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1-10 「初めての平原」

20190130公開



 シンジ君の頭の中に居候を始めて7日目の朝が来た。

 今日は第4曜日だから休みの日だ。3日間頑張れば休みが来るのだから、4日ごとに来る休みも慣れれば意外と良い気がして来た。

 今日のシンジ君の予定は、朝から開拓村の外に出て、攻撃 魔法ファイノムを試す事が決まっている。

 昨日の夕食の時に父親の拓磨タクマ氏が直接指導してくれると言ってくれたからだ。

 

「しんじおにいたま、おきてまちゅか?」


 今日もノックの音がした後に、ドアが開いてユカちゃんが顔を覗かせた。


「うん、起きてるよ」


 そう答えたシンジ君は着替えも終わって、ユカちゃんを待ち構えていたところだ。


 いつもの様に顔を洗って、食堂に行くと、先週の休みと同じ様に兄姉2人の姿が無かった。

 休みの日はゆっくりと寝たいというのも分かるから特に気にならないが、今日は10分待っても起きて来なかった。


「ちょっと起こして来ます」

「ゆかもいっしょにいきましゅ。おこすのはとくいでちゅ」


 そう言ってシンジ君が席を立つと、ユカちゃんも幼児用の椅子から降りた。


「おお、それはすごい。それならば、ユカに任せるとするか」

「そうね。ユカなら立派に起こしてくれるわよね?」

「あい。ゆかにまかせるでひゅ」


 階段をどっこしょ、どっこいしゅ、と言いながら1段1段登るユカちゃんの手を握って手伝いながら2階に上がたところで、姉の珠子タマコちゃんがやって来た。

 まだ起ききっていないのか、欠伸あくびをしている。


「おあよう~」

「タマコ姉さん、おはようございます。早く食堂に行った方が良いですよ」 

「でしゅ。おかあたまのかおがおにになりそうでちた」

「あちゃあ」


 タマコちゃんはそう言うと、特に急いだ様子も無く階段を降りて行った。

 兄の信一しんいち君の部屋の前まで来て、シンジ君がドアをノックして声を掛けた。


「シンイチ兄さん、起きてますか?」

「ああ、今、起きた。すぐに行く」

「分かりました」


 食堂に戻ろうとした時にポツリと声が聞こえた。


「ゆか、おおきいおにいたまも、たまおねえたまも、おこせなかったでちゅ」


 視線を下に向けると、ユカちゃんが残念そうな顔をしていた。

 

「そうだね。では、明日の朝、僕を起こしに来て貰ってもいいかな?」

「わかりまちた。あしたもおこしにゆくでちゅ」


 そう言ってニッコリと笑ったユカちゃんの頭をシンジ君が撫でた。

 ユカちゃんが満開の笑顔になった。 

 本日2回目の階段降りに兆戦して、階段を降り切った頃にシンイチ君が降りて来た。

 うん、寝癖が凄い。



 朝食の後のお茶の時間をまったりと過ごした後、いよいよ開拓村の外に出る事になった。

 初日以来2回目の乗車となる馬車に家族全員で乗り込んで、村の目抜き通りを南下して行く。

 途中、数台の馬車も加わって、小規模なコンボイみたいになった。

 それぞれの馬車には子供も乗っていて、シンジ君ちと同じ様な家族連れの様に見える。

 きっと、シンジ君と同じ様に子供に攻撃 魔法ファイノムを撃たせようとしている家族なのだろう。

 もしかすれば只のピクニックかも知れないが・・・


 教会を越えた辺りから村の雰囲気が変わった。

 それまでは高級住宅街(イメージとしてはアメリカンな村と言う感じだ)だったが、今は2階建ての集合住宅が多く建っている区画だ。


 シンジ君にこのスロー村の事を教えて貰ったが、2時間半ほど北に歩いたところに在る湖から流れる川沿いに造られた、1辺400㍍の防壁と水濠に囲われた城塞都市の様な村だ。

 南に10㌔下ると、この開拓村の母体となった街が在る。

 そこには祖父と祖母が住んでいて、祖父はその街の代表をしている。

 開拓村には国など公の金は投入されていない。

 全て民間の金だ。

 そして、その出資比率が最大の者や家が開拓村の代表を務める制度になっている。

 オダ家は名門だけあって、資産はかなりのものみたいだ。

 この島で1番栄えている下流の港湾都市も、オダ家が200年以上も前に1から投資して切り開いたらしい。

 世代を重ねるごとに開拓村を築いて行き、ついに川の源流まであと少しと言う所まで来たのが現在と言う事だった。

 

 村の外に出るには村の南側に在る門から出る必要がある。

 村の建物や人通りを見ていたから気が付かなかったが、門のすぐそこまで来た時に初めて防壁を見た。

 高さは8㍍くらいだろうか?

 レンガを積み上げて作った、堅牢そうな防壁だ。

 屋根が有る事から、壁の上は回廊の様になっている様だ。

 シンジ君が前の方を見ると、門は幅6㍍を超える、重厚な扉の片側だけが開かれていた。

 村に入って来る馬車や人に比べ、外に出て行く馬車や人は少ないのか、すぐに門に辿り着いた。

 

「あ、代表、おはようございます」

「おはよう。今日は休みなのに入村数が多い様だね」

「ええ。どうやら、品不足の獣珠テソロを買い取りに来ている商人が流れて来た様です」

「やはり、他の村が不猟というのは本当の様だな。では、昼を回った2時頃に戻って来るよ」

「はい、お気を付けて下さい」



 シンジ君から聞いていたが、改めて会話の中に獣珠テソロという単語が出て来ると、この村の特産品が実際に商品として流通している事を実感出来る。

 獣珠テソロと言うのは、害獣や災獣の体内で形成されるピコマシンを多く含んだ石みたいなモノだ。

 プラントから教えて貰った知識の中には無かったが、シンジ君が丁寧に教えてくれた。

 俺のイメージでは、良く言えば真珠、悪く言えば水銀みたいなものだ。

 水銀のイメージは、新聞かなんかで読んだ、マグロや鯨に含まれる水銀に注意すべき、という記事からの連想だ。

 プラントが上空からばらまいているピコマシンはまずは雨と一緒に大地に降り注ぐ。

 そのピコマシンを草や木が水と一緒に吸い上げて、第1次の濃縮を担う。

 その草や木の実を食べた草食動物が第2次の濃縮をして、最後に肉食獣の害獣や災獣が第3次の濃縮を行う。それら濃縮されたピコマシンはどうやら肝臓の様な臓器で真珠の様に膜を重ねる様にして作られる丸い珠に取り込まれるそうだ。

 昔から害獣や災獣の体内から真珠の様な珠が出て来る事は常識だったそうだが、或る事が切っ掛けで重要度が急激に引き上がったのだ。 

 今では、薪や木炭に加えて第3のエネルギー源として浸透しつつあるそうだ。



 村の外には平原が広がっていた。

 東西共に、山が連なっているのが見える。5合目くらいまで積雪で白く染まっている。

 遠くに牛が群れているのが見えた。どうやら柵が巡らされているのか、少し小高い所では柵が伸びているのが見て取れる。

 放牧が出来るくらいには、この辺りは安全なのだろう。


 道を外れ、しばらく行ったところで馬車が停まった。




お読み頂き、誠に有り難うございます。

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