5.お仕事
授業で訪れた廃墟に赴き、お金を盛るため新しい材料を求めて周囲を探す。
材料を求めて、他の死霊術師の姿もちらほらと見かけることから、ここはやはりアンデットが発生しやすい場所になっているっぽい。
「さて、男の美形美形と」
廃墟を歩きながら顔が良い死体を探す。男の求める美形と女の求める美形は、わりと認識がずれやすいので、最低でも三パターンくらいは用意したい。
「う~、あぁぁぁぁ」
うめき声のする場所に向かう。
「うっ、ぐろい」
見つけたところには腐肉が溶け始め、腹部の臓器も引きずっている。
アンデットに慣れているとはいえ、過度に腐食が進んでいるものは、食欲を失う。
鉈を振り上げ、頭を叩き潰す。魂がない状態で生まれたアンデットだったとしても、腐った状態で動き続けるのは哀れ。
鈍い音と共に頭部の骨が砕け、腐肉と腐液が飛び散り、短剣に持ち替え魔石を取り除かず砕くと、そのまま溶けるように消えていく。
一息ついて体に着いた腐液を布でぬぐい取り、鉈と短剣も汚れを落とす。
「どけ!」
声に振り返ると、鉈が目の前に振り下ろされた。
「ここは俺が採取してんだよ! ガキはひっこんでろ!」
鉈を持つのは40歳代と思われるネクロマンサー、随分と機嫌が悪く怒鳴り散らしてくる。
「……わかりました。 他に行きます」
争いになっても仕方ないのでここは退く。
それにアンデットは生きた人間の声に敏感、大声を出したここに集まってくるはず、逃げなければ囲まれてしまう。
急ぎ足でその場を離れていくと、先ほどいた場所に向かっていくゾンビの群れを見かけた。声さえ出さなければ、悪い視力を頼りに探しまわるだけなので、危険性はそれほど高くない。
声を出さないように気を付け、静かにその場を離れ安全な場所まで移動する。
1kmくらい離れたところで一息を付き、周囲を見回すけれど、時折アンデットが歩く音がするだけで、生き物の気配は全くない。
ここで静かに美形ゾンビを探し、一体ずつ頭部や手足を集めていく。いくらか時間が経ったとき、先ほどまで居た方向から男性の絶叫が聞こえたけれど、助けに行けるだけの力は自分にない。
荷物を確認すると3体分は集まり、運ぶのもそろそろ辛くなってきた。半日ほどで集め終えたところで、呼吸の音もマスクで抑えながら追い払われた場所に行くと、先ほどの男がゾンビとなって歩いていた。
可哀そうだと思う気持ちと、ネクロマンサーとして判断を間違えたので自業自得という気持ち、その二つが織り交ざり、手足の肉を食いちぎられ、虚ろな目で歩く男の姿は何とも言えない。
鉈を握り締め静かに近づき、一撃のもとに首を切り落とす。
アンデットとして腐れ落ちていくよりは、まだ形を保っているうちに動かぬ躯に変える。これくらいしかしてあげられることはない。
町に戻り、ホルク死霊術師の家を訪ねる。
「ようやく戻ってきたか。 それで部品はあったか?」
集められたアンデットの部品を見せる。
じっくりとホルク死霊術師がテーブルの上に並べられた部品を見る。
「中々悪くはないな。 さすがはフォルスの弟子だ」
満足してくれたらしく頷きながらばらした手足を見たあと、集めた頭部も見比べ、切り口も見ながら何度か頷いている。
「顔も悪くはない。 これなら十分顧客からの依頼を作れそうだ。 全部で35万フリス支払おう。 今後も何かあれば頼むし、持ってくれば買い取ってやろう」
「わかりました。 では今後もよろしくお願いします」
思ったよりも高く買い取ってくれるし、今後もなんとかこれで生活費は稼げそう。
しかしやはり実力がある死霊術師となると、お金があるっていうのがよくわかった。
「学園の勉強は難しいが、困ったら来るように。 あまり頼られても困るが、兄弟子の弟子を無下に扱えんからな」
そのままホルク死霊術師に報酬を渡されると、家を追い出され一人帰路についた。
懐が暖かくなり良い気分で街中を歩いていると、途中で死体屋に展示されている品にふらふらと引き付けられる。
「これは」
展示されているガラス瓶の中には、見たことがない目玉が収められていた。
そのままふらふらと店内に入り、近くで商品をじっと眺める。
「蛇の魔物から取り出し蛇眼、滅多に手に入らないものですよ」
じっと見ていることに気付いた店員が説明にくる。
「蛇眼ですか」
防腐液の中に入っている目玉は、ちょうど人間の目と同じくらいのサイズをしている。これなら魔物ではなく人型のアンデットにも組み込めるかもしれない。
そんなことよりもこんな珍しいもの、ぜひとも調べてみたい。
「二つ合わせて2万フリスでお買い得ですよ」
「買います!」
即決で支払い、上機嫌で家に帰ったのだけれど。
「もちろんリジェ様が稼いだお金です。 お渡しした娯楽費の内だったとしても、資産は大事なものであり、研究の為とはいえ熟考せずに買うのはいけません。 その事をご理解頂きたいのです」
無駄にお金を使ったことをレーヴァにこってりと怒られることになった。