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1-3  「20光年」

20190113公開



 光が収まったのは、俺の体感時間では数十分後だったが、実際に流れていた時間は数秒程だったのだろう。

 光が溢れる前と同じ位置で、父親とクレスポ2等教士が怪訝そうな表情でこちらを見ている。


「あ、ごめんなさい、少し考え事をしていました」


 シンジ君が、動揺を押し殺す様な声で答えた。

 小学低学年くらいの年齢なのに、大したものだ。

 この歳くらいの俺なら、もっと呆然としていたはずだ。


「ええ、もう大丈夫です。プラント様の声は確かに聞こえました。理由までは教えて貰えませんでしたが、一時的に能力を引き上げる御加護を頂けました」

「おお、やはりそうでしたか! 私も今回の様な御宣託を受けたなど、聞いた事も見た事も無かったので驚きました。これは凄い事ですぞ」


 クレスポ2等教士がシンジ君よりも興奮した声で父親に声を掛けた。


「それで、息子はどのクラスの御宣託を受けたのだろうか?」


 父親が、何か普通では無い出来事が起こった事を理解しながらも、本来の目的且つ最も聞きたい事を的確に訊ねて来た。


「おお、そうでした。プラント様の御宣託によると、シンジ君のクラスはip5で32GBです」

「まさか? 7歳でip5という事は有り得るのだろうか?」

「驚くのは未だ早いですぞ。先程もシンジ君が言った通り、もう1つ授かった御宣託によると一時的にはipSEまで引き上げられるそうです」

「一流のハンター並みでは無いか? シンジ、その通りなのか?」

「ええ。どうやら、僕はプラント様に気に入られた様です」


 俺が居候しているシンジ君はかなりの傑物だ。

 大人顔負けの精神力と言える。

 触覚も復活しだしたから分かるが、この子は顔に笑みを浮かべている。それも、無理やりにだ。

 家族に心配を掛けまいとして、笑みを浮かべられる様な強靭な精神力は、実に俺の部隊向きだ。


「『御宣託の儀』が終わるまではお伝え出来なかった事も有るので、説明の時間を頂きたいのですがよろしいでしょうか?」


 それまで、一言も言葉を出していなかったゴーン3等教士が初めて言葉を口にした。


「おお、そうだったな。オダ代表、お時間はよろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。今日はいつもより2時間遅く仕事を始める様にしているからな」

「ありがとうございます。それでは、部屋に行く前に、アクティベイトを済ませてしまいましょう。シンジ君、やり方は分かるね」

「ええ。教えて貰っています。・・・アクティベイト」


 呟く様に発音すると、途端に目の前の景色に被さるように様々な眩しい光が乱舞して視界を覆い尽くした。

 それは数分続いた気がしたが、一瞬で終わった様だ。


「ホーム・・・」


 シンジ君が更に言葉を呟いた。

 すると、見慣れた四角い枠に囲まれた画面が目の前に浮かんだ。

 いや、よく見ると日本で使っていたスマホの画面とは違う。

 俺が使っているのは、背面に齧られた跡の有るリンゴのマーク付きのスマホだが、アイコンが同じ物も有れば、見慣れない物も有る。アイコンの名前も違っている物が多い。


「Fapp store・・・」


 言葉に応える様に、画面が変わった。

 ズラッと並んでいるアイコンに書かれている名称の大半は、こんな場所には似つかわしく無いモノだった。


〈M1911〉、〈M1873〉、〈64式7.62㎜小銃〉、〈89式5.56㎜小銃〉、〈9㎜拳銃〉、〈M4carbine〉、〈5.56mm機関銃MINIMI〉、〈H&K USP〉、〈対人狙撃銃〉、〈閃光発音筒〉、〈H&K MP7〉、〈M82A3〉、〈レミントンM870〉、〈M203グレネードランチャー〉、〈球体観測機(試Ⅱ型B)〉・・・・・・


そして、これらのモノが滅亡の危機に瀕していた、この惑星の人類を救ったのだ・・・




 約20光年・・・・・

 この惑星と地球との距離だ。

 光と言うのはとんでもなく速く進む事くらいは俺でも知っている。

 1秒間で地球を7周半回る、というのは有名だろう。

 その光でさえ20年も掛かる距離に地球が在る。

 だが、プラントから教えられた知識によると、宇宙ではご近所さんと言っていいくらいの距離らしい。

 

 例えば、北極星で430光年。

 例えば、有名なオリオン座は近い恒星で500光年、遠い恒星では1500光年も離れている。

 例えば、アンドロメダ銀河では桁が違って約250万光年だ。

 例えば、プラントが長い旅路の途中で発見した最も遠い天体は遥か330億光年もの彼方だったそうだ。


 20光年という距離が、宇宙の規模からすると如何にご近所かという事がよく分かる。

 


 その20光年を、プラントは数千年に亘る年月を費やして宇宙を旅して来た。

 目的は、移住できる惑星への人類の拡散だ。

 太陽系を征服した人類は、そこで文明の頂点を迎えた。

 遺伝子操作を究極まで極めた挙句、進化の頂点を迎えた。

 後は緩やかに衰退して行くだけだ。

 なんとか種を残したいと考えた人類は『人類変革計画』という名の暴挙に出た。

 片道切符で志願者を宇宙に送り出したのだ。

 違う環境ならば、もしかすれば進化の袋小路に陥った人類でも変革出来るのではないか? という蜘蛛の糸よりも細い希望に縋って。



 コールドスリープされた8万人の希望者を運ぶ揺り籠の名をプラントと言った。

 今は、この惑星の静止軌道上に、その直径10㌔にも及ぶ巨体を浮かべている・・・・・




お読み頂き、誠に有り難うございます m(_ _)m


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