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第八十五話 交錯

 カイルを乗せた馬車は王都の出入口まで来ていた。


 (リリメント遺跡なら、ここから馬車で一時間もかからないはずだ)


 カイルは遺跡の入り口に到着すると馬車を下り、内部へと入っていく。


 リリメント遺跡は平原に佇み、古代都市の遺構群で構成されている。


 遺跡内は風化が進んでいるが、石で造られた神殿や闘技場などの一部はそのまま残っていた。


 さらに、この遺跡には地下へと続く入り口が地表に十数カ所ある。


 複数の入り口は中でつながっており、また非常に入り組んでいる。


 広い空間も存在し、潜伏するにはうってつけの場所だった。


 以前は観光地として賑わっていたが、いつからかモンスターが住み着くようになり寄り付く人がいなくなる。


 ロムリア騎士団は優先順位が低いことを理由に全く対処せず長らく放置していた。


 その間にモンスター達はサークリーゼ達によって討伐され、そのまま拠点として活用されることとなった。


 カイルは警戒しながら、周囲の様子を窺う。


 道は草木の手入れが全くされていないが、歩行を妨げるほどではない。


 (今のところ人の気配はないな。地下にいるのか?)


 さらに慎重に歩みを進め、円形の闘技場付近までやってきた。


 円形の中央に舞台があり、周囲を観客席に囲まれる構造になっている。


 また、観客席は観客が正面の観客の頭で視界が遮られ舞台が見えにくくならないよう階段状となっていた。


 (一番上の観客席まで登って周囲を確認してみるか)


 カイルは闘技場の中へと入っていく。


 内部に入り、舞台に上がる。


 そのまま舞台の中央に向かって歩く。


 中央まで来た時――。


「よー、また会ったな。カイル」


 カイルは足を止めて声の発せられた方へ視線を向ける。


 しかし、影に隠れて姿がはっきり見えない。


 その人物はカイルに向かって歩き始める。


 近づくにつれ影は消えていき、次第に姿が露になっていく。


「……レイジーン!」


 レイジーンは歩みを止めず、カイルに向かって真っすぐ進み舞台へと上がる。


 二、三歩進み、そこでようやく歩みを止めてカイルと対峙した。


「マグロックは元気にしてるか?」


 レイジーンはカイルに対してまるで久しぶりに会った友人のように話しかけた。


「あんたが! あんたがマグロックさんを襲ったんだろ!」


 カイルはレイジーンを睨みつける。


「……なんだバレてたのか。ってかお前もそんな表情できるんだな。ただのお人好しかと思ってたぜ」


 彼は悪びれる様子もなく淡々と話す。


「……レイジーン、あんたはガストルさんだけでなくマグロックさんまで!!」


「そうカッカすんな。お前もすぐ二人に会わせてやるからよ」


 カイルは鞘からショートソードを抜きレイジーンとの戦闘態勢に入る。


「レイジーン、あんただけは許せない……」


「俺だけだと? 勘違いするな」


 レイジーンの背後から別の男の声が聞こえてくる。


 新たな声の主も舞台へ上がり、レイジーンの隣へ並び立つ。


「二対一だ」


 カミールはカイルに冷たく言い放つ。


 (カミールもいたのか。二人同時に相手するのは厳しい)


 レイジーンとカミールは剣を抜く。


 (何か対策は? ここは一時撤退か)


 傭兵二人がカイルへゆっくりと間合いを詰め始めた。


 それに合わせてカイルは一歩ずつ後ろへ下がり、間合いを詰めさせないようにする。


 闘技場の舞台は静かな緊張感に包まれた。


「あのー、先輩方、俺も混ぜてもらっていいですかね」


 突如、聞こえてきた声によって張り詰めた緊張の糸が断ち切られる。


 声はカイルの後方から聞こえてきた。


 レイジーンとカミールは声のする方へ視線を向け、カイルは後ろを振り返る。


 元ギルド マグロックの商人レスタだ。


 彼は前進し舞台に上がると、カイルの横へ並び立った。


「おー、カイル。先輩達にいじめられて困ってるみたいだな」


 カイルへ無邪気に話しかけた。


 (なぜレスタがここへ? ……だが今は、レイジーンとカミールへの対処が先だ)


「どうしてここに来たのかって顔してるな。俺がここに来たのは――」


「それは後で聞く。レスタ、手を貸してくれ」


 カイルの要望にレスタは何か言いたげな目で彼を見る。


「……特製音玉だったか? 思いの外よかったぞ。再購入希望だ」


「へへ、商談成立。毎度ありー!」


 カイルとレスタは、レイジーンとカミールの方へ体を正面に向けて対峙する。


「なんだよ、懐かしい面子が揃ったじゃねーか」


 レイジーンは乾いた笑いをしながら二人を見据えた。


「これがギルドの仕事での再会だったら良かったんですがね」


 レスタは苦笑しながらレイジーン達へ返事する。


「で、カイルどうするんだ?」


 レスタが隣のカイルに尋ねた。


「俺がレイジーンの相手をする」


「分かった、ならカミールは任せろ」


 互いの分担を確認すると、レスタは鞘から剣を抜き構える。


 レスタの武器は、以前所持していたダガーからショートソードに変わっていた。


「多少戦闘ができると言っても、たかが商人二人。傭兵二人を相手に勝てると思うな」


 カミールが二人に言い放つ。


「そんなのやってみなきゃ分かりませんよ!」


「カミール、カイルの狙いは俺だ」


「ならレスタは俺が引き付ける」


 カミールはそう告げると、レイジーンから離れ後方へと下がっていく。


 その様子を見ていたレスタはカミールを追って一気に駆け出す。


 レイジーンはレスタに攻撃はしかけず、カイルを真っ直ぐ見据える。


 レスタとカミールは闘技場の外へ出ていき、カイルとレイジーンの視界から消えて行った。


「あっちは始まったぞ。……俺達も始めるか」


「レイジーン!!」


「カイル!!」


 両者怒号を放つ。


 先に仕掛けたのはカイルだ。


 行商人を始めた頃、盗賊相手であっても人間を傷つけることには抵抗があった。


 今のカイルには躊躇いは全くない。


 カイルの剣筋はレイジーンの体を的確に捉える。


 レイジーンはその剣さばきに驚嘆しつつ、間一髪で回避した。


 (こいつ前と動きが違う!)


 レイジーンも素早く反撃に移り、連続で斬撃を繰り出す。


 (剣筋が見える)


 カイルは彼の全て斬撃を回避した。


 レイジーンは一旦間合いを取る。


「へー、前よりできるようになってんじゃねーか。商人は辞めて傭兵にでもなったのか?」


「あんたの腕が落ちたんだろ」


「……カイル……言うようになったじゃねーか!」


 レイジーンは間合いを詰め、渾身の袈裟斬りを放つ。


 カイルはひらりとかわす。


 即座にレイジーンへの反撃。


 レザーアーマーを掠る。


 (直撃は避けられた……こいつ……やはり以前より剣の腕が上達している)


 レイジーンは再びカイルから間合いを取り、一旦体勢を立て直す。


 双方、同時に間合いを詰め、斬撃の応酬を繰り広げる。


 一進一退の攻防で互いに決定打は見いだせていない。


「あんたには、これ以上好き勝手させない!!」


「俺にも譲れないものがある!!」


 両者の剣が交差し、空気を切り裂くような金属音が闘技場に響き渡る。


 互いの鋭い視線が激しくぶつかり合い、今にも火花が迸りそうだった。


「お前のように適当に生きてる訳じゃねーんだ!」


 レイジーンは言い放つ。


「俺はあんたほど日和見じゃない!」


 重なる互いの剣は前へ押し出そうと牽制し合う。


「知った風な口を! 何かに全てを賭ける……お前にその覚悟があるのかよ!」


 言葉が頭を駆け抜ける。


 (……!)


 カイルの思考が乱れた。


「隙だらけなんだよ!」


 レイジーンは右足で回し蹴りを繰り出す。


 反応が遅れたカイルの横腹に――命中。


 カイルは苦痛で顔を歪めながら体勢を崩した。


 その隙をレイジーンは逃さない。


 剣を振り下ろす。


 カイルもすかさず剣を振り上げる。


 剣同士がぶつかり金属音が響く。


 二人の周囲に漂う空気が震える。


 カイルは一旦後ろへ下がって仕切り直す。


 (覚悟……)


 レイジーンの言葉から尋常ならざる気迫を感じ取る。


 剥き出しだったレイジーンへの怒りの感情が、すっと鳴りを潜めた。


 カイルの心をかき回す荒れ狂った波は、緩やかな漣へと変わり始める。


 (カイルはもう一人じゃない)


 直後、アイリスの言葉がカイルの心へ響き渡った。


 (……そうだな)


 今まで出会った人々、助け合った仲間の笑顔が胸中をかすめる。


 (俺も覚悟はできている!)


 心は漣から波一つない湖畔のように移り変わり、いつもの冷静さを取り戻しつつあった。


 カイルはショートソードを固く握りしめ、レイジーンを見据える。


 レイジーンは何か仕掛けてくるであろうカイルを警戒し構えた。


 カイルはショートソードを鞘に納めてレイジーンへ駆け出す。


 (あいつ遂に怒りで我を見失ったか)


 レイジーンはカイルが剣の間合いに入る瞬間を冷静に見極める。


 カイルはレイジーンに手が届く距離まで接近。


 剣は抜かずに懐へ飛び込む。


 (何!)


 斬りかかってくると予想していたレイジーンは、反応が遅れカイルに後ろへ押し倒される。


 (後頭部へのダメージはまずい!)


 レイジーンは咄嗟に首を動かして後頭部が地面に叩きつけられるのを回避した。


 仰向けに倒れ、カイルが覆いかぶさる。


 すぐさまカイルのパンチが顔面に襲い掛かった。


 頬に命中。


 続けてカイルは左手から二発目、右手から三発目を繰り出す。


 全て命中。


「こんのぉ野郎ぉ!」


 レイジーンはカイルの腹を右足で蹴り上げた。


「ぐぁぁ!」


 上下が逆転し、今度はレイジーンがカイルに覆いかぶさる。


「おらぁ!」


 レイジーンはカイルへ殴りかかる。


 命中。


 さらに二発目も命中。


 三発目を繰り出す直前にレイジーンの腹を蹴り上げる。


「がぁぁ!」


 カイルはレイジーンが離れた隙に素早く立ち上がり後ろへ下がって間合いを取る。


 しゃがんで痛みに耐えていたレイジーンもカイルを見据えながら立ち上がる。


 二人の息は上がり始めていた。


「……カイル、これ以上お前に付き合っている暇はない」


「俺もだ」


 互いに剣を構える。


 対峙する二人は微動だにしない。


「……」


「……」


 一陣の風が闘技場を駆け抜けた。


 両者は一気に距離を詰める。


 間合いに入ると同時に斬撃を繰り出す。


 互いの剣筋が重なる。


「甘いんだよ!」


 剣を受け止めると予測していたレイジーンは自身の剣を滑らせる。


 (くっ!)


 剣先がカイルを襲った。


 レザーアーマーが斬り裂かれる。


 刃の勢いは止まらず、カイルの体をも傷つけた。


 傷は浅くない。


 (ここで……!)


 カイルはそのまま崩れ――ることなく踏みとどまる。


 レイジーンの懐に入っていた。


 斬撃一閃。


 レイジーンの腹を捉え――直撃。


 悲鳴のような叫びが闘技場に響き渡り、苦痛の表情を浮かべた。


 カイルは確かな手ごたえを感じる。


 直後、そのまま倒れるかに見えたレイジーンは右手を自身の腰に当てた。


 次の瞬間、カイルの太ももに激痛が走る。


「ぐっ!!」


 ダガーが刺さっている。


 腰に備え付けた予備武器での攻撃だった。


 太ももからじわりと血が滲み広がっていく。


 レイジーンは刺されたダガーを引き抜くと、カイルはそれを目で追う。


 (あのダガーは!)


 ダガーに施された装飾から、以前レイジーンとの戦いで落としたファーガスト製ダガーだと確信した。


 カイルはレイジーンが繰り出す次の一手を警戒する。


「ふっ……」


 レイジーンは一瞬ニヤリと口元を動かした。


 そして、一矢報いてやったとばかりな表情をしたのを最後に、カイルへの戦意を失う。


「……俺の負けだ……」


 彼はダガーを鞘にしまい、それ以上戦いの意思がないことを示す。


 カイルもレイジーンの様子と言葉から判断して構えをゆっくり解いた。


 レイジーンは、舞台から降りると観客席の方へと重たい足取りで移動し始める。


 歩いた跡には自身の血がぽつぽつと雨が降ったようについていた。


 彼は観客席へ上がる階段の横にある壁へ背を持たれて座る。


 その様子を目で追っていたカイルはレイジーンに近づいていく。


 カイルはレイジーンの正面に立つと、彼を見下ろして問いかける。


「なぜマグロックさんを……なぜガストルさんを襲った?」


「……どうしても大金が……必要だったんだ……妹を助けるためのな……」


「妹?」


「そう……病弱の妹をな……ふっ……俺もこの通り……長くない」


 レイジーンは自身の体から流れ出る血を眺めた。


 (ソフィナ……兄ちゃんは先に逝って待ってるからな)


 再度ゆっくりとカイルに視線を合わせる。


「あんたにも事情があったかもしれない。だが、あんたのやったことを俺は許せない」


「…………そうだな…………」


「…………」


「……カイル……最後の頼み聞いてくれ……」


「………………なんだ?」


「……俺の妹に伝言を――」


 二人の会話に突如、新たな声が加わる。


「おやおや、レイジーン。なんですか、その無様な恰好は?」

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