第八十二話 密議
――数か月後。
カイルとアイリスは王都に来ていた。
今日は三号店が完成する日である。
ロムトリアの一号店は無事軌道に乗った。
ポートリラの二号店も最初は苦戦したが、最近ようやく軌道に乗り始めてきている。
カイル達は完成した店の確認を済ませると工務店へ残りの代金を支払った。
「カイル、遂に王都へ出店できたね! おめでとう!」
「ありがとう!」
「クルムとエリス達が聞いたらきっと喜ぶよ!」
「そうだな。クルムには店の完成予定日を伝えてあるから、そろそろ着く頃だ」
「着いたらお店に商品並べるの手伝うね」
「頼む。それとここで仕事してもらうスタッフも採用済みだ」
「おー、随分手際が良くなっておりますなー」
「三店舗目だからな」
二人は店の中へと入っていく。
店はロムトリアと同じく二階建てになっている。
一階が店舗で二階の部屋は寝泊りに使用できるようにした。
カイルは二階に上がり、部屋の窓から外の景色を眺める。
道は石畳で綺麗に舗装されており、それを挟んだ両側には新築物件が軒を連ねていた。
ここが以前は更地だったと聞いても、にわかには信じられないほどである。
新エリア全体が王都の更なる発展の活力として新たな息吹をもたらしていた。
――夜。
カイルは二階の部屋で机を正面にして椅子に座っている。
机には紙とペンの他にランタンが置かれ、彼の周囲を明るく照らしていた。
(三店舗出店の目的は達成できたな)
幸い、どの店舗もうまく運営出来て利益も出ている。
開店当初は赤字が発生することも覚悟していたが今のところ、その兆候はない。
(いい流れだ)
しばし達成感に浸った後、カイルは目の前に置いているペンを右手に持つ。
このペンはクルムとエリスから新しく貰ったものだ。
今後の方針を決めるため、頭に浮かんだことを紙に書き出し始めた。
(さらに店舗数を増やすか? 既存の業務効率化を図るか?)
これ以上店舗数が増えると、店舗の確認や管理が大変になる。
現状の三店舗でも手一杯だと感じていた。
(何か仕組みを考えるまで店舗数は増やせないな)
カイルは業務効率化を優先することにした。
具体的には海上運搬の効率化を図りたいと考えている。
これは以前から検討していたことだ。
実現するには大きく二つやるべきことがある。
一つ目は船の調達だ。
ここについては、ある程度資金を集めて中古船を購入しようと考えている。
二つ目は船所有の許可を得ることだ。
ロムリア王国では、船の所有はギルドか商会にしか許可されていない。
ギルドは荷物の運搬からモンスター退治まで請負い、基本何でもこなす。
基本加入金が発生する。
対して商会は商取引のみを行う。
加入金は発生しない。
昔は、このように役割が分かれていたが、現在では名称のみ名残として残っている。
つまり、ギルドと商会どちらを名乗っても良い。
(立ち上げるとしたら……商会の方がしっくりくるかな)
マグロックはギルド、アマルフィーは商会をそれぞれ立ち上げていた。
(名称だけのことだが……一度、二人の意見も聞いてみよう)
カイルは明日、まずはマグロックの事務所を訪問することに決めた。
(また許可を巡って一悶着なければいいが……)
今後の方針が決まり、紙とペンを片付けてランタンの明かりを消す。
ベッドに入り目を閉じると、すぐ眠りに落ちた。
――時を同じくしてロムリア王国領内某所。
薄暗い部屋の中に二人の男性が椅子に座り、テーブルを囲んでいる。
「サークリーゼ様、ロムリア城襲撃の準備は順調に整いつつあります」
「バティスさん、今までご苦労様でした」
バティスと呼ばれた男は元イラベスク商会の人間である。
彼は商会の出世競争に敗れた。
それだけならよくある話だが、彼は不正行為の濡れ衣まで被せられてしまう。
当時の仲間達は一切誰も庇ってくれず、追い出される形で商会を去った。
今から約四年ほど前の話である。
二十代後半独身の彼は運が悪かったと踏ん切りをつけ、新たな人生を模索し始めた。
そんな矢先、事態は一変する。
ある日、謎の刺客に襲撃されたのだ。
軽傷は負ったが、何とか命からがら逃げおおせた。
襲撃されるほど人から恨まれる覚えはない。
そこまでして排除したいと考える存在、心当たりは一つあった。
バティスはイラベスク商会の関係者だと直感する。
ただならぬ異変を感じ取ったバティスは、ロムリア王国を去って行方をくらます。
商会に立ち向かうには、一人ではあまりにも無力だった。
王国を去り、もう商会とは一切関わりたくないと思っていたところ、サークリーゼと出会う。
最初は彼が何を考えているのか理解しかねていた。
しかし、交流を深めるうちに彼もイラベスク商会と何かしら因縁があることが分かる。
サークリーゼの冷たい瞳の奥に灼熱の炎が渦巻いているのを見たバティスは、彼の魅力に取りつかれ始めた。
同時にバティス自身にも商会に対する復讐心が湧き上がってくる。
彼と共になら商会へ一矢報いることができるかもしれないと。
バティスは主に活動資金、情報面で組織を支えている。
エンボリオ火山の施設やイラベスク商会会長の別荘を襲撃できたのも彼の情報提供によるものだった。
「サークリーゼ様。あなたがいなければ、ここまで計画を進めることはできませんでした」
「あなたの情報収集力もなかなかのものですよ」
彼らはロムリア王国とイラベスク商会が癒着関係にある事を掴んでいた。
これは商会が不当に利益を得る代わりに、国民が理不尽な損失、不利益を被ることを指している。
サークリーゼ達は支援者と共に王都ロムヘイムスのロムリア城を襲撃する予定だ。
当初は商会のみを潰そうとしていたが、大元の王国を変えない限り、別の商会と癒着を始めるだけだという結論に達した。
彼らは国の中枢機能、権力を掌握した後、商会との癒着関係を国内に公表する。
商会へ断罪を下し、王国が腐敗していることを明るみにして国の在り方を国民に問うのだ。
もちろん、彼らの個人的な復讐も含まれているが、何より大衆を動かすには大義名分が必要である。
「ありがとうございます。支援者は数百人規模になる予定です」
支援者の多くは王国に不満を持つ者が中心であり、中には王国の重要な役職に就いている者もいる。
バティスはこつこつ情報を集め、秘密裏に彼らとの接触を図っていた。
「数百人ですか……」
「ただ一つ懸念が……我々の行動を嗅ぎまわっている人達がいるようです」
バティスはサークリーゼへ対象者の情報を話した。
「その対応はこちらでなんとかしましょう」
「ありがとうございます。ではロムリア城の襲撃決行日は一週間後、それまでにお願いします」
バティスがこの日を選んだのは、ロムリア騎士団の主力が王都を離れるという情報を入手したからであった。
サークリーゼはバティスへ無言で頷き返事すると、椅子から立ち上がり部屋から出て行った。
「――ということですので頼みましたよ、レイジーン」
レイジーンはサークリーゼから対象者の名前を聞いて一瞬眉をしかめた。
「ん? どうかしましたか?」
「……いえ、襲撃決行日までには必ず!」




