6.授業 二時間目
「先日作成したアンデットを使用し、高度作業をさせる調整を行います」
学生たちが集まる中、一時間目と同じ少々年老いた男性講師が
「精密動作とは、つまり脳の状態と手足の神経、そして筋肉の修復精度に左右されます。 これは3回に分けて講義を行いますので、難しい作業と思ってください」
各自の作業台の上には、小さな魔石がたくさん置かれている。
「まずは脳の調整を行います。 繊細な作業が必要ですので、全員注意するように」
講師はいくつかの魔石を手にしながら、黒板に書かれた図形を指示する。
「ではイメージをしつつ、欠損個所を直し、丁寧に修復作業を行うように」
正確な脳みその構造はさっぱりわかっていない。しかし脳が体を動かしていると言うことは判明していた。
だからこそ、魔石を使って少しずつ、腐ったり欠けたりしているところを、魔石で疑似的に修復する、魔力をどれだけ上手く操作できるかに左右されるので、非常に疲れる作業。
魔石を握り、作業台の上に寝かせているテッセラの頭部に両手で触れる。
出来る限り細く小さく魔力を流し、頭部の損傷や傷んだ個所を探すことに目を閉じて集中する。
「テッセラ、霧が晴れてきたら教えて」
「わカリまシた」
テッセラはまだ発音もおぼつかない。
これも脳の調整が終われば、少しずつ出来るようになっていくはず。
「細く小さく、ゆっくりと、労わるように」
自分に言い聞かせるように、魔石の魔力をテッセラの頭部に流し込み、一か所ずつ丁寧に魔石で代替させる。
正確にはわからないけれど、血管を細胞を理解できない何かを、魔力の自然な流れに沿わせて出来うる限り、じっくりじっくりと途切れてしまい、ほとんど流れていない場所に流していく。
繊細な作業に呼吸も深くゆっくりと、細心の注意を払うけれど、凄く疲れる為10分も経つと休憩が必要となる。
深く息を吐き、一旦作業を止める。
「テッセラ、状態はどう?」
相変わらず表情は変わらないテッセラは、動かずに四つの目だけをこちらに向ける。
「変わリアりまセん」
そう簡単に変化が起きるものではないけれど、ほんの少しだけ気持ち発音が良くなった気がする。
「そう、もう一度始めるから目をつぶって」
「ハい」
再び集中しながら頭部の修復を始める。
それから1時間、何人もの同級生が作業を終え、講師に合格印を貰って退室していく中、まだ作業を続けている自分の所に集まってきた。
「おせぇな」
「また居残りかよ」
「へぇ……」
同級生があれこれ話す雑音で少し集中力が乱される。
「そこ、邪魔をしないように。 終わったなら帰りなさい」
講師が注意をしてくれたおかげで、同級生は教室を去り再び静かな状況になった。
深呼吸を行い、再び意識を集中させ、感覚と頭の中のイメージを集中させる。
テッセラがちゃんと話せるように、いろいろ考えられるように、スムーズに動けるように、今できる最善を尽くす。
さらに1時間後、認識できる限りの個所を、今の技術で修復できる限り全てやり尽くした。
「テッセラ、状態を確認後机から降りて」
「状態ニ問題はあリません」
テッセラがテーブルから降りる動きに違和感もなく、悪化だけはしていないようだ。
「作業は終わりかね。 合格印を出すから君も帰宅したまえ」
「確認はないんですか?」
「講師を甘く見ちゃあかんよ。 ちゃんと魔力の流れは追っていたからな」
魔力を流れを追うなんて、師匠からは自分には30年は速いと言われたけれど、講師と言うだけあって凄い。
やはりこの学園では一流の教育を受けられると喜びの気持ちが沸き上がる。
「良い腕をしとるよ。 ただ遅いのが難点、もっと練習をするように」
「ありがとうございます。 今後も精進します」
講師から合格印を受け取り帰宅の途に就く。
学園の外に広がる商店街を抜け、店には興味深いものがおおいけれど、余り買うと怒られるので我慢しながら進んでいく。
そんな時テッセラが立ち止まる。
「テッセラ どうしたの?」
テッセラの視線の先には、店に置かれている古ぼけた短剣、二本で一対になっているらしいものがあった。
「短剣? 気になる?」
「イえ、少し目に映ったダけです」
視線を変えることなく、テッセラは短剣を眺めている。
興味を持つというのは人格に関わる発展、頭部の修復の効果が表れ始めたのかもしれない。
「価格は……まぁ買えなくはないかな。 それじゃ買っていこうか」
店に入り短剣を購入してテッセラに渡す。
「あリがとうごザいます。 大事にシます」
表情はほとんど変わらないけれど、なんとなく嬉しそうな雰囲気がしているのは気のせいじゃないと思う。
もう少し自然になればいいのだけれど、帰ったらアインも今日やった講義を参考に、修復作業をやらなくちゃ。