第九十六話 コアスライムとの戦闘
カイルは対策を考える。
一向に沈黙が流れた後、カイルが口火を切った。
「……アイリス、俺のショートソードにエンチャントアイスをかけてくれ」
エンチャントアイスを付与してもらったカイルはコアスライムにゆっくりと近づいていく。
「おい、カイル何考えてるんだ? さっき同じようなこと試して効果なかっただろ」
レイジーンの問いかけには答えず、そのまま直進した。
コアスライムに接近するカイルに槍が襲い掛かる。
彼は槍の攻撃を横によけて回避し、すぐさま槍へ反撃を仕掛けた。
ショートソードに触れた槍は氷に包まれていく。
さらにカイルは氷結した槍へ一撃加えると、槍はぼろぼろと崩れ落ちた。
(いける!)
一旦後ろに下がり、三人と合流する。
「対策を思いついた」
カイルは三人に作戦を説明した。
「なるほど、さっきの要領で槍の部分を破壊していくとスライムの体がどんどん小さくなっていくかもしれないってわけだな」
「そういうことだ。ある程度小さくなったらアイリスのアイスアローで四角いのを破壊する」
「わかった。さっそく取りかかろうぜ!」
アイリスはハルドの武器にもエンチャントアイスを付与する。
カイルの予測通り、氷となった槍を破壊していくと徐々にスライムの体が小さくなっていくのが見て取れた。
アイリスは三人を見守りつつ、いつでもアイスアローが放てるように準備している。
カイルたちは順調に攻撃を重ねていくが、突然槍の反撃は止む。
「なんだ? もう反撃してこないのか?」
「油断するなよ。何か仕掛けてくるかもしれない」
レイジーンの反応にカイルは警戒を促す。
カイルたちはしばらく様子を窺うが、攻撃してくる気配は一向になかった。
「どうやら本当に反撃してこないようですね」
ハルドがカイルの顔を見ながら話す。
「アイリス、この状態でアイスアローは四角いのまで届くか?」
「分からないけど、やってみるね」
アイリスは魔法詠唱を開始する。
「アイスアロー」
円錐状の氷の矢がコアスライム目掛けて一直線に飛んでいく。
命中――だが、コアには届かない。
「ハルド、その武器を貸してくれ!」
レイジーンはハルドからメイスを受け取るとコアスライムへ一直線に駆けていく。
「おらぁぁぁ!! 届けぇぇぇ!!」
メイスを両手で握り締め、横振りし氷の根元を叩きつけた。
矢の先端がコアに命中する。
「よし!」
しかし、突き刺さらない。
直後――コアのみがスライムから飛び出し上方へゆっくりと昇っていく。
コアを失ったスライムは、形を保てず水のように地面へと染み込んでいった。
カイルたちはコアの様子を目で追う。
「レイジーン! ダガーを四角いの目掛けて投げつけろ!」
レイジーンは頷きながらダガーを抜く。
落ち着いて狙いを定める。
「……そこだ!」
命中。
コアはダガーが刺さったまま地面へと落下していく。
着地した直後、真っ二つに割れると、それ以上動くことはなかった。
レイジーンはダガーの柄の部分を持ち、拾い上げようとする。
力をかけた瞬間、ダガーの刃がぼろぼろと崩れ始めた。
「すまん、カイル。せっかくもらったダガーが……」
「気にするな」
「そういえば、さっきの衝撃でも刺さらなかったのに、なぜダガーで真っ二つに割れたんだ?」
「このダガーはスライム特効のエンチャントがついてる可能性があった。四角いのに効くかは分からなかったが、もしかしてと思ってな」
「そういうことだったのか。……ところでよー、ここよく見たら所々になんか落ちてるな。さっきのスライムの仕業か?」
「さぁな」
カイルは返事をしながら周囲の地面を見渡した。
それからカイルたちは、各々自由に地面へ落ちているものを物色し始める。
「落ちてるのはゴミばっかだな……おっ! これなんか剣みたいな形してないか? だいぶ錆びてるけどな……」
「レイジーンの新武器にするか?」
「なんかカイル商会ってところ、錆びた剣をブロンズソードとして傭兵に支給するらしいぞ」
「何その商会、潰れそう」
カイルがすぐに反応し、隣で聞いていたアイリスとハルドから笑みがこぼれた。
(潰れそうってところはあながち間違ってないけどな)
「その剣、レイジーンが使わないなら俺がもらっておく」
カイルは錆びた剣をレイジーンから受け取った。
(ファーガストさんのところに持って行ってみるか)
「それじゃー、そろそろ地上へ戻ろうか」
帰りは特に何もなく、無事鉱山の外へ出られた。
――後日、ファーガストの工房。
カイルは先に工房へ寄ってから、アマルフィー商会へ報告しに行くことにした。
工房の中へ入ると、ファーガストが真剣な表情で仕事に打ち込んでいる。
「ファーガストさん、こんにちは」
「おー! カイルか。新店の方は順調みたいだな」
「はい、おかげさまで」
カイルは錆びた剣をファーガストに見せて用件を伝えた。
「だいぶ錆びてるが、なんか珍しい形してる剣だな」
「そう思って持ってきたんです」
「どこで見つけてきたんだ?」
カイルはキンゼート鉱山の地下深くで見つけ、そこは人が踏み入れた痕跡がなさそうな場所だと説明した。
「ふむ……そりゃ発掘武器かもしれないな」
「発掘武器?」
「稀に地層の中から見つかるんだ。もしかしたらあの箱と同じ時代に作られたものかもな」
(あの箱……シフさんから借りてる箱のことか)
「基本的には古い時代に作られたものほど性能がいい」
「それでも、ファーガストさんに作ってもらったこの剣には劣るでしょう?」
カイルは鞘に入れているショートソードに視線を合わせてからファーガストの顔を見た。
「いや、こいつが本物ならそうとも言い切れねー」
ファーガストの返事にカイルは驚く。
「ちなみにこの錆びを取ることはできるんですか?」
「この剣が何なのか俺も興味がある。そこに座ってちょっと待ってろ。やってみる」
ファーガストは椅子を指さしてカイルに座るよう促す。
カイルが椅子に座り遠目からファーガストの仕事の様子を眺めた。
しばらくするとファーガストが戻ってくる。
「ダメだ。全く錆が取れないどころかちっとも削れねー。そもそも錆かどうかも分からねーが……」
ファーガストは悔しそうな表情をしながら話す。
「ありがとうございます。ファーガストさんがやってダメなら諦めます」
「いや、まだ諦めるのは早い。もしかしたらドワーフなら可能かもしれん」
「ドワーフですか。彼らとは面識がありませんが、どこかで会う機会があれば尋ねてみます」
カイルはファーガストに礼を言って工房から出ていった。




