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1.始まりは暗い場所

死体置き場

 薄暗い部屋の中、二つの人影が並べられた死体を一つ一つ調べていた。


「うーん」


 自分の名はリジェ。白い髪と落ち着いた顔立ちから年齢を間違えられるけど、まだ20歳になったばかりの新米ネクロマンサー。鍛えさせられているせいでネクロマンサーの割りに剣士みたいな体格をしているけれど、私はれっきとした死霊魔術師。

 今回、ネクロマンサーとして新しいアンデットを作るため、死体置き場を訪れたものの、ろくな死体が無かった。


「今回も良い生体部品はありませんか?」


 従者のレーヴァ、白髪・褐色・ブルーアイ・スタイル抜群で鋭い目が特徴的な美人、魔法によって腐らず痛まず、傷まで治る特別製のアンデット。おかげで師匠から引き継いだ資材を全部使い切ったけれど、頭がいいので困る事がない。


「今回もなしかな」


「それでは入学試験に間に合いません。 妥協もしませんと」


 レーヴァは困ったような表情を浮かべながらリジュに諭す。

 20歳から入学が許される死霊術士の学園。

 8月の入学試験まで一ヵ月を切っているのだけれど、まだ試験に使用するアンデットの作成ができていなかったので、こうやって時折死体置き場に足を運んでいる。

 師匠は自分が18歳になった時、後は学園で習うようにと伝え、家と物品を自分に譲渡して旅に出た。新たな死霊術の探求のために、今もどこかで研究を続けていると思う。


「仕方ありません。 試験は私が」


「いや、それはないから。 なんとしても用意するからレーヴァはでなくて大丈夫」


 18歳の時、紆余曲折あってアンデット従者となったレーヴァ。見た目もスペックも高い為、愛着が沸き過ぎて傷付けるのが惜しくなり、入学試験に新たなアンデットを作成することにしたのだけど、中々試験に合格しそうな死体が見つからなかった。


「それでしたら早急に作りませんと、間に合いませんよ」


 呆れた表情を浮かべるレーヴァの指摘どおり、早く作り上げてあれこれ手を加えたいところ。それでも死体置き場に置かれてるのはただの一般人ばかりで、見た目も普通すぎて手を加える気さえ起きない。


「どれも人並みで、使ったとしても入学試験には使えそうに無いかな」


 デザイン部門か戦闘部門か精密作業部門で合格が出ないと入学はできない。残念だけど、死体置き場にあるモノじゃ、どう頑張っても合格する気がしない。


「それではダンジョンに潜りますか?」


「確かにダンジョンしかないかなぁ」


 アンデットばかりが現れる墓場のダンジョンがあるにはある。

・1~3はスケルトン

・3~7は一般ゾンビ

・8~13は兵士や騎士ゾンビ

・14にはボスのスケルトンキング。


 品質は個体差が大きくてばらばらだけど、その為に運がよければ質が良い死体も手に入る。

 自分ひとりで潜るとなると、地下7階が限界だし持てる量も限られるけれど。


「急ぎましょう」


 決まったわけではないのだけど、レーヴァに引っ張られるように死体置き場を出て行った。



 三日後にはダンジョンの入り口には到着、 一般的な石材で作られた薄暗い通路を進み、他の金稼ぎの冒険者達と共に、スケルトンを倒して魔石を集めながら階層降りていく。

 4階を歩き回りながら、ゾンビの手足や小振りの魔石を集めていると、他の冒険者達がこちらを睨んでくる。

 やっぱりネクロマンサーは死者への冒涜として、冒険者や一般の人には嫌われている。

 それでも戦争のときは死なない兵士を作り出す為国家に雇われ、荒れた土地の開拓には食料もなしに休まず働き、最後は肥料にもなるゾンビを使役するネクロマンサーは重宝されていた。


「うーん 質が良くないなぁ」


 ダンジョンのゾンビは、ダンジョンに産み出されているので質が安定しない。

 肉がそげていたり腕や足がなかったりと状態が様々、それでもバリエーションが豊富と言うか、人間と同じで同じ姿のモノは二体とないのだけれど。

 頭部を鉈で切り落とし、良さそうな腕や足をだけを採取、防腐処理を施しては荷物に入れていく。

 しかし数体のゾンビから使えそうな手足は集められても、損傷の少ない胴体と頭部を持つモノがいない。

 ちょっとした傷程度なら移植や手直しでどうにでもするのだけれど、体積が大きいだけに著しい欠損を負っているものばかり。幾らなんでも骨が見えるほど胴体に欠損が大きいと、ベストな状態まで調整するのに長い時間が掛かってしまって、入学試験には間に合わない。


「ん~?」


 遠めに見える冒険者達がゾンビを捕獲しているように見える。

 好事家かネクロマンサーにでも売りつけるつもりかな。

 取引できないかと、警戒させないようにゆっくりと歩いて近付く。


「すみません。 死体屋さんですか?」


「ん? あんたネクロマンサーか。 ちょうど良い素体が入ってるところだぜ」


 気さくな声に手馴れた死体屋ということがわかった。

 縛りあげているゾンビを壁際にならべる。

 噛まれない様にくつわを噛まされ、手足を縛られてるから正直、ちょっと犯罪っぽい。まぁ、ダンジョン発生のアンデットには権利も何もないから、犯罪も何もないのだけれど。


「どいつも今日捕まえたばかりの奴だ。 持ち帰る輸送料金分、ちょっと安くしとくぜ」


 男女幼老問わず並べられた中に一体良さそうなのがいた。

 20歳くらいの女性、浅い傷はあるけど肉の欠損もないし、眼も落ちていないし、手足はともかく胴体と頭部の状態は良好。このダンジョンに入ってから一番状態が良い。

 これなら少ない手直しでデザイン部門か精密作業部門で合格が取れそう。


「これはいくらですか?」


「ダンジョン内だから、持ち帰る手間を省いて、23万ってとこだな」


「相場より高くないですか?」


 死体屋は服を引っぺがし、たわわに実った形のいい果実が眼に入る。


「これだけの素材だ。 金持ちの変態にも高く売れるから安くはできないねぇ」


 死体愛好家やネクロフィリアの人達相手か。

 まぁ、確かにネクロマンサーにもそう言った趣向の人も居るし、依頼を受けて防腐処理したり痛んだ部位を直したりもするし、師匠も金持ちの変態相手に何体もゾンビを整え直して売ってたっけ。


「そういうことですか。 わかりました 23万支払います」


 そもそも着眼点が間違っていた。腕の欠損はあるけど、確かに胴体のスタイルは抜群に良いし、顔も充分美しいと思う。

 眼も無調整のゾンビだから虚ろだけど、グリーンアイで23万は確かに安かったかな。

 持っていた布袋から23万分を、銀貨23枚で支払いゾンビを買い取る。


「よし、取引成立だな」


 死体屋の人は銀貨を受け取り満足してくれた。


「では、失礼します」


 小さな魔石を取り出し、ゾンビの空っぽの魔力を染め直し支配権を得る。

 そのままゾンビの額に押し込み、これで主従の制約は出来上がり。


「それでは 貰っていきますね。 では付いて来る様に」


 ロープを解かれ、ゆっくりと肉が欠けた足でふらふらと付いてくる。

 凶暴性はもう失っているけれど、魔力の供給もしくは魔石に封入されている力が失われれば、ただの死体に戻ってしまう。

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