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1-4  「大事な事なので2回言いました」

20190116公開


 家族がクレスポ2等教士とゴーン3等教士に案内されたのは、礼拝所?の奥にある通路を5㍍ほど行った先の6畳ほどの部屋だった。

 調度品は大きなテーブルとイスだけしか置かれていない。

 正直なところ、殺風景な部屋だ。

 ただし、事前に暖炉に火が入っていた為に、先程の礼拝所?より少しだけ快適な空間に感じた。

 シンジ君の隣で幼児用の椅子に座っているユカちゃんが心配そうにこっちを見ていたのが印象的だった。


 家族6人と向かい合う様にテーブルに座ったクレスポ2等教士とゴーン3等教士だが、口火を切ったのはゴーン3等教士だった。


「これから話す事はプラント教の一部にしか伝わっていない事なので、その事をまずはご理解下さい。そして、これから先の将来の事も有るので、敢えてご家族全員に聞いて頂く事にしました」


 ゴーン3等教士は、外国人の顔立ちなので正確な年齢は分からないが、強いて言うなら母親と同じ20台後半に見える女性だ。

 一目見ただけで『出来る女性』というたぐいの人物と言う事が分かる。

 隣でウンウンと頷いているクレスポ2等教士よりは有能そうだ。


「実は、シンジ様が生まれる10カ月ほど前に、プラント様から『プラント様に仕えし至高巫女様』に或る御神託が下されました。内容は『「新たなるプラント様が遣わした援徒様」が誕生する』というものでした」

「まさか・・・」

「ええ、オダ代表の考えている通りです。シンジ様がその「新たなるプラント様が遣わした援徒様」になります」

「もしかして、御先祖様の時の様に、『大獣災』や戦争が起こるとでも?」



 星系間植民宇宙船プラントから教えられた知識では、この星の人類にとってのオダ家と言うのは特別な意味を持っていた。

 人類が植民していた島で起こった害獣と災獣の大繁殖とその後に起こった戦争によって、当時の人類は2度も滅亡の淵に追いやられかけた。

 その危機を救ったのは2度に亘って行われた地球からのコピペ召喚だった。

 簡単に言うと、素粒子レベルの情報だけを地球上で採取して、プラントがこちらの世界で合成したというものだった。

 その時に巻き込まれた90人を纏め上げた内の1人で、主導的な役割を果たした織田信之の子孫がオダ家となる。

 その織田信之氏だが、奇跡的な偶然だが実は以前の俺の上司だ。

 実家に起こった不幸の為に退職したが、あの人こそ特戦群のエースだった。

 高い戦闘力、どんな状況になっても冷静さを失わない精神力、この人について行けば大丈夫と思わせるカリスマ性、的確な指揮、全てが揃った理想的な小隊長だった。

 一尉がここで生きていたと云う痕跡はFapp storeの中に在った。収められていた「球体観測機(試Ⅱ型B)」などは、特戦群では織田小隊長しかテストしていない。制式化された時には別の名前になっていたからだ。



「いえ、その様な御神託は有りませんでした。それと正確には「新たなるプラント様が遣わした援徒様」でも無い様なのです」

「というと?」

「プラント様でさえも『解明出来ない自然現象』の結果、『転生』して来た様なのです」

「転生?」

「はい。これ以上の事は御神託に無いので、詳しくは不明としか言えないのですが・・・」


 この会話を聞いていたシンジ君は見事な自制心を発揮していた。

 自分自身の生まれの秘密を聞かされても、取り乱さなかった。

 まあ、驚きに表情は変化したが、それは仕方のない事だ。


「しんじおにいたま、しゅごい・・・」


 隣の席からユカちゃんが小さく呟いたのが聞こえた。

 シンジ君は左手でユカちゃんの頭を撫でて上げた。

 その一方、右手は強く握りしめていた。耐えられない訳ではないが、手の平に爪が食い込んで痛い。



「プラント様は、僕に何かをして欲しい、という訳ではないと思っていいのでしょうか?」


 シンジ君が、この部屋に来てから初めて言葉を発した。


「はい、シンジ様は自分の好きな様に自由に生きて下さいませ」

「それなら、これまで通りに生きて行きたいと思います」

御心みこころのままに」


 そう答えたゴーン3等教士は胸の前で右手を左手で包む様にして深く頭を下げた。


 会談というか説明が終わった後、家族全員で自宅に戻る馬車の中に流れる空気は最初は微妙なものが有った。

 まあ、いきなり、家族の一員が転生者だと告げられても、反応に困るだろう。

 そういう俺もカッコウの托卵を思い出して、微妙な気分だ。

 本来、生まれて来るべき両親の子供が居たのかも知れない訳だからだ。

 

 だが、車内の空気を変えたのはユカちゃんだった。


「ね、だいぞうぶでちゅだったでちょ、しんじおにいたま」


 そう言って、車内に満ちた空気をぶった切ってしまった。

 挙句に立ち上がって、両手を大きく上に伸ばしながら声高らかに宣言した。


「だから、ゆかは、しんじおにいたまのおよめさんになりゅのです!」


 一瞬の空白の後に訪れたのは、微笑ましいとしか言えない空気だった。  


「そうね、ユカはシンジお兄ちゃんが大好きだものね」

「あい。ゆかは、しんじおにいたまにふさわしいれでーになります」

「そうか、ユカはレディになるのか」

「あい。そのためにはぴーまんをたべられるようになるのでちゅ・・・ にがいのきらいでちゅが、しんじおにいたまのおよめさんになるためには、がんばってたべりゅのでちゅ・・・ にがいのきらいでちゅが・・・」


 兵舎で時間潰しで読んだ何かの文章の中で、『大事な事なので2回言いました』という言い回しが有った。

 それを思い出した俺は思わず噴き出していた。

 まあ、あくまでもシンジ君の頭の中で噴き出したので、別に構わないだろう。

 だが、ユカちゃんの言葉に噴き出したのは俺だけでは無かった。

 

 家族全員が噴き出したのだ。


 それは、シンジ君も同じだった・・・・・



 意識を取り戻してから、初めて声を上げて笑ったシンジ君の表情筋の動きと笑い声に、俺は心から安心した。





お読み頂き、誠に有り難うございますm(_ _)m



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