインの額に向け伸ばすが、その腕を掴み止める。


「アインを譲るつもりはありません。 許可のない所有者の切り替えは犯罪ですよ」


「俺が丁重に言っている間に従えよ新人」


 睨む男が掴んでいた手を振り払い、二体のアンデットをアインとの間に立たせようとする。


「アイン、自分の後ろに下がって」


 アインを後ろに下がらせ、両手に小さな魔石をこっそりと握りしめる。

 ネクロマンサーのアンデットは命令を受けなければ、他のネクロマンサーに害をなせないのが基本、もちろんそれをちゃんと設定していないのもいるけれど、目の前にいる外見重視で動きが鈍いアンデットならどうにかなる。


「停止せよ!」


 両手の魔石から小さな光が走り、二体のアンデットの動きが一次的に止まる。

 ほんの2~3分にも満たない程度しか効果がない単純な強制命令、それでも癇に障ったのか男は腰に下げていた短剣を抜いた。


「てめぇ!」


 短剣を振りかざし、迫ってくる男を数歩下がりながら避けようとしたけれど、前に出たアインが腕で短剣を受け止めた。


「アイン!」


 慌てて腰に止めて置いた刃の潰されているショートソードを掴み、短剣を持つ男の腕を叩き短剣から手を離させる。

 男は腕を抑えてうずくまるけれど、アンデット達は命令されずに動くことなく、ただ男の近くに立っているだけ。

 急いでアインの腕を確認したいため、うずくまっている男をそのままに、アインの方を向く。


「アイン、腕を見せて!」


 腕を出させ状況を調べると、肉を貫き骨まで達している傷は深いけれど、なんとか傷跡を残さず修復はできそうだ。

 持っていたハンカチで傷口を、汚れが入らないように簡単に覆う。


「家に戻ったら治すから、今は傷口が開いたり筋が切れないように腕をあまり動かさないで」


「はい。 わかりました」


 アインはそう言うと布の巻かれた腕を不思議そうに見ている。

 うずくまっている男の方を向き直り、どうしようかと考えていると、町を警備している兵士の人達が駆けつけてきた。


「何をしている!」

「町の中での戦いは犯罪だぞ!」


 集まってきた兵士の人に事情を説明し、怪我をしたアインの腕を見せてなんとか納得してもらうことができた。


「まったく、他人のアンデットを了承もなく奪おうとは」

「数日は牢で反省してもらうぞ」


 死霊術師の町パンデミクでは兵士もアンデットに理解がある。

 襲ってきた男と共に付き従っていた女のゾンビを連れ、兵士の人達は詰め所へと戻っていった。


「それじゃアイン、家に戻って腕の傷跡を治すから」


 相も変わらず表情に変化はないものの、アインは少しだけ口角を上げ笑って頷いていた。

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