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1-9  「休日の朝」

20190127公開




「しんじおにいたま、おきてまちゅか?」


 ノックの音がした後に、ドアが開いてユカちゃんが顔を覗かせた。


「起きてるよ」


 シンジ君はそう言いながら、眠そうに大きな欠伸あくびをした。


「しんじおにいたま、あさのおしょくじにいきまちぇんか?」

「ちょっと待ってて、今着替えるから」

「あい」


 ユカちゃんは早起きだ。

 俺が意識を取り戻した日もそうだし、初めて学校に行った昨日もシンジ君を朝食に誘ってくれた。

 そして、今日も誘いに来てくれた。

 本当にシンジ君に懐いているというのが分かる。

 着替え終わったシンジ君はいつもの様にユカちゃんと手を繋いで、1階へ降りた。


 階段で、ユカちゃんが慎重に降りるのを手助けするのもいつもの通りだ。



 シンジ君の身体に居候し始めて3日目、今日は第4曜日で学校が休みだ。

 人類が植民した島(四国ほどの大きさだ)のヘキサランドと違って、この島ではディノ族の暦を使っている。

 この星の自転周期は26時間で、1年は336日だ。

 1週間は4日間で、週末の第4曜日は休息日とされている。

 7週間で1ヶ月になって、地球と同じく12ヶ月で1年になる。

 閏年うるうどしは無いそうだ。

 ちなみに今は冬で、これから更に寒くなるそうだ。

 日本で言うと1月に当たる。

 まあ、こちらの暦で言うと今は4月の第4週になる。


 しかし、スラスラと暦と季節を教えてくれたシンジ君は本当に賢いとしか言えない。俺が小学1年生の時に同じ事を出来たかと言えば、100%無理だったと自信を持って断言出来る。



「きょうもちべたいでちゅね」

「そうだね。でも、まだまだ寒くなるよ」

「ちゅらいでちゅ。ちべたいのはきらいでちゅ」


 1階の洗面所で手と顔を洗って、昨日と同じ会話を交わす。

 そして、ユカちゃんがしもやけにならない様に、ユカちゃんが顔と手を自分で拭いた後で更に粗い織り目のタオルで丁寧に手を拭いて上げる。

 そうしてから、自分の両手でユカちゃんの手を挟む様にして包んだ後で小さな声で「ヒール」と囁いた。

 手の平が活性化して温かくなった。

 日系人だけの特徴だが、傷を負った時にはピコマシンを使って、好中球と活性化マクロファージを強制的に傷口に増加させて線維芽細胞さえも生み出す免疫強化機能が有る。

 「ヒール」とはこれも日系人だけが使える生活 魔法ファイノムで、効率が落ちるが、強制的に自分のピコマシンを送り込むという形で他人にも効果を齎す事が出来る。効果は現代医学を上回る。なりふり構わない時には傷口を舐めてしまう方法が効果が高いらしい。


 俺にはファイノムを使う感覚がまだ分からないので断言は出来ないが、多分それを改変したのだろう。

 魔法ファイノムを使える様になって3日目だが、シンジ君は適性が高いらしい。ユカちゃんの手の血の巡りを良くする為だけに応用したのだろう。

 じんわりと温かくなった事に気付いたのか、ユカちゃんが笑顔になった。



「しんじおにいたま、あたたかいでちゅ」

「これで冷たいのも平気だろ」

「あい。ありがとうごじゃいます」



 その後、日本で使っていた歯ブラシと同じ形の木と何かの動物の毛で出来た歯ブラシで歯を磨く。

 歯磨き粉は練りタイプで無く、粉タイプだった。

 意外な事に、地球の歯磨き粉並みに薄荷はっかが効いていて、さっぱりとする。



「しんじおにいたま、きょうはあそんでくれましゅか?」

「今日は特に予定が無いから、剣の鍛錬が終わったら絵本を読んで上げようか?」

「やったでちゅ!」



 機嫌が良いユカちゃんに引っ張られるようにして食堂に着いた。

 だが、両親の姿は有ったが、兄姉の姿が無かった。


「おはようございます、お父様、お母様」

「ああ、おはよう」

「おはよう、2人とも。あら、どうしたの、ユカ? 凄く嬉しそうに見えるわよ」

「おはようごじゃいます! えへへへ、しんじおにいたまがゆかとあそんでくれるといってくれまちた!」

「あら、よかったわね」


 そう言って、母親の美夏ミカさんが笑顔を深めた。

 父親の拓磨タクマさんも思わずといった感じで笑みを浮かべた。

 今日は鎖帷子くさりかたびらを着ていない。見ている限りいつも忙しそうだったが、今日は休みを取るのだろう。


「さて、もうそろそろ信一シンイチ珠子タマコも起きて来るだろう。それまで待つとしようか」

「はい」


 ユカちゃんが自分の幼児用の椅子に座ろうとするのを、シンジ君はごく自然に手伝って上げた。

 その後で自分も椅子に座る。

 うん、俺の子供の頃と同じ顔をしているが、性格がまるで違う。

 勉強も出来て、7歳ながら努力を重ねる事も出来て、社交的で思いやりがある。

 しかも名家と言って良い家柄で、戦闘力に結び付き易いipクラスも高い。

 これは将来、モテる・・・

 唯一の問題が、野性味の有る顔になってしまうという点だな。


 すまん・・・


『え、何か言いましたか?』

『あ、いや、何も無い。気にしないでくれ』

『はい、分かりました』


 危ない、危ない。

 昨日の夜も結構遅くまで話したせいか、シンジ君との繋がりが深くなって来た様だ。

 今も心の中の言葉が伝わってしまった。

 今後は気を付けよう。



「おはようございます」

「寝すぎちゃった・・・ おはようございます」


 5分ほどして、遅れていた兄姉がやって来た。

 なんだか、妙に親近感を抱いてしまったのは仕方の無い事だろう。




 

お読み頂き、誠に有り難うございます。



*本当を言えば、本日は更新する気は有りませんでした。

 むしろ、『俺たちの闘いはこれからだ』のカウントダウンが進んでいました。

 ですが、評価をして頂いた方が居られましたので、急遽閑話的な話を書き上げて公開する事にしました。

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