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第九十七話 思惑

 ――後日、アマルフィー商会の屋敷。


 カイルはアマルフィーにコアスライムを倒したことを報告した。


「素晴らしい!」


 彼は笑顔で拍手しながらカイルを労う。


「これで話を進めることができますね」


 調査報告が済み、両者は今後の展開の打ち合わせに入った。


「先日も話した通り、現在鉱山の所有権はロムリア王国にあります」


「はい」


「この所有権を我々に移してもらうよう交渉しなければなりません」


 アマルフィーは両肘をテーブルにつき、自身の顔の前で両手の指を互いに交差させ、握り拳を作りながら話す。


「我が商会に共同所有を持ち掛けたのは、立ち上げたばかりのあなたの商会の実績と知名度では門前払いされると判断したからですね?」


「はい、その通りです。加えて王国がただで所有権を譲渡するとは思いません。何かしらの条件を要求されると考えました」


「その可能性はあるでしょうね。ですが、カイルさん。今の話し方だと王国を信用してないように聞こえますが?」


 (しまった! アマルフィーさんは王国の役職者ともつながりがあるんだったな。王国に不信感を持っていると思われるような発言は控えないとな)


「失礼しました。そのような意図はないです」


 カイルの返事にアマルフィーの目つきが急に鋭くなった。


「ここからは互いに本音で話しましょう。……実は私、ここ最近の王国の動向には少なからず不信感を抱いています」


 アマルフィーは眉間へ僅かにしわを寄せる。


「何かあったのですか?」


 カイルの問いに彼は自身の経験を交えながら説明した。


「……正直なところ、私も今までの経験からそう思うことはありましたね」


 アマルフィーの話を聞き、カイルも王都での開店申請がなかなか通らなかった出来事を思い出しながら話す。


「やはりカイルさんもそうでしたか。では、ここからはそこも織り込んで話を進めていきましょう」


「はい」


「現状、王国側はスライムの問題は解決していないと認識しているはずです」


 カイルは静かに頷く。


「そこで、こちらからはスライムの話を持ち出さない。なぜだか分かりますか?」


「こちらがスライムのことを知らないと王国側に思わせる。課題を抱えたまま鉱山を譲渡する話は、王国側からすると厄介払いと同時に臨時収入を得る機会になる……ということですか?」


「そうです。王国側に有利な条件になるので交渉にも応じやすいのではないかと考えています」


「その案に私も賛成です」


「後はどちらが交渉するかですが……」


 アマルフィーはカイルの顔をじっと見据える。


 (交渉権……俺が……と言いたいところだが……)


「アマルフィーさんにお願いできればと考えています」


「それでいいんですね?」


 (俺の最優先目的は失った船の支払代金と新たな船の購入代金を確保すること)


「はい、お願いします」


「もう一度聞きますよ。私が交渉するということでいいんですね?」


「はい、構いません」


 カイルは深く頷いた。


 アマルフィーが再度確認したのは、この時点以降、彼が主導権を握ることになるからだ。


 それはカイルも重々把握した上で、主導権を握られ利益が減少しようとも、目的を達成することを優先したかったからだった。


「わかりました。では、この件については私が進めていきます」


「よろしくお願いします」


 ――翌月、王都。


 ロムリア王国の重要役職者たちが集まり定例会議が行われていた。


 この会議にロムリア王は参加していない。


 上がってくる議題には目を通しているが、国家の命運を左右するような重要事項でない限り参加しないのが現国王の方針である。


「――では次の議題に移ります。キンゼート鉱山の所有権譲渡についてアマルフィー商会から提案がありました。何か意見がある方は?」


「あの鉱山は今、一切金を生み出さん。譲渡しても構わないだろう」


 恰幅の良い中年男性が声を上げる。


「その前に一度調査隊を派遣した方がよいのではないか? もしかしたら、すでにスライムはいないかもしれない。いないなら王国で運営した方が利益は大きい」


 今度は別の男性が異議を唱えた。


「その必要はない」


 王国特別顧問のセルバレトが口を開く。


「なぜですか?」


「調査は彼らにやってもらうからだ」


「彼らとは?」


「もちろんアマルフィー商会のことだ。つまり、一度所有権を譲渡して様子を見るのだ」


「一度渡した所有権は特別な理由がない限り再び戻すことは困難だ」


「もう一度所有権を移せばよかろう」


「だから、どうやって?」


「こうやってだ」


 セルバレトは目の前のテーブルに置かれた紙の資料を一枚持ち、両端から力を加えて破いた。


「それはいくら何でも横暴すぎる!」


「なんだ、君は? イラベスク商会に盾突く気かね?」


「くっ……」


 セルバレトへ必死に食い下がっていた男はそれ以上口を開くことはなかった。


「他に意見のある方はいますか? …………誰もいないようですね。では譲渡に賛成の方は挙手をお願いします」


 セルバレトへ食い下がっていた男以外、場にいる全ての関係者が挙手する。


「キンゼート鉱山の所有権をアマルフィー商会及びその他へ譲渡することに決まりました。では次の議題に移ります――」


 決定事項を書記が淡々と記していく。


 ――定例会議から数週間後。


 カイルの事務所にアマルフィーから手紙が届く。


 内容はロムリア王国からキンゼート鉱山の所有権譲渡を認める正式な通知が来たことを知らせるものだった。


 カイルは出資のめどが立ったことを主要メンバーにも伝えると、皆安心した表情を浮かべる。


 後日、アマルフィー商会に訪問し、正式に出資を受けた。

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