1-7 「初めての対話」
20190125公開
体感時間で午後8時になる頃には、シンジ君の身体の感覚に馴染んで来た。
まあ、それまでの180㌢超えの鍛え抜いた身体が、一晩で120㌢のヒョロヒョロの子供の身体になったのだ。
自分で動かしていない事も有って、慣れるのに時間が掛かるのは仕方ない。
歯も磨いて兵舎のベット並みに硬いベットに入って、しばらく経った頃だった。
『居るのでしょ? タナカダイスケさん?』
シンジ君が呼び掛けて来た。
これまで、シンジ君の呼び掛けは聞こえるというか、頭に直接響いていたので聞く分には問題無いが、こちらからの呼び掛けはして来なかったから上手く行くかどうか不明だが、試す価値は有る。
『聞こえている。こっちの声は聞こえるか?』
シンジ君の身体がビクっと反射反応を起こした。
いや、自分から呼び掛けておいて、返事をしたらビックリされても困るのだが?
『あ、え、と、聞こえます』
響く声に、驚きの中にも微かな喜びの感情が混じっている様に感じるのは気のせいだろうか?
『そうか。もし声が大きかったら教えてくれ。何度か試して最適な大きさに調整する』
『大丈夫です。問題無い大きさです』
『そうか。それで何か用だろうか?』
一瞬の間が有った。
まあ、シンジ君にすれば、用が無くてももう一方の当事者の俺とコミュニケーションを取ろうと考えて当たり前か。
『そうだな、用が無くても、お互いの事を知っておいた方が良いな。まずは自己紹介をしよう。田中大輔、28歳だ。奇遇な事に、織田信之小隊長とは自衛隊で指揮官と部下の関係だった。いい小隊長だったぞ』
『え、本当ですか?! 自衛官なんですか?』
『ああ。織田小隊長が指揮していた特殊作戦群の小隊に所属している現役の1等陸曹だ』
『きっと、強いんでしょうね』
『現役だった頃の小隊長ほどじゃないがな』
『すごい・・・ 幸運と思っても良いんでしょうね』
シンジ君の脈拍と体温が若干上がっているのが分かった。
意外とミーハーなのかも知れないな。
『話は変わるが、シンジ君には分かっている事を先に伝えておく。まずは転生についてだ。プラントに教えて貰ったが、どうやら俺が居た時代の日本はこっちの時空と繋がり易いみたいだ。だから、俺がこっちに転生する事になったかもしれん。まあ、どうして俺が転生したか?は、人間以上に賢いプラントにも分からないらしいんで、知っている事は何も無い』
『そうですか・・・』
『それはそうと、今日一日、身体の中で君の行動を見ていたが、頑張っているな。俺の子供時代よりも遥かに大変そうだ。俺なんかシンジ君くらいの頃は遊んでばかりだったからな』
両親を亡くしてからの事は敢えて触れない様にしよう。
いくら早熟と言っても7歳の子供だ。人間不信になる様な事は避けるのが良いだろう。
シンジ君の昼からの行動は、剣の稽古と文字の勉強をそれぞれ2時間ほどこなしていた。
日本では考えられないが、剣は身近な存在なのだろう。
父親も仕事に行く際には帯剣していたくらいだ。いくら攻撃 魔法が使えると言っても、体内のピコマシンの充電分を使い切ったら、現実の物質で出来ている剣や槍などが頼りになるのだろう。
もっとも、小学1年生くらいで、まだ身体が出来上がっていないシンジ君の場合は基本の型を習って、身体の負担を考えながら木剣で素振りした程度だ。
まあ、2時間も素振りが出来る段階で以前から鍛錬している事は分かった。
『いえ、まだまだです』
響く声を聞けば分かるが、本当にそう思っているのだろう。
『そうか? 俺からすれば、あれだけ頑張っていたら十分だ。それに漢字の書き取りも小学生レベルを超えていると思うぞ。天才と言ってもいいくらいだ』
『なんか、ものすごくほめられてばかりで、ビックリしているのですけど?』
『そうか? 事実だと思うぞ』
『ありがとうございます』
一瞬だけ間が開いたので、明日の予定を訊く事にした。
『明日は何をする予定なんだ?』
『明日は学校に行く予定です。今日は僕の御宣託の儀だったから、兄様と姉様も一緒にお休みを頂いたんですよ』
『ほう、小学校が在るのか? それは知らなかった』
『小学校? 正確には第1次学校と言います』
『と言う事は第2次学校も在るのか?』
『はい。第1次学校が6歳から10歳までの子供用で3年間です。その後、13歳までの3年間の第2次学校が在って、卒業すると第2次成人の資格が得られます』
『第2次成人を終えたらどうなるんだ?』
『家庭の事情で働きに出るも良し、第3次学校に行くも良しです』
『なるほど。日本で言う中学校というところか・・・。それで、第2次学校を卒業したら大人の仲間入りで酒を飲めたり、結婚が出来るとかなのか?』
『いえ、本成人は15歳の誕生日からです。まあ、実際はお酒は飲んでいるみたいですけど、詳しくは分かりません』
お酒に関しては日本でも隠れて飲んでいる奴は居たから、そんなものなんだろう。
その後、1時間ほど対話をしたが、ここの暮らしや制度に関してかなりの情報を得る事が出来た。
シンジ君、7歳にしては知識が豊富というか、よく勉強している。
心根も真っ直ぐだし、思わず真面目君かと言いそうになったのは内緒だ。
しまいには、自分の子供にはこんな子に育って欲しいと思った程だった。
お読み頂き、誠に有り難うございます。
ただ、ここだけの話ですが、面白くないから人気が出ない様なので、編集部が『俺たちの闘いはこれからだ』の検討を始めています(^^;)
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