第八十八話 それぞれの帰路
「カイルの剣、刃こぼれできちゃったね……」
「また修理するさ。そうだ! 紹介するよ」
カイルとアイリスはレスタと対面するように移動する。
「ほら、前に特製音玉を売りつけてきたぼったくり商人の話しただろ?」
「あっ!」
声を発した後、アイリスはすぐに両手で口元を抑えて申し訳なさそうな表情をした。
「おいおい、カイル。いったいどんな説明してんだ?」
「すまん」
カイルは無邪気に笑いながらレスタに返事する。
「レスタだ、よろしくな!」
「よろしく、レスタさん。アイリスです」
レスタとアイリスは握手を交わす。
「それにしても、よくカミールを倒せたな」
「いや、それがな……逃げられちまった」
「撃退できただけでも十分だ」
カイルは続けてシフにもレスタを紹介し、同じく握手を交わす。
「そういえばさっき空に浮かんでましたよね?」
レスタがシフへ尋ねる。
「レスタが駆けつけた時は地上で戦ってたはずだ。なぜ知ってるんだ?」
シフが返事する前にカイルがレスタに疑問を投げかけた。
「あれだけ高く浮かんでたら遠くからでも見える」
「空に浮かんでいたのは、このグランフェリオのエンチャント効果だ」
シフは翡翠色の剣身に視線を向けると、カイルたちも注目した。
「エンチャント……噂には聞いていたけど本当にあるんだな。ってことは敵も浮かんでいたのは武器のエンチャント効果ってこと?」
「あの剣はおそらくシュバリオーネだね。けど、判明しているエンチャント効果は確か魔法反射だったはず。彼自身の魔法かもしれないね」
「エンチャントに魔法使いだなんて……ねー?」
レスタは信じられないといった表情をしながらカイルたちの顔を見渡した。
「……あー!!」
「なんだよ、急に大声出して」
「いやいやいや。アイリスさん、思いっきり魔法使ってたの思い出したわ!」
「他言するなよ」
「分かってるって」
カイルがレスタに釘を刺す。
(グランフェリオにシュバリオーネか……ウィルさんから武具の知識は授けてもらったけど、まだまだ知らないことだらけだな。これからもっと知識を深めないとな)
「これから帰って宴会の予定なんだ。レスタもぜひ参加してくれ」
「おー! もちろん! 元々新店祝いのために来たんだからな」
「……レスタ」
カイルの表情から笑みが消え、レスタの顔を見据える。
「なんだよカイル、急に改まって」
「『なぜ俺が王都で店を開くことを知ってるんだ?』」
「いや、それはだな――」
「それよりもっと気になることがある。『なぜ、この場所に俺がいるのが分かったんだ?』」
カイルの言葉を聞いてアイリスとシフの視線がレスタへ向けられる。
「普通にマグロックさんから聞いたんだ。カイルたちと入れ違いだったんだよな」
「……一瞬さっきの奴らの仲間かもと疑ってすまんかった」
カイルの勘違いにアイリスが「ふふっ」と笑う。
レスタは笑みを浮かべながらカイルの横に立ち、右手で彼の左肩をぽんぽんと叩いた。
「新商品たくさん入荷してますよ」
レスタはカイルの耳元でささやき、「にししっ」と笑いながら離れた。
(これはレスタの利益に色付けてあげないとな)
「そういえばシフさん、もう一つ」
カイルがシフに尋ねる。
「ん?」
「さっきの戦闘で剣が何もないところから現れたように見えたんですが、あれも魔法なんですか?」
「そうだね、特定の箱に入れた物を呼び出せる魔法の一種だ」
「なるほど……後で詳しく話聞かせてもらっていいですか?」
「構わんよ」
「ありがとうございます」
(……あれは?)
カイルは金属のようなものが闘技場舞台の上で光っているのが視界に入る。
近づいて確認すると、それはサークリーゼに突き刺さっていたダガーだった。
ダガーを拾い上げて自身のバッグの中にしまう。
「それじゃー、そろそろ王都に戻ろう」
「うん……あっ! ちょっと待ってカイル」
「どうした?」
アイリスはカイルたちから離れ闘技場の舞台から降りる。
彼女の向かった先はレイジーンが倒れている場所だった。
「カイル、この人まだ生きてる……」
その言葉を聞いてカイルもレイジーンの元へ歩き出し、アイリスの隣に立つ。
「………………ヒーリアの魔法をかけてやってくれ」
「いいの?」
「あぁ」
アイリスは治癒魔法を詠唱し始めた。
「終わったよ」
「ありがとう」
カイルはさっき回収したダガーをバッグから取り出し、レイジーンの傍の地面へ垂直に突き刺した。
「せっかく戻ってきたのにあげちゃうの?」
「これでいいんだ」
カイルたちは王都への帰路についた。
――王都到着後、カイルの新店前。
「おかえりなさい!」
カイルたちが店の前へ到着したことに気付いたクルムは笑顔で出迎える。
「おー! クルム元気そうだな!」
「はい! カイルさん、そのー……大丈夫だったんですか? 心配しましたよ」
「もう、ほんと心配したんだからー」
カイルの隣でアイリスが頬を膨らませている。
「あー、すまんかった。もう大丈夫だ」
「よかった。みんな早く帰ってこないかなーって思って宴会の準備少し始めちゃいました」
「ありがとな」
「じゃー、私も手伝うね」
クルムとアイリスは店内に入っていった。
「カイル」
「なんだレスタ?」
「あのクルムって男の子も店のスタッフなのか?」
「そうだ」
「アイリスさんはともかく、あんな小さい子に店を任せて大丈夫なのか?」
「仕事は一通り覚えている。数年後は立派な商人になってるかもな」
「へー、そいつは楽しみだな」
「それじゃー、俺たちも宴会の準備手伝うか」
カイルたちも店の中へと入っていく。
――夕方。
明かりが灯る建物が増えていく。
店の一階で宴会の準備が整いつつある頃、誰かが店の扉をノックする音が店内に響く。
カイルは扉を開けると外にはマグロックが立っていた。
「カイルがここにいるってことは問題は解決したってことだな?」
「はい、少なくとも王都襲撃は阻止できたはずです。それよりマグロックさん、もう動いて大丈夫なんですか? 無理しないでください」
「大丈夫だ、気にすんな。この通り、今はすっかり元気だ。ところでレイジーンには会えたのか?」
「その辺りは話すと長くなりますので後日ゆっくりと」
「わかった。……おっ! なんか楽しそうな雰囲気じゃねーか」
マグロックが上半身を少し傾けて、店の中の様子を確認しながら話す。
「ちょうどいい機会なんで、一緒に宴会しませんか?」
「おー! そうさせてもらう」
カイルはマグロックを店内へと案内する。
「おっ! なんだ、レスタも来てたのか」
「あー! マグロックさん、ちーす」
レスタは笑顔でマグロックに返事する。
マグロックはその様子を見て微笑みながら、テーブルに備え付けられた椅子に座った。
「お料理できたよー」
アイリスが完成した料理を次々と運んでくる。
運ばれてくる料理はどれも食欲をそそる美味しそうな香りを放つ。
「美味そうだなー! これお嬢さんが作ったのか?」
マグロックがアイリスに話しかける。
「そうですよ、お料理は得意なんです」
「こりゃ楽しみだ!」
「エリスがここにいないのが残念だね」
シフがクルムに優しく話しかける。
「今度はお姉ちゃんも連れてきてみんなで宴会したいですね」
カイルたちも料理を運ぶのを手伝う。
カイル、アイリス、クルム、シフ、レスタ、マグロックの六人がテーブルを囲み宴の準備が整った。
宴が始まると各々自由に会話を始める。
楽しい宴は続き、さらに夜は更けていく。
――一方、空が茜色に染まり始めた闘技場。
レイジーンの意識が徐々に戻っていく。
(こ、ここは……? そうか……途中で意識を失って……それで……あの傷でまだ生きてるとはな……)
ゆっくりと瞳を開け、自身の体の状況を確認する。
(傷が治っている? それに痛みもない。なぜだ?)
レイジーンは首を動かし周囲の状況を確認すると、地面へ垂直に刺さっているダガーが視界に入った。
(…………そうか、カイル……)
ダガーを地面から引き抜き鞘に入れ、ゆらりと立ち上がった。
周囲にはすでに誰もおらず、レイジーンが独り佇む。
風が吹くと草木が揺れ、小鳥のさえずりが微かに聞こえる。
(ソフィナ、今戻るからな)




