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第六話「地下大空洞、アレポトリパ」

地下大空洞「アレポトリパ」 エレボスの地下に広がる世界の俗称。冥府とも呼ばれる。冥神が祀られる場所であり、死者の魂の安寧を支える巫だけがこの世界に残されている。

 鬱蒼としていた森林に夜の帳が訪れ、より暗くなってきた森の中でも食肉植物達の餌となる者たちの悲鳴が途絶える事はなかった。鋭利に伸縮する棘が捕らえた餌達が幾つもの血溜まりを地面に落とし、おこぼれを貰おうとする植物達が蠢いていた。

 「……。」

 「アザミん、どうしたん?」

 ギシギシと棘を動かすアザミをリリウムが聞いた。

 「……同胞がやられたのを聞いた。」

 「あぁ、マンちゃんが言ってた例の三人組の話ね。ムグムグ・・・・・・別に気にすることはないと思うよ~。」

 アザミが捕まえた餌を棘から千切って食べる。

 「あら、アザミが他のグループを気にするなんて珍しいわね。」

 ひらひらのスカートが大いに蠢かせながらスナドラも話し掛ける。

 「私達のようなのを殺す程の力を持っているのを知らずに食べようとするからああなるのよ。当然よ。」

 「スナドラが言っているのも一理あるけどさぁ。アザミんはどうなん?」

 「……あの子が付いて行った。」

 「……。」「……。」

 リリウムとスナドラがアザミから距離を離してこしょこしょ話をする。

 「あのアザミんが他の子を心配してるよ!?」

 「え、ええ……冷徹なのが売りな所があったけど、まさかあんな良心があるとは私も知らなかったわ。」

 「……どうした。」

 アザミの背中の棘がわななく。冷や汗を掻きながら二人はアザミに弁解する。

 「いやいや!何でもないよ!アザミがあの子を気にしてたのは知ってたからさ!」

 「そ、そうですわ!気にしなくていいわ!」

 「……そうか。」

 棘の震えがなくなったのを確認して二人は深い溜め息を吐く。アザミは樹木の葉で茂られた頭上を見て、今頃イルドがどうしているのかということを思慮するのであった。


 「ここが目的の場所なのですね!ヨウ様!」

 シワの森を暫く歩くと自然に形成されたであろう洞窟がヨウ一行の前に現れ、イルドが見つけたように指を指して、しがみついた腕に思いっきり胸を押し付ける。

 「どうやらそのようだね。紅い霧も少なからずここから出ているし、原因に続いているかもね。」

 平然としてスタスタと歩いているヨウにイルドも顔がふくれっ面になる。

 「(むぅ……少しはドキッとしてくださってもいいと思うのは私の思い過ごしということかしら……それとも既に心に決めた方がいる!?もしやそこの女・・・・・・)」

 ギロリと睨まれて流石のリンもビクッと反応し、獣人のライの後ろに隠れる。

 「あの……私何か恨まれるような事したでしょうか……?ものすごく睨まれてますぅ。」

 「はぁ……、面倒なのが付いてきたものだな。」

 ライもやれやれとしながらヨウの後を付いて行くのだった。

 洞窟は奥へ入っていく度に視界を狭める闇が迫り、辺り一帯を見渡すことが不可能となった。リンはライの後ろの体毛を引っ張りながら足を歩める。

 「あまり引っ張ると私でも痛みはあるから程々にな。」

 「あ、すみません……。」

 「ヨウ様、このまま進んでは罠みたいなのに引っ掛かったりしませんこと?」

 (引っ掛かったらヨウ様にダイレクトアタックするチャンスも増えること間違いなっし!)

 「ここら一帯はどうやら抜け道のような役割をしているみたいだからここを掘った奴が罠を張るようなことはないよ。それに、ほら。」

 ヨウの腕でがっくしするイルドを気にせずにヨウが一行の前方を指差す。暗闇の中僅かな光体が見える。この抜け道の出口であろう。暫く一行が光体を目指して歩き進めるとやけに明るい空間へと入った。暗闇で慣れた目に劈く痛みが一瞬走り、ヨウ達は怯む。

 「くっ……、何だここは。地下だというのに明るい。」

 「それにかなり巨大な空間ですよ!」

 地下空間は幾重にも重なった鍾乳洞や魔鋼と呼ばれる原石がとある宮殿から射す光を反射することで地下一帯を照らしていた。そして、この空間に入った瞬間に聴こえる奇妙な音も気になった。

 「何でしょう……この、腹の底をコツコツと小突いては波の様に引いていく感覚がする音は。」

 イルドが眉根をひそめてリンを見て可笑しな事を言う女だこと、と小馬鹿にした表情をする。かくいうイルドは音の正体を掴んでいるのか、ふふんと鼻を鳴らす。

 「知らないのであれば教えて差し上げないといけないですわね。」

 「この音の正体を知っているのかい?」

 「はい!ヨウ様!!」

 ヨウの言葉に食い付いて目を煌びやかに光らせるイルド。この夫婦コントのような下りをいつまで見るのだろうとライとリンは思った。

 「ズバリ!冥動でございます!」

 「冥動?」

 「はい!ここは言えば大陸の下に広がる世界!エレボスのみならずエイレーネにまで続いているのです!そして、どこかしこで水の音や小岩が落ちる音が響く事で連鎖された音が継続して聴こえるのです!それで……。」

 「それで誰かが冥界が動いていると嘯いたことで冥動っていうのか……。」

 「あぁ!そこの獣人!勝手に台詞を横取るんじゃない!」

 かわいこぶる顔から鬼の形相でライを見やるがライは意に介さずに歩き、成程!ありがとうございます!と素直に感謝されて面白くなさそうにヨウの腕を強く抱く。

 「成程・・・・・・でも、この子気味いい音と違って唸るような音が聴こえるのも確かだね。さてさて……。」

 魔国エレボスの王子に出会ったことはないヨウではあるが、エイレーネ同様の試練が次世代の王子に課されていることから恐らくエレボスの試練はこの地下で行われることは間違いない。龍神と対峙した時の高揚感がヨウを内側から昂らせ、次の冥神と対峙した時を期待した。


 冥動が響く魔鋼の坑道。ひた歩くエレボスの王子ヤマルとミリカ、スオウ。そわそわしながらミリカはスオウに目配せをしている。スオウに対しての恋慕が紅い霧の効果で徐々に上がっているのが目に見えてきている。視線を気にしないスオウは拳をグー、パーと繰り返し始めている。魔鋼を採掘する手段で己の狂気を発散していたに違いないが発散された狂気が益々増えることでニコチン切れを起こしている状態に近い。こうも狂気度が上昇して症状が悪化しているのは地下から湧き出ている紅い霧が濃くなっているからであり、その原因を解消するのがヤマルに課せられた試練であった。

 「(異なる大小の種族であってもこれぐらいの影響があるのは、恐らく神が関わっているのは間違いはないけど、これを冥神が起こしている線はない……この大陸で何が起きているんだ?)」

 紅い霧の影響を受けずにいるヤマル。何故ヤマルだけが狂うことなく思考できているのか。ヘイルダム家に継承される冥神の守護魔法が常に掛けられているからである。父であるアメンは魔鋼資源を冥神に採掘する許可を貰うと同時にヘイルダム家の守護する契約の更新をしていた。故にヤマルや妹にも守護され、狂気に侵されることも魔法による阻害されることもなかった。

 「二人とも大丈夫かい?」

 「スオウ……スオウ……アァ、早ク貴方と二人きリに……。」

 二人を気に掛けるヤマルだが、目が据わり始めているミリカと拳に血管が浮かび上がる程握りしめているスオウを見てそろそろ限界というのが目に見えた。暫くその状態が続いていたが、やがて一行の前に坑道の最奥へと辿り着いた。

 エレボス地下大空洞、アレポトリパ。エレボスの地下を中心とした冥神の神殿が建立している大きな地下空間。魔鋼が反射した光が鮮明に神殿を照らすはずがヤマルの視点からすると、神殿を中心に紅い霧がこんこんと湧き出、不気味な様を演出していた。

 「(ここまで無事に着いた……とは言えないか)」

 冥神の神殿に着いたと同時にヤマルは後続していた筈の二人がいるかを確かめた。が、既に二人の姿はなく、在ったのはここにいたであろう痕跡だけであった。

 「無事でいてくれればいいけど、護衛なしで神殿に入るのはやっぱり気が引けるな。」

 と自嘲しているが神殿への歩みを止めないのは、自身に課した試練を乗り越えなければエレボスに明日はないと自覚している為だ。ヘイルダム家だけが救われただけではダメなのだ。魔国エレボス全ての命が救われなければ。

 神殿に入ったヤマルが真っ先に目に付いたのは、祭壇であろう場所に蹲った少女の姿であった。人柱でもなければ魔国エレボスの民でもないその少女。裸に近い薄着だけを装い、苦しそうなうめき声を響かせていた。一見して、ヤマルは悟った。儀式に於いて、冥神は冥府の神という意味合いであり、死者の安寧を支える為にかんなぎと呼ばれる存在が史実で在ったことを。

 「貴女が原因だね。」

 どのような経緯で巫がおかしくなったかは皆目見当がつかないが、少女を中心として湧き出る紅い霧が根源であることを証明した。

 「ルゥゥウ……。」

 ヤマルの存在に気付いた少女は視線だけを向けた。視線が向けられたと同時にヤマルに見えない風が衝突し、僅かに後ずさりする。

 「うぐっ・・・・・・このただならない気迫。感じた事のない力!これは骨が折れそうだよ……。」

 目の前にいるのは巫と呼ばれる一人の少女ではないのを確信した。異常現象によって、力が増幅され神へと昇華された存在だ!


 「ん?」

 ヨウが足を止める。間もなく冥神がいるであろう神殿に着くというところで。

 「どうかされましたか?ヨウ様。」

 「ん~……よくないね。」

 目の前で巨大な鉱石が飛び交いまた一方では、細かい砂嵐が巻き起こりヨウ一行に物凄い勢いで迫りつつあった。ライが咄嗟にヨウの前に滑り込み、炎の衝撃波を砂嵐へと放つ。砂嵐は炎と相殺し、炎を掻い潜って巨大な鉱石が飛び出してくる。

 「おおらあああああ!!」

 巨大なハサミを分断した得物を両手に携え、リンが鉱石を一刀両断にする。両断された鉱石は一行の横に大きな音を立てて地面に突き刺さる。一瞬のことにきょとんとしたイルドであった。

 「ヨウ、怪我はないな?」

 「うん。リンちゃんもありがとね。」

 「あ~そのちゃん呼びはパスだわ。歯がゆいってゆーか、なんかさ……。」

 髪を掻きながらリンが呟く。さっきまでの性格と違う様にイルドは何事?!と若干ビビり気味である。イルドの表情を気にするのもつかの間、視界が開けると宙に浮かぶ薄桃色の髪をした少女と身長2mはあるであろう茶髪の巨漢が前に現れた。

 「スオウ……!スオウ……!貴方と邪魔する奴は生かしておけないわぁ!潰して・・・・・・弾けて、静かになって……そして、そこにはもう貴方しかいないのぉ!」

 「……ドゥ……ドゥ……!」

 訳の分からない言葉を叫び散らす少女と目が血走り、全身の血管が浮き出ている巨漢がヨウ一行の前に立ち塞がる。

 「冥神の刺客とは思え無さそうだが、これは紅い霧の影響と見ていいな、ヨウ。」

 「あぁ、恐らくね。」

 「え~こんな訳がわかんねぇこと発っすんの?ぜってーないわー。」

 「ティアの加護があるから大丈夫だけど、僕から離れると霧の影響を受けかねない。二人とも耐えれるかい?」

 「俺には見えてはいないが、何。信念を曲げなければ狂うこともないだろう。安心して神殿に向かうといい。」

 自信に溢れた背中を見せ、構える。金属音を鳴らしながら地面をなぞるリンも躍起になっている。

 「久々にワクワクさせてくれそうな奴がいるんだ。楽しまなきゃな!」

 「わかった。後は頼んだ!」

 イルドを突然抱え、走り出す。ヨウを殺さんと仕掛けてくる二人を二人が突き放して、ヨウは無事に神殿へと辿り着いた。ヨウの腕の中にいたイルドは鼻血を垂らしながら目をハートマークにしていたのだった。

 「あぁ……し・あ・わ・せ。」

 第六話を読んで下さりありがとうございます。作者のKANです。初めましての方は初めまして。

 絶賛ヘルニア療養中でありますが、徐々に症状は軽くなってきており、痛みもある程度は収まりつつあります。が、ちょっとしたことではう!と雄たけびを上げたくはなりますがね(笑)

 さて、今回のお話なのですが、私個人としては少したどたどしいような文章だなぁと自負しております。最近漫画や他の小説を読んでいないからか、創作成分が欠乏しているからかもしれませんね……。少し、小説や漫画に耽る時間を設けて成分を装填しないといけないかもしれませんね。今回はよく後書きでしゃべるなぁと思われた方はご容赦を。深夜テンションでお送りしております。

 次回のお話がいつになるかは相も変わらずの不定期でお送りしておりますので、気長にお待ちいただけたらなと存じます。では、次回の後書きでお会いしましょう。

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