第七-a 裏リン対ミリカ
スオウスオウスオウ!あ~~!!私の意中の貴方!どうしてこうも胸の高鳴りが抑えられないの!?今すぐにでも貴方の大きな胸板に顔を押し付けて頬ずりしたくてたまらな~い!ああ!どこにいくのスオウ!?待って!置いてかないで!
「置いてかないで!」
うわごとの様に叫び、巨大な岩を念動力で動かして前方へと突き放つ。ミリカの視界には巨大な躯を持つスオウにしか認識されないようで、リンの目の前に巨大な岩が迫りつつあった。深い溜め息の後、したり顔でハサミを分裂させる。
「狂った会話してんじゃねーよ!」
ハサミを交差させて岩を寸断し、寸断された岩をミリカの方へと蹴り飛ばす。けたけたと笑うミリカは前方で岩を止めて回転を合わせながら弾き返した。
「いいわ!いいわスオウ!貴方の愛はこう表現するのね!情熱的よ!」
ハサミと回転する岩で火花が散る。舌打ちをしながらリンは岩をいなしてミリカへと迫る。立ち塞がる岩が押し潰さんと勢いよく上空から降り注ぐ。地面を素早く飛び、突き刺さる岩を足場に空中へと身を乗り出したリン。それを謀ったようにあらゆる方向から岩がリンへと飛び掛かるが、ハサミを岩に突き刺しながら次々と乗り継いでいく。不安にも思わないミリカは一層頬を紅潮させて鋭い岩を念動力で動かす。
「すごい!すごいわ!貴方の能力!そんなに早く私を抱きしめたいのね!でも、まだよ!もっと私の愛を確かめさせて!」
ミリカの手前の岩に挟みを突き刺してリンがニヤッとする。
「スオウだかなんだか知らないけど、漸く切りつけれるとこまできちゃったぜぇ……あぁ?」
突き刺したハサミが岩に突き刺されたままビクともしない。ミリカの念動力が物質を動かせる範囲は限られており、射程圏内に侵入したリンのハサミは捕捉され、岩に刺さったままになる。更にミリカに近い程念動力の強さが高まり、生物に対しての念動も通じるようになる。場合によっては生物の骨格そのものを念動させて分離させることも可能となる。が、それはミリカが絶対にやりたくないことでもあり、禁忌でもある。狂気に陥っているという例外を除いては。
「ぐっ……磁石にでも引っ付いたかのようだ……。まぁったく身体が動かねぇでやんの。」
「捕まえた……スオウ♪もう、私を置いてかないでね。」
ハサミを握る力もなくなり、ミリカの念動力のまま正面へとリンが動かされる。下手に無理な藻掻きで身体を傷付けさせない為でもあった。
「さぁスオウ?交わりましょう?」
急な行動にリンも驚く。なにせ、空中でミリカが魔導服を脱ぎ始めたからだ。
「ちょ……。」
「んもう!私ばかり脱いでちゃはしたないじゃない!貴方も脱いで?」
念動力でリンの服の胸元を引き裂く。と、同時にリンが所持していた瓶などが宙へと散開する。ふと、ミリカが気になったのか、封が閉められた瓶を手に取る。
「(あれは予備の澱みが入ってる瓶だな、何する気だ?)」
「これって……あ!す、スオウもその気だったのね!?い、嫌だわ!私ばかり興奮しちゃって!」
何を勘違いしたのか、封を開けて瓶をリンの口元へと寄せる。最高潮に達した紅い顔は魔鋼の光に反射して余計際立った。
「これを飲んで元気になったら、早速始めましょうね……?」
「……あぁ。んぐっ……ぷはぁ!あんがとよ!」
黒く澱んだ泥を飲み下すと、リンの身体から黒い靄が溢れ出し、ミリカの視界を妨げる。
「きゃ!な、なに!?」
視界を遮られ、目の隙間へと侵入する靄を振り払う為に目を擦り、浮かしている岩も右往左往と激しく動いている。リンに集中されていた力が緩み始め、自由に動かせるようになると、直ぐ様突き刺さったハサミを引き抜き、顔を手で覆うミリカに迫る。漸く靄を払いのけたと思った次の瞬間視界をスオウと認識していたリンがハサミを振りかざす。
「スオウ……?」
ザンッ
第七話のaパートを読んで下さりありがとうございます。作者のKANです。
今回のお話は戦闘描写ということで、それぞれをパート分けして書いていこうと考えました。こうした方が私個人としては書きやすかったのです。改行して別のキャラ達の描写を書こうとすれば、読者側から見ても勢い等を感じ取れないかと思ったので(過去に改行して書いていた結果、イマイチかなぁと感じた次第です)このようにいたしました。
さて、次回は拳のラッシュ戦が続きそうですが、集中しやすそうです。ではbパートでお会いしましょう。