2.修復と入学試験
ダンジョンを抜けて家に帰るまで、かなりの冒険者や村の人々に見られたけれど、ネクロマンサーを意味する黒色のローブに赤い紋章、それを見ると睨むくらいで視線を外された。
村はずれの家に戻ると、地下室に降りてゾンビに処置台の上に横になるように指示を出す。
処置台の上で横になったので、ぼろぼろの服を剥ぎ取り肩と股関節を調べ、ダンジョンで入手した他の女性の手足を用意。次にナイフなどを取り出し、魔術で空中に浮かせ処置を開始。
階段を降りてきたレーヴァの冷たい視線を浴びつつ作業を続ける。
そりゃまぁ、女性からしたらゾンビとはいえ、素っ裸にしているのだから、機嫌はよくないよね。
「……肩口から繋げるのですか? その辺のゾンビは肩より先でつなげていたと思うのですが」
「確かに上腕とか大腿で繋ぐのは簡単だけどさ。 負荷をかけると取れやすいんだ。 大変だけど、関節からきっちり繋げたほうが、精密に動けるし負荷にも耐えられる。 見た目もいいしね」
胴体と手足の関節周辺の肉を丁寧にはがし、関節と筋肉を繋ぎ合わせ、神経も極々細の糸で丁寧につなぎ合わせる。
「次は皮膚を直さないと」
他のゾンビやスケルトンから取り出した魔石を握り締め、皮膚の傷口に押し当て取り除いていく。
ゾンビであるが故に、特定の方向に魔力を制御して流してやれば、小さな傷ぐらいは塞ぐ事が出来る。
あんまり大きい傷や欠損だと外科的処置をして塞がなければいけないし、塞いでも相当調整したり塞ぐ素材を厳選しないと動きに影響が出てしまう。
その辺はやっぱりネクロマンサーの技術次第だけど。
皮膚の傷を直し、肩口の縫い合わせ部分を丁寧に滑らかに仕上げてちょっと目では分からないように整える。
次はまばらに抜けている頭髪を移植するため、在庫をしまっている棚を確認。
「うーん綺麗な髪に在庫が無いなぁ」
防腐処理して保存してある棚を確認しても、どの色も一人分の頭髪には満たない程度しかない。
「赤と金を組み合わせてはいかがですか?」
「半々になるけど、仕方ないか」
レーヴァの提案に従い金髪と赤髪を半々に着ける。カツラと違ってちゃんと埋め込んだので早々簡単に抜けることは無い。
これであとは入学試験まで調整するだけ。
一ヵ月後……死霊術士の学園
どこもかしくもネクロマンサーとアンデットの歩く学園都市 パンデミク。
大通りには堂々と死体屋など、死体の部位やそのものを売っている普通の町ではありえない店まである。
その中をリジェとレーヴァは歩いていく。
「凄いものですね。 どこを見てもアンデットに関わるものばかりです」
レーヴァは驚きながら周囲を眺めてみる。
「そうだね。 自分も師匠から聞いてはいたけれど、ここまで活気があるとは思わなかった。 あっ、踊り子の脳みそだって」
興味あるものを売っている店にふらふらと入りそうになるところを、レーヴァに腕をつかまれる。
「買い物は後になさって下さい。 まずは入学試験会場に行きませんと」
後ろ髪ではなく腕を引っ張られ、レーヴァに入学試験会場へと引きずられていく。
試験会場
「かなり……、かわったアンデットもいますね」
レーヴァの言うとおり、手が羽になっていたり、多脚になっていたりと、かなりキメラ化しているアンデットも結構いる。
自分はそう言ったタイプは一切作らないし、基本的に農業向けの牛や馬ゾンビばかり。休まず食事もいらずに働き続けられるだけに、需要も高いし少し高めでもよく売れる。
丁寧に作らないと関節と筋肉がすぐに引きちぎれるから、技術が必要なんだけどその辺は師匠にきっちり鍛えられている。
「個人的にはあぁ言うのは好きじゃない。 異形だとバランスも悪いし、他の部位への負荷も大きいんだ。 師匠も人型は人型を、獣型は元の型を離れない方が良いと言っていた」
「聡明な師匠だったのですね」
「厳しかったけれどね。 あとすけべだった」
少し苦笑しながら話している中、多くの受験生が合否判定を受けていく。ほとんどのアンデットが人型を改造したキメラのようなものばかりだ。
「では次 リジェ製作のアンデット」
順番が呼ばれ、台座の上にこのために作り上げたアンデットのアインを立たせ、軽く躍らせてみせる。
「見栄えが悪いな」
「ただのゾンビじゃねぇか」
「大した技術もないくせにきたのかよ」
至ってノーマルなゾンビであるアインを見て、他の受験生は悪態をついている。
「ほぅ、よく修復されている。 繋ぎ換えは腕かね?」
ただ試験官のネクロマンサーは、他の人型を改造したゾンビとは異なる点を見つけてくれた。
「いえ、腕と手足、あとは頭髪を移植しています」
「基本に忠実かつ良い腕だ。 意外性は無いが、踊りの動きもスムーズで悪くはない。 合格としておこう」
きれいに繋ぎ合わせるのは、とても大変で技術も必要、師匠に何度もダメだしされて、かなり練習を積んだ。
簡単なものではなく、技術が居るものと理解してもらえたのはうれしい。
「ありがとうございます! アイン、もう降りていいよ」
女ゾンビのアインが舞台から降りると、試験官から合格の印を受け取り、その足で試験会場から出ていく。
「リジェ、試験は終わりましたが、アインはいかが為さいますか?」
レーヴァの言葉に試験の後どうするかなんて何も考えてない事に気付いた。
見た目の器量はいいほうだし、金持ちの愛好者にでも売りつければ金にはなるかな。
「うーん。 変態スケベのヒヒ爺にでも売りつけ……、いえ 君の部下にしようか」
レーヴァの冷たい視線と殺気に急ぎ訂正する。
「そうですね。 では雑用から任せてみましょう」
危うかった。怒らせるとレーヴァはとっても怖い。
下手に怒らせて鍛錬時間を増やされたり、月当たりの小遣いを削られる所だった。
「アインは一般成人女性くらいの力と耐久性しかないから、お手柔らかにね?」
一ヵ月後……入学式
入学式に並んでいると、やはり自慢のアンデットを連れた学生が次々集まってくる。
二人のメイド服を着ている女性を連れているような状態の、自分はかなり浮いているけれど、引越しの忙しさでアイン以降新しいゾンビを作ってる暇がなかった。
「リジェ様、式の最中ですので」
「あ~、うん 分かってるよ」
意識が式から離れていたことをレーヴァに咎められる。
「……であり、我が学園は200年の歴史があり」
長い。しかも学校の歴史なんて入学を考える人なら皆勉強しているはずだし、何も入学式で長々と語らなくてもいいのに。
結局1時間くらい学長が話した後、入学式は終わった。
「さて、今日は図書室か学校経営の販売所にでも行こうかな」
「おい」
声の方を向くと目の前に拳が向ってくる。
とっさに両腕で防ぐと同時に、レーヴァが殴りかかってきた男を殴りつけ、鈍い音を立てて男が地面に倒れる。
「不埒な者ですね。 教育が必要です」
不機嫌な顔をしながらレーヴァが男の横に立ち、頭を踏みつけている。従者ではあるけど、護衛でもあるから間違ってはいないけれどちょっと過激。
「いや、確かにそうだけど、ほどほどに?」
「そうですか。 ではこの程度で終わらせておきましょう」
レーヴァが足をどかしたので様子を確認してみると、気絶しているだけで一応死んでは居ないみたい。
「よかった。 まだ生きている。 とりあえずこの暴漢はこのまま放っておこう」
服装からしてこの人もネクロマンサーなのだろうけれど、妙にごっつい人だなぁ。それに人相も悪いし、こういうのがネクロマンサーの悪名を広めているんだろうか。
「しかし、訓練が役に立ちましたね。 これからも続けましょう」
レーヴァは上機嫌で訓練を続けると言っているけれど、自分はネクロマンサーであって剣士じゃないんだけどなぁ。
「ネクロマンサーが剣士の訓練っていうのは余りにも」
「身を護る為には必要です。 それに私の主なのですから、剣一本で10人の騎士は倒せる程度にはなってもらいませんと」
「ど……、努力します」
図書館に入ると、他の学生達もここでしか見られない蔵書を目当てにしていたみたいで、沢山の学生がいるけれどなにか様子が変。
「ですから、一年生はAエリアしか入る事ができません」
「え~」
「せっかく入学したのにそりゃねぇよ」
「……かなしい」
どういうことなのか分からないけれど、近くにある館内図を見てみると、話にあるAエリアは入り口近くで随分と狭い。
Aエリアに移動して本を探してみるけれど、どれも初級と言うか基礎中の基礎の本だけで、入学できる人達なら読まないだろう本ばかり。
「あ~、こういうことか」
図書館が今の学年では余り意味がないとわかり、納得してその場を後にした。