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1-11 「撃ちっぱなし」

20190131公開



 馬車が停まった辺りは、良く使われる場所なのだろう。幅100㍍ほどの区画が整備されていた。

 レンガ製のかまどの3方を囲む様に、木の板で区切られた昔のバス停みたいな木造の小屋がいくつも等間隔で建っていたり、間に井戸が設置されていたりした。

 春にピクニックするには良い場所だろう。


 まずはディノ族の馭者が、ここまで馬車を引っ張ってくれた益獣サンプソンと言う名の雑食性の4本足の巨大な動物を馬車から解放して上げた。

 益獣サンプソンの体高は2㍍以上は有る。体重はトンを軽く超えているだろう。

 元々はヘキサランドで使役されていたが、力も強く、賢くて人懐っこいせいで馬車以外にも色々な作業に使える為にこの島でも人気の益獣だ。


 解放された益獣サンプソンはのんびりと、冬でも生えている草を探して歩いて行った。


 次にしたのは、馬車の車体自体を柱としたテントの設営だった。

 左側の天井から曲線と直線を組み合わせた金属製のパイプを地面に降ろして、それに頑丈な布を固定して行く。

 30分もしない内に立派なカーサイドリビングが組み上がった。

 中には敷物も敷かれ、折り畳み式のテーブルとイスが置かれていた。

 意外と言ったら何だが、思ったよりも快適な空間だ。

 そして、快適な空間足らしめているのが、ストーブに見える暖房機だ。

 だが、地球のストーブと同じでは無い。

 理由は簡単だ。灯油を使っていないからだ。


 エネルギー源は獣珠テソロだ。


 日系人がコピペ召喚されてから300年以上経過したが、代々行われたプラントとの粘り強い交渉の結果、勝ち取った新たなエネルギー源だ。

 ピコマシン自体が発生可能なエネルギー量は、現代文明の日本人でさえ驚くほど膨大だ。

 数千年も星系間を渡る中で生み出された技術らしいが、太陽系を支配した人類でさえ到達出来なかった高みにまでプラントは達していた。

 プラントから教えて貰った知識によると、1㌢角の立方体のピコマシンが有れば、地球に存在する最大級の原子力発電所を上回るエネルギーを生み出せるそうだ。

 しかも核エネルギーではないので、放射能汚染の心配も無い。

 燃焼を伴わないので大気汚染も無い。

 まさに夢のエネルギー源だ。

 だが、日系人が望んだのは、石油や電気並みの便利な普段使いのエネルギーとしてのピコマシン活用だった。

 シンジ君によると、過ぎたるは猶及ばざるが如し、という言葉が、交渉した日系人の発言として残っているそうだ。


 日系人の知識を使えば、火力が足りないとはいえ木炭による蒸気機関を使った文明の発展は可能だっただろう。

 だが、それによる環境汚染や爆発的な技術発展はこの星の生体系に深刻なダメージを与えかねない。

 その事をプラントに理解させた日系人の粘り勝ちだった。

 プラントにとっても、人類の技術発展をコントロール出来るのだからメリットは大きい。

 交渉の結果、大規模な発電施設や工場などは建築出来ないが、部屋単位で使うエネルギー量までは使用可能になった。



「さあて、そろそろ攻撃 魔法ファイノムを撃つとするか」


 父親の拓磨タクマ氏が子供たちに声を掛けたのはカーサイドリビング内でお茶を楽しんだ後だった。

 どうでも良いが、この星の日系人はハーブティを飲む事が多い気がする。

 もしかすればオダ家だけの習慣かも知れないが・・・


 外では、先程から発砲音がしていた。

 ハチキュウの発砲音に耳慣れた俺には少なくとも12丁が交互に撃っている事が分かる。


「はい。今日はシンジも加わるから楽しみです」


 シンイチ君が楽しそうな顔をしながら答えた。

 でも、彼の爽やかな笑顔と裏腹に寝癖がひどい。家を出るまでに何とかすれば良かったのに。


「私も楽しみ。だってスカってするもの」


 そう言って笑顔を浮かべたのはタマコちゃんだった。


 俺は何となく銃社会のアメリカを思い浮かべた。

 日本では考えられない事だが、アメリカでは小さな子供に銃の扱いを教えたり、実際に射撃場で撃たせたりする親が存在していた。

 お国柄と言えばお終いなんだろうが、それでもやり過ぎという気がする。

 ただ、この星では、銃(ファイノムと言う名の魔法)で身を守らないといけない脅威が身近に実在した。

 その為、7歳と言う小学1年生くらいの歳から銃を扱う世界だ。

 よく考えたら、小学校で軍事教練もどきの授業が有るのだから、日本の常識は通用しないのだろう。


「しんじおにいたま、がんばってくだちゃい」


 ユカちゃんがシンジ君に激励を送ってくれた。

 うん、目がキラキラしている。

 なんと言うか、今回初めて攻撃 魔法ファイノムを放つところを見るから、期待が大きいのだろう。

 シンジ君にはちょっとしたプレッシャーかもしれない。



「シンジは未だ1回しか射撃の授業を受けてなかったな? 基本から一通り説明してから実際に撃つ事にしよう」

「はい、お父様」


 

 攻撃 魔法ファイノムは実際の所、かなり安全と言える。

 テラ族(地球原産人類)とディノ族(この星原産の人類)の2つの人類に向けて発砲出来ないのだ。

 これはプラントが管理しているからこその利点だ。

 でなければ、いくら教育しても事故が多発するに決まっている。

 実際、暴発による死亡はディノ族との戦争終結後には1件も発生していない。



 身長が120㌢くらいしかないシンジ君にとって、91.6㌢の89式5.56ミリ小銃はやはり扱いづらい。大人と違って手が短いので、どうしても手を伸ばす様に保持しなければならない為に脇が締まらないのだ。

 更に重心が前に在り過ぎる事になるので、手に短さと合わさって照準が安定しない。

 それでも、単射で50発も撃つ頃にはコツを掴み出して、100発前後からは100㍍先の的なら直径30㌢くらいに収束する様になって来た。

 そして、普通の伏射ちで50発を撃った後、二脚を使った伏射ちを撃ちだした頃に体内のピコマシンが底を尽きそうになったので、今日の撃ちっぱなしは終了となった。

 

 しかし、幼児のユカちゃんを除いた家族全員が一心不乱に89式5.56ミリ小銃を200発以上も撃ち続けるなんて光景は、この星ならではだろうな。



 ちなみにユカちゃんは途中で寝てしまったので、カーサイドリビングで寝かされて夢の中に遊びに行った。

 なんと言うか、やっている事は剣呑なんだが、長閑のどかな休日の一幕と言っていいのだろうか?




お読み頂き、誠に有り難うございます。



現状ではそろそろこの路線を諦める方が良さそうです。

構成変更と物語の締めを視野に入れて行きます。

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